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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第三章 過去からの悲劇
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第二十八話 勇気

 ぼくより遅れて帰ってきたスター、ルーク、ピンクちゃん。中学校で部活があったためか夕方頃に帰ってきたルミちゃん、ロイ君、ラギ君。みんな、孤児園に入ってカイ君を目にすると、驚きや喜びの声を上げた。シン君だけは、何も言わずに二階に上がって行っちゃったけど。

 園長先生が夕食を作っている最中、カイ君とピクちゃんはさっきあった出来事を楽しそうに話していた。


「手紙からね、カー君のお母さんが出てきたんだよ!」

「映像だったから、触れなかったんだよなぁ。あー、記録魔法だっけ?」

「うん。手紙に、メッセージを記録してたんだって!」

「ロイ、そんな魔法があるのか?」

「ああ。俺は使えないけど」

「へぇ、そうなのか」

「それで、カー君は元気になったんだよ! お母さんの分まで生きる! ってね」

「おう!」


 カイ君が自慢するかのように返事をする。それを見て、ぼくの隣にしたスターが呆れたような声を出した。


「それだけで立ち直るとか、カイ君って単純だね~」

「単純だからすぐ立ち直れたんじゃない?」

「ま、そうなんだけどさ」

「あ、そうだ。もうカイ君の心に絶望はないよね?」

「うん。今は希望で染まってるよ~」


 希望かぁ……よかった。これでスターもルークも倒れることないね。


「そんなの、ルーク見てればわかるでしょ~?」

「そうだけど、確認したかったんだ」


 スターから視線を外し、ルークに目を向けた。スターが言っていたように、ルークを見ればカイ君の心に絶望がないことはすぐにわかる。ルークとカイ君は、いつものように漫才みたいな会話をしているから。その周りにいるみんなも笑顔。カイ君はムードメーカ的な存在なんだなぁと、改めて実感する。

 そんな風にみんなを観察していると、一人だけ輪から離れている人がいることに気づいた。ラギ君だ。壁により掛かってカイ君を眺めているけど……なんか考え事しているようにも見える。……あ、目があった。

 ラギ君はフッと笑みを零し、ぼくの隣に来た。


「嬉しそうだな」

「うん。ラギ君は嬉しくないの?」

「いや、嬉しいよ。……カイは、強い心を持ってるんだな。おれも……」


 ぽつりと、ラギ君が呟く。だけど、後半は聞き取れなかった。ぼくは何を言ったのか気になり、首を傾げてみる。


「ん?」


 すると、ラギ君は顔を上げてぼくと目を合わせた。あまりにも真剣なその目に、思わず背筋が伸びる。

 ぼくの次にスター、それからカイ君達の方に目線を移動させたラギ君はすぅっと息を吸い、凛とした声を発した。


「みんな、聞いて欲しいことがある」

「……?」


 会話をやめ、声の主に首を巡らすカイ君達。ラギ君は少し間をおいてから、今度は絞り出すような声で言った。


「おれは……カイの親を見殺しにした」

「……!?」


 突然の自白にぼくは息を呑んだ。他のみんなも、何も言えずに固まっている。静まりかえるリビング。

 最初に沈黙を破ったのは、カイ君だった。


「どういう事だ?」


 その声は、すごく冷静だった。慌てるわけでも怒るわけでもなく、純粋にラギ君の言葉の意味を訊いている。

 ラギ君は俯いた顔を上げると、ぼく達を見渡した。


「少し長くなる。信じられない話かもしれないが、落ち着いて聞いて欲しい。まず、おれには予知能力がある」

「予知能力……?」


 ピクちゃんの呟きに頷いたラギ君は、予知能力の説明を始めた。それによると、予知能力はその名の通り未来を予知できる能力で、生まれた時から備わっていたらしい。だけど、見たい時に見られるわけではなく、唐突に予知映像が流れるみたい。


「孤児園に来るまではあまり発動しなかったんだが、孤児園に来てからはよく見るようになった。おれは、それでみんなが危険な目に遭う所を見たんだ」


 ラギ君は言った。ぼくとシン君が戦うところ、ロイ君の親戚の人がいた工場が爆発するところ、ハートちゃんが殺されるところ、カイ君のお母さんが殺されるところ、そのすべてを予知能力で見たと。

 信じられなかった。でも、ラギ君の言っていることが嘘とも思えなかった。そこで、そう言えば、と思い出す。ハートちゃんが殺された日の朝、ラギ君は慌てて外に飛び出していった。あれは、予知能力でハートちゃんが殺されるところを見て、助けに行こうとしたんじゃないかな。

 ぼくが考えている間にも、ラギ君は言葉を続けた。


「予知能力でみんなの危険を知っても、おれは動けなかった。だから、見殺しに……」

「なんで言ってくれなかったの!?」


 いきなり、ピクちゃんが声を上げた。その表情は、ラギ君よりも辛そうだった。その顔を見て、ラギ君は睫毛まつげを伏せる。


「ごめん……」

「言ってくれれば、一緒に助けられたかもしれない」


 ピンクちゃんがそう口にしたが、ラギ君は首を横に振った。


「例えそう考えたとしても、おれは予知できることを話さなかったよ」

「なんで?」


 ぼくが訊ねると、ラギ君はまた顔を下に向けてしまった。あ……聞いちゃいけないことだったのかな。でも、ここまで話してくれたのならすべて話して欲しい。

 思いが届いたのか、ラギ君は少しだけ目線をあげて口を開いてくれた。


「シンに……脅されていたから……」

「シンに? なんでだ?」


 今度はカイ君が質問する。ラギ君はそこでぐっと言葉を詰まらせた。言おうか迷っているのか、言いにくいことなのか、黙り込んでしまう。その唇は、半開きになって小刻みに震えていた。けれど、ラギ君はすぐにぎゅっと拳を握り、掠れた声を出した。


「おれは、自分の母親を誤って殺してしまったんだ。そこを、シンに見られてて……」


 思い出しながら話しているためか、ラギ君の声はとても苦しそうだった。そして、内容もとても辛い物だった。なんと、孤児園に来る数日前にお母さんと喧嘩して、交通事故に遭わせてしまったらしい。そして、そこをシン君に見られてたとか。その時ラギ君は妹さんを捜して、警察に捕まることを恐れた。そこでシン君に、殺しがあったことが広まらず、この町に来られる方法を教えてやると言われ、咄嗟に返事をしてしまった。代わりにシン君の言うことを聞かなければいけなくなったラギ君は、予知能力のことを誰にも言うなと言われ、それに従っていた。それ以外の命令も聞いていたみたい。


「それこそ、ぼく達に相談してくれればよかったのに……。シン君にばれなければ……」

「いや」


 ラギ君がぼくの言葉を遮る。


「シンはすごく勘がよくて、あんな大きな魔法を使える。だからすぐばれるし、ばれたらどうなるかわからない。それに……おれは、怖かったんだ」


 ラギ君はその黄色の瞳にぼくを映し、弱々しく微笑んだ。


「おれが人殺しだってわかったら、みんなおれを避けるかもしれない。恐怖の目を向けられるかもしれない。そう思って……ごめん……」


 言い終わると、ラギ君はまた視線を床に向けた。口を閉ざし、判決を待つかのようにじっとしている。その様子に、ぼくは胸が締め付けられるようだった。苦しい、悔しい、辛い、怖い――。そんな思いが伝わってきたんだ。

 ラギ君はいつもぼく達のお兄ちゃんみたいで、みんなのことを優しく見守っていて、こんな風に自分のことを話すことはなかった。だから、悩みなんて抱えていないのかと思ってた。あっても、自分一人で解決していってるんだと思ってた。でも、違ったんだ。誰にも相談できない事があって、ずっと悩み苦しんでいたんだ。それなのに、いつも笑顔でいて……ラギ君。気づけなくて、ごめんね……って、心の中で言っても意味ないよね。ちゃんと、口で伝えないと。

 ぼくは笑顔で口を開こうとして……先を越されてしまった。カイ君が、ラギ君に歩み寄ったのだ。「ラギ」と名前を呼ぶカイ君に、恐る恐るといった感じでラギ君が顔を上げる。二人の目があった途端、カイ君はにっと笑みを浮かべた。


「んな顔すんなよ!」


 バン! とカイ君がラギ君の肩を叩く。ラギ君は目を見張り、訳がわからないといった表情を見せた。ぼくも一瞬驚いたけど、すぐにカイ君の台詞を聞いて微笑した。


「オレは怒ってねーよ。ラギをこえーとは思わねーし、避けたりもしねぇ。だって、ラギがほんとーに悪い奴だったら、こうやって謝ったりしねーからな!」

「え、でも、おれは見殺しに……」

「ラギ君は、見殺しにしようと思って見殺しにしたの?」


 戸惑うラギ君に、ピンクちゃんが問いかけた。ラギ君は慌てて否定する。


「そんなわけないだろ!」

「だったら、そこまで深く考えることはないよ」

「え……」


 いまいち何を言われているのかわからないみたい。ラギ君はきょとんとしていた。ぼくは、そんなラギ君に笑いかける。


「ラギ君が罪の意識を感じるのはわかるよ? でも、助けられなかったのは仕方なかったんだよ」

「仕方ないって……それで片付けられるような問題じゃ……」

「確かにそうだよ。でも、ラギ君が悪いわけじゃない。ねえ、もしもラギ君がぼく達に予知能力のことを話していて、シン君の命令に従わなくてもいい状況だったら、ハートちゃんやカイ君のお母さんを助けられていたのかな?」

「……助けられない」


 ぼくは小さく頷く。相手はあのシン君だし、助けに言ったらぼく達が殺されていたんじゃないかと思うんだ。

 それに、ラギ君は予知能力とはいえ人が殺されるところを見て苦しんでいた。それなのに、ぼくはそんな事を知らずにのんきに過ごしていた。だから、ぼくも罪の意識を感じているんだ。

 それを伝えると、ラギ君は首をぶんぶんと横に振った。


「そんな、ソラには予知能力がないんだから仕方がないだろ」

「そう。だから、お互い様なんだよ」

「……あ」


 ラギ君、自分が言った言葉に気が付いたみたい。そうだよ。今まであった辛く、悲しい出来事を防げなかったのは、全部仕方がなかったんだ。ぼく達が悪い訳じゃない。ぼく達は被害者だし。

 今、ぼく達がすることは過去の出来事を振り返って、後悔する事じゃない。次また誰かが殺されないように、犯人――シン君を止めることを考えるべきなんだ。


「そうか……」


 ラギ君は納得したように頷くと、ぼく達を順番に見た。そして、口元にいつもの笑みを灯す。


「みんな……ありがとう」

「……もー、ラギ! びっくりしたよ!」


 さっきまで不安そうにしてたピクちゃんが、安堵の息をつきながらラギ君に声を掛けた。ラギ君は笑顔で「ごめんごめん」と返す。

 その隣で、ルークがカイ君に感嘆の声を上げていた。


「カイ……成長したんだな」

「そうだぜ! へへっ、どうだ!」

「成長してなかったね」

「なんでだ!?」


 スターに突っ込むカイ君も、いつも通りだった。その三人の向こう側にいるロイ君とルミちゃんも、ラギ君やピクちゃん、ピンクちゃんの会話に混じって楽しそうにしている。やっぱり、こういう雰囲気が好きだなぁ。

 ふと、キッチンを見ると、園長先生と目があった。先生は、ぼくに向かって笑いかけてくれた。よかったね。そう言ってくれているようで、なんだか嬉しくなった。


「ソラ、何にやにやしてるの~?」

「何でもないよ」

「ふーん。それよりさ、ラギ君と話している時のソラ、何か雰囲気違ったよね?」

「そう?」


 ぼくが首を傾げると、スターは「ま、いっか~」とルークとカイ君の所に戻っていった。

 ……実は、スターの言った通りちょっと雰囲気変えていたんだよね。先生を真似してたんだ。先生、いざという時は頼りになるから。尊敬、してるんだ。……恥ずかしいから、誰にも言えないけどね。

 さて、ぼくも会話に混じろうっと。明日は何起きるかわからないし、この時間を楽しもう!


 *  *  *


 薄暗い廊下。階段の一段目に座りながら、はリビングの会話に耳を傾けていた。

 ……ラギ、他の奴に俺のことをしゃべっているな。自分の過去、俺に会った時こと。それに、予知能力のこともか。ふぅん。よく自白する気になれたな。俺の命令を無視して。人を殺して、あいつらに恐れられてしまえばいいと思ったが、あいにくそんなうまくはいかねぇか。チッ。お人好しな奴ばっかだぜ、この孤児園は。俺がせっかく奴らの精神を削ってやったのに、もう回復してやがる。ま、そっちの方が面白いけどな。

 俺は扉の窓からリビングの様子を窺った。カイがラギの肩を叩き、ソラがラギと向かい合って何かしゃべっている。しばらくすると、リビングは騒がしくなった。ラギの悩みがなくなったってところか。ま、どっちにしろ俺のやることは変わらねえ。あの男の調子は悪いみたいだし、今がチャンスかもな。

 俺は立ち上がり、手のひらを見つめた。よし、魔力は操れる。やっと魔封じが溶けたか。

 それから、ポケットに入っている物を確認した。あの女からもらった魔法具。まず、これをあいつに投げ、それから……ククッ。少しは楽しませてくれよぉ?

 魔法具をポケットに戻すと、俺は扉を開けた。奴らの視線が俺に集まる。俺は目を細め、口角をあげた。


「ラギ、俺に逆らうとは……覚悟、出来てんだろうなぁ?」

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