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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第三章 過去からの悲劇
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第二十七話 希望

 二学期二日目、ぼくは孤児園を出る際、カイ君の部屋に視線を向けた。カイ君は今日、学校を休む。理由はもちろん、親を亡くして相当なショックを受けているから。

 カイ君は昨日のあの時から一回も部屋の外に出ていない。夕食の時も、さっきの朝食の時も。だから先生がご飯を持ってったんだけど……どうやら食べてくれなかったみたい。戻ってきた先生は手に持ったスープを見てため息をついていた。

 昨日から、ぼくはどうやったらカイ君が立ち直ってくれるかを考えている。でも、やっぱり思い浮かばない。親を失うショックがどのくらいのものなのか、どう声を掛けたらいいのか、今のカイ君にぼくの言葉が届くのかわからないんだ。

 ぼくは学校に向けて足を動かした。孤児園から視線を外し、隣を歩くスターを見る。


「ねぇ、スター。カイ君の親を殺したのがシン君って事、ピンクちゃんとかラギ君には伝えなくていいのかな?」


 あの場にいたぼくとスター、ピクちゃんはシン君が犯人だって事を知っている。ルミちゃん、ロイ君、ルークは今までの経験上、シン君がやったと予想できるだろう。でも、ラギ君とピンクちゃんは見てもないし教えてもいない。二人にも教えた方がいいんじゃないかな? 何かあった時、対処できるように……。


「知っても対処できると思う? 逆に狙われるかもしれないよ?」

「あ、そっか……それじゃあ、知ってるぼく達はシン君に狙われやすいの?」

「知らな~い。シンの考えてることなんてわかんないもん」

「えぇ! じゃあやっぱり教えた方がいいんじゃ……」

「大丈夫だよ。あの二人、シンが犯人だってわかってるから」

「え、そうなの!?」

「うん。そんな感じしない?」

「確かにそうだけど……なら最初からそう言ってよぉ~」


 ぼくがそう言うと、スターは意地悪な笑みを浮かべた。つられるようにしてぼくも微笑む。

 ……カイ君があんな状態なんだからこんなことしてる場合じゃないんだけど。うーん、カイどうしよう。今日の授業、集中できなさそうだなぁ。

 と思ったけど、午前中は身体測定だった。ふぅ、助かった。午後は授業あったけど。

 孤児園に帰ってきたぼくはランドセルを部屋に置くと、隣の部屋を覗いた。カイ君はベッドに座って壁に寄り掛かっていた。寝間着のまま。顔を少し上に向けているけど、やっぱり目の焦点は合っていなかった。確か、今カイ君の心は絶望で染まってるんだっけ。

 ぼくはカイ君に歩み寄り、その肩に手を置いた。

 ……反応はない。って、すごい顔色悪い。やっぱ、何も食べてないからかな。

 今度は両肩に手を置き、軽く揺すってみた。


「カイ君!」

「……」


 カイ君はぼくを見るどころか、顔も身体も動かさなかった。目は開けてるのに、全然動かない。……生きてるのか心配になってきた。

 どう声を掛けたら反応してくれるのか考え始めた時、外から車の音が聞こえてきた。この辺りでは車はあまり走っていない。ってことは、誰か来たのかな?

 窓から顔を出し、玄関の方を見ると、玄関前に黒い車が止まっているのが見えた。玄関前には先生が立っている。先生は車から出てきた女性と何か話し始めた。何の話してるんだろ?

 しばらく見つめていると、学校帰りのピクちゃんが歩いてくるのが目に入った。ピクちゃんは不思議そうに二人に目を向けてから孤児園に入ろうとして……ハッとしたように振り返った。どうしたんだろ?

 先生と女性の話に加わったピクちゃんを目にしてから、ぼくは部屋を出た。なんか、すごく気になる。あの女性、誰なのかな? 先生の知り合い? ピクちゃん、驚いた様子だったけど何を聞いたんだろう?

 そんな事を考えながらぼくは玄関の扉を開けて耳を澄ませた。


「――じゃあ、カイ君のお母さんは亡くなられてしまったのですか?」

「……はい。誰が殺害したのかはまだわかっていません」

「そうですか……。あ、カイ君はどうしていますか?」

「カイ君は……ショックで、部屋に閉じこもっています」

「そうでしょうね。カイ君はまだ五年生。妹のユイちゃんは二年生だっていうのに……」

「妹さんには、このことを伝えるつもりですか?」

「いえ、もう少し成長してから伝えます。わたしには、あの子に母親の死を伝える事なんて、出来ません……」

「それがいいでしょう」


 安心したように頷く先生。女性はカイ君のお母さんの知り合いなのか、とても悲しそうな表情をしていた。

 って、カイ君、妹いたんだ。カイ君のお母さんが倒れていた場所には、妹……ユイちゃん? の姿はなかったけど……。

 ぼくが考え事していると、ピクちゃんが女性に声を掛けた。


「あの、ユイちゃんは今どこにいるんですか?」

「え、ユイちゃん? ユイちゃんはわたしの家にいるけど……」

「……! 元気ですか?」

「ええ。今は友達と遊んでいると思うわ」

「そっか! ありがとうございます!」


 ピクちゃんは笑顔でお礼を言うと、ぼくの方に駆け寄ってきてぼくの手を握った。


「ソラちゃん! ユイちゃんは殺されてないって! 早くカー君に伝えなきゃ!」

「え、あ、ちょっと待って!」


 ぼくはピクちゃんに腕を引かれて階段を駆け上がった。

 カイ君の部屋に入ると、ピクちゃんはぼくの手を離してカイ君の前に立った。手を胸の前でギュッと握り、カイ君に向けて言葉を発する。


「カー君、ユイちゃん元気だって!」

「……!」


 びくりと、カイ君の肩が揺れた。ぎこちなく首を動かし、ピクちゃんと目を合わせる。ユイちゃんに反応したんだ。その目はまだ光がなかったけど、なんだか希望が見えた気がした。ピクちゃんもそう思ったのか、言葉を続けた。


「ユイちゃん、カー君のお母さんの知り合いの家にいるんだって。今、小学二年生で、友達もいるらしいよ!」


 あの女性は、カイ君のお母さんの知り合いだったんだ。じゃあ、カイ君の様子を見に来たのかな。あ、でも、カイ君のお母さんがなくなったことに驚いてたっけ。じゃあ……カイ君のお母さんを探しに来た、とかかな。多分。それで、先生から殺されたことを聞いたんだ。


「カー君、いつまで落ち込んでるの? そんな姿のカー君、お母さんもユイちゃんも見たくないと思うよ!」


 じっと見つめてくるカイ君に、訴えかけるように声を届けるピクちゃん。それを聞いて、ぼくもピクちゃんの隣に並んだ。驚いて見上げるピクちゃんに笑いかけ、深呼吸してから言葉を紡ぐ。


「カイ君。ユイちゃん、お母さんが亡くなったこと知らないんだって。でも、知ったら悲しむ。その時、ユイちゃんを支えてあげられるのはカイ君だけだよ。カイ君がそんな姿でいいの?」

「そーだよ! カー君、お兄ちゃんなんでしょ!?」


 カイ君の青色の瞳が揺らぐのがわかった。もう少し。そんな気がする。

 その時、ピクちゃんがカイ君の机に駆け寄り、引き出しから何かを取り出した。小さな、紙? いや、あれは……手紙だ。

 ピクちゃんはその手紙をカイ君の手に乗せた。


「カー君、お母さんの分まで生きないと、だよ」

「い……きる……」


 カイ君が掠れた声を出した、その瞬間、手紙が突然光を放った。って、え、何!?

 驚いている間に膨張した光はぼく達の前で弾け、人の形を作った。その淡い光に包まれた人は、青色の髪が目立つ女性だった。もしかしてこの人……。


「かあ、さん……?」


 カイ君が目を見開き、女性を見上げた。この人が、カイ君のお母さん。でも、なんでここに……?

 ぼくとピクちゃんが目を見張る中、カイ君のお母さんが口を開いた。


「カイ、久しぶりね」

「母さん!」


 今度ははっきりと、カイ君が声を発した。立ち上がってお母さんに近づく。でも、触れることは出来なかった。手を伸ばしても、透けてしまうだけ。

 カイ君が傷ついた表情を見せた。その目の前で、カイ君のお母さんが柔らかく微笑む。


「これは、記録魔法。何かにメッセージを記録できる魔法よ。わたしは手紙にメッセージを記録したの。それで、この魔法が解除されるのはわたしが死んでから二十四時間後。……これを見てるって事は、わたしは死んでしまったのね」


 つまり、これはカメラで撮った映像のようなもの、なのかな? 手紙に記録とか、死んでから解除されるとか、その辺のことはわからないけど。

 死んでしまった。その言葉に、カイ君は俯いた。カイ君のお母さんはカイ君の様子が想像できていたのか、寂しそうな声で言った。


「カイ、悲しそうな顔しないで。わたしは死んでしまう運命だったのよ。カイを孤児園に預けた時から、こうなるんじゃないかと予想してた。わたしの勝手な考えで、カイに寂しい思いをさせてしまったのだから」

「違うよ母さん……母さんは悪くねぇよ! おれだって、最初は寂しかったけど、今はスゲー楽しく過ごしてる!」

「でもね、カイ。カイにはまだ、たくさんの未来が待ってる。ユイと一緒に、わたしの分まで生きて」

「母さんの分まで……?」

「もう、会うことは出来ないけど、カイなら立派に生きていけると信じているわ。だから、悲しまないで。それとも、こんな母さんだから、悲しんではいないのかしら……」


 自嘲気味に笑うカイ君のお母さん。カイ君は首をぶんぶんと横に振った。


「悲しいよ! だから母さん……」

「カイ。ユイをよろしくね。わたしは、いつでも二人のことを見守っているわ」


 その言葉と共に、光が空気に溶けるように少しずつ消えていった。カイ君が制止の声を上げながら手を伸ばすけど、光は収まらない。


「大好きよ、カイ……」


 光がすべて消える瞬間、そんな言葉が部屋に響いた。

 ぼくはそっとカイ君に目を向けた。カイ君は、目を見開いてカイ君のお母さんがいた場所を見つめていた。その目から涙が零れ、頬を伝った。唇を噛みしめ、顔を俯かせる。


「カー君……」


 ピクちゃんがカイ君に近寄った。すると、カイ君は手の甲で目をごしごしと擦ってぽつりと呟いた。


「たくさんの未来が待ってる……立派に生きていける……母さんの分まで、生きる……」


 カイ君が呟いているのは、さっき伝えられたお母さんの言葉。一つ一つ、確かめるように口にした後、カイ君は天井を仰いだ。


「母さん。おれ、頑張るよ。だから、見ていてくれ。おれも、大好きだ」

「カー君……!」

「ピク、ソラ、ありがとな」

「カイ君……よかった」


 ぼくは安堵の息をついた。カイ君、立ち直ったんだ。そうだよ、カイ君はいつも前を向いていなきゃ。


「なぁ、ピク。ユイは、生きてるんだよな?」

「うんっ! ユイちゃんを預かってる女の人が、えんちょーせんせーと話してたよ。なんか、カー君のお母さんの帰りが遅くて、電話もつながらなかったから、心配してここに来たんだって」

「まだいるのか?」

「いや、もう帰らせたよ」


 そう言って、園長先生が部屋に入ってきた。ちょっと残念そうな顔をしたカイ君に、先生は笑いかける。


「でも、ユイちゃんに会いに行く約束はしておいたよ」

「ほんとか!?」

「うん。もう少し先の事だけど、楽しみにしててね」

「よかったね、カー君!」

「おう!」


 喜ぶピクちゃんに笑いかけたカイ君の目には、光が戻っていた。カイ君らしい、強い光が。ピクちゃんとお母さんの言葉を聞いて、生きる意味を持ったんだろうな。絶望が、希望になったんだ。……強いなぁ、カイ君。昨日お母さんを失ったのに、こんなに早く立ち直っちゃうんだもん。まあ、早く立ち直らせようとしたのはぼく達だけど……。

 ちらりと先生を見ると、先生も感心したようにカイ君を見つめていた。

 その時、ぎゅるるるるという変な音が耳に入った。音のした方を見ると、カイ君が照れたように笑った。


「へへ。腹減っちまった」

「カー君昨日から何も食べてないもんね」

「そういえばそうだったな」

「じゃあ、おやつ食べよー!」

「おう!」


 ピクちゃんとカイ君が先生の横を通り過ぎ、一階に下りていった。ぼくと先生も、笑い会ってから二人についていく。その途中、ぼくは窓の外、天に広がっている青空を見上げた。


 カイ君のお母さん。カイ君を、いつまでも見守っていて下さいね。

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