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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第一章 孤児園の子供達
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第二話 孤児園

 あらすじを少し変更&追加しました。

 雲一つ無い青空の下、ぼくは赤いランドセルを背負いながら学校に背を向けて歩いていた。ぼくの周りには、家に帰る小学生達がたくさんいる。ぼくもその中の一人だ。

 前から風が吹き、ぼくの黄緑色の髪を揺らした。いつ見ても不思議な感じがする。前世で日本に住んでいたときは、髪は真っ黒だったから。

 そう、ぼくには前世の記憶がある。だから容姿は六年生でも、精神年齢は高校一年生なのだ。そして、前世で暮らしていたのは日本だった。そこで事故にあって、このファンタジーな世界に転生したというわけだ。信じられない話だけどね。

 この世界は日本とすごく似ている。小学校や中学校があるし、服も日本で着ていた物とほとんど同じ。月は十二ヶ月で、一月一日にはお正月があり、節分、夏休み、ハロウィン クリスマス、大晦日――。バレンタインデーやホワイトデーまである。もう日本に住んでいるみたいだ。でも、魔法が使えたり髪の色がカラフルだったり猫耳や兎の耳が付いている種族がいたりと、日本では考えられないところもある。

 そんなことを考えながら歩を進めていると、隣で歩いていたスターが前を指さした。


「あ、ソラ。アト君がきたよ」


 スターはぼくの友達。同じクラスでちょっと人をいじるのが好きな男の子だ。

 スターの指の先に視線を向けると、垂れた兎の耳を揺らしながら駆けてくる男の子が目に入った。アト君は近所に住む一つ下の友達だ。

 ぼく達の前で立ち止まったアト君は、息を乱しながら声を発した。


「ソラちゃん、スター君っ、大変なの!」


 この世界では、ぼくの名前はソラとなっている。ちなみに前世の名前でも蒼空そらだった。あ、ぼくって言ってるけど、女の子だよ? ぼくっ娘なんだ。……って、そんなことはどうでもよくて。


「大変って、何かあったの?」

「うん、来て来て!」


 説明する時間がないほど大変なことがあったらしい。ぼくは急いでアト君の後を追った。

 木のトンネルと呼ばれている道を走り抜け、商店街の路地裏に入る。そこには孤児園と呼ばれている建物がある。名前の通り、孤児――親のいない子が集まる建物だ。ぼくが住んでいる場所でもある。まあ、その説明は後でにしよう。

 その孤児園の入り口の前に来ると、アト君は近くにある木を指さした。そっちに何が……。


「カイ君!」


 そこには、木に登ってこちらを見ている猫耳のついた少年の姿があった。その様子だと、降りれなくなったのかな?


「ソラ、スター、助けてくれ!」

「クスクス」

「ス、スター! 笑うなよ!」

「お願いスター君。カイ君、ぼくの飛んでいった帽子を取って下りられなくなっちゃったの」


 なるほど、そういうことか。確かに、カイ君が手に持っているのは安全帽子だね。自分のためにカイ君が危ない事をしたから、アト君は焦ってたんだ。

 でも、どうやって助ければいいんだろう? いくらカイ君が五年生で身長が低くても、ぼくが木に登ってカイ君を担いで下りることなんてできないし。もちろん、スターもそんなことできない。


「カイ君……何してるの……」

「あ、ハートちゃん」


 呆れたような声が聞こえて振り向くと、小麦色の髪の少女が立っていた。

 ぼくはハートちゃんに簡単にこの状況の説明をした。その間に、スターがにやにやしながら木のそばに行く。そして、思いっきり木の根本を蹴っ飛ばした。細かったからか、その木は思ったよりも大きくに揺れる。


「な、なにすんだよ! 危ねーだろ!」

「落ちろ落ちろ~」

「うわあ!?」


 必死に木の幹にしがみつくカイ君。って、ほんとに危ない! カイ君が落ちたり木が折れたりしたら孤児園の主である園長先生に怒られるよ!

 隣にいるアト君、ハートちゃんと共にスターを止められずにあわあわしてると、突然カイ君が登っている木の後ろから少年が現れた。


「カイ、おまえ馬鹿か?」

「馬鹿じゃねーよ!」


 木にしがみつきながらすぐさま反論するカイ君。

 いきなりカイ君に声をかけたのはスターの一つ下の弟、ルーク。スターとは違って真っ黒な髪をしている。


「おまえ猫だろ?」

「し、仕方ねーだろ! 怖いんだから!」

「ほら、猫。下りてこい」

「猫言うな! よ、よーし……」


 カイ君はルークから目を離してよくわからない構えをとると、弱々しくジャンプした。そして、しっかりと着地をする。そこら辺はやっぱ猫なんだね。っていうか、ルークに刺激されると下りられるんだ。

 カイ君は自分で下りられたこと……着地できたことに驚いていた。そこを、またルークとスターにからかわれている。


「みんな何してるの?」


 また声をかけられて後ろに目を向けると、そこには桃色の髪の少女が首を傾げてぼく達を見てた。まあ、みんな集まってたら不思議に思うよね。


「ピンクちゃん。クスクス、実はねえ、カイ君が……」

「そんな面白そうに言うな! もう中に入ろうぜ!」


 説明しようとしたスターの声を遮るように大声を出したカイ君は、走って孤児園の中に入っていった。スターもクスクス笑いながらルークと一緒にカイ君の後を追う。何も説明されなかったピンクちゃんも、ハートちゃんと話しながら二人に着いていった。ぼくも家に帰るアト君を見送った後、孤児園に入る。

 玄関に来ると、まず目に入るのは大きな机が中央にあるリビングだ。孤児園と言っているけど、実際は二階建ての大きな家。ここは元々幼稚園が建っていたらしく、そこの園長先生が幼稚園が潰れた後に大きな家を建てたらしい。その後孤児を集めたことから孤児園と呼ばれていた。つまり、ここに入ったスター、ルーク、カイ君、ハートちゃん、ピンクちゃんの全員は孤児なのだ。もちろん、ぼくも孤児。まあ、そんなこと想像もできないくらい元気だけどね。

 リビングの右側にはキッチンがあり、左側にある扉を開けると廊下がある。手前から奥に向かって階段、トイレ、お風呂。

 ぼくは階段を上り、自分の部屋に入った。二階には二人部屋が六つあり、ぼくはスターと同じ部屋だ。

 自分の机にランドセルを置くと計算ドリルを取り出す。これは、今日出された宿題。

 扉が開く音が聞こえた。反射的に振り返ると、癖っ毛のない茶髪が目に入った。スターもランドセルを置きに来たみたい。


「ねえ、ソラ。みんなで宿題しよう」

「うん、いいよ」


 頷き、スターと階段を下りる。

 リビングには、机に向かっている四人の姿があった。予想通り、宿題と睨めっこしながら唸っているカイ君をルークが邪魔をしている。

 ぼく達もスターとハートちゃんの向かい側に座り、宿題に取りかかった。


「よし、終わった」

「はやっ!」


 五分後、ぱたんと計算ドリルを閉じるスターにつっこむカイ君。その隣ではルークも宿題を終わらせていた。カイ君も焦ったように目の前のプリントに目を向けるけど、全然解けていない。ルーク、教えてあげないのかな?

 ぼくも早く終わらしちゃおう。あ、スターの宿題終わらすスピードが速いのはいつものことだから、ぼくはあんまりびっくりしないんだ。

 カイ君から計算ドリルに目を戻す。やっぱり学校で習うことも、日本とだいたい同じ。計算の仕方も変わらないし、漢字や四字熟語、ことわざもある。だから、ぼくもすらすらと解けた。

 それから三十分ぐらい経った。ぼくは今、宿題を終わらして絵を描いている。

 鉛筆を動かしていると、ピンクちゃんがぼくのスケッチブックを覗き込んできた。


「ソラちゃん、絵うまいんだね」

「あ、ほんとだ」


 ハートちゃんもぼくにそう言ってくれた。嬉しい。


「えへへ、ありがとう。なんか描いてほしいものある?」

「あたしは特にないかな。ハートちゃんは?」

「え、わたし? えっと……じゃあ、桜とかって描ける?」

「うん」


 ハートちゃんのリクエストに応えて桜を描く。絵を描くのには自信があるんだ。図工の絵の作品で賞を取ったことあるし。

 描きながら二人がぼくを褒めてくれる。そんなに褒められると照れちゃうんだけど……。


「くぅ~、おれも遊びてぇ~」


 顔を上げると、カイ君が羨ましげにぼくを見つめていた。そんなカイ君のプリントを、部屋から戻ってきたルークが覗き見る。


「お前、まだ終わらないのか?」

「……」

「まさか、そんな問題もわかんないのか?」

「うるせーな!」


 一回は無視したようだけど、やっぱり言い返さずにはいられないみたい。二人はいつもこんな感じだ。でも喧嘩にはならない。なぜなら、カイ君が口を滑らせてルークを悪く言ったとしても、ルークが低い声でカイ君の名前をゆっくり呼ぶからだ。そうすると、カイ君は慌てて謝る。そのくらい、カイ君はルークを恐れている。謝らなかったら殴られるしね。もう何回も殴られて学習したんだろうってハートちゃんが言ってた。


「ただいまー」


 玄関の扉が開き、中学一年生のロイ君が帰ってきた。金髪を持つ彼は、この中で一番年上だ。続いて、ロイ君と同じく兎の耳を持っているルミちゃんも入ってきた。二人も、ぼく達と同じ孤児だ。この時間に帰ってきたということは、今日は部活なかったのかな。

 これで、この孤児園にいる全員がそろったね。


「えー、まだあれ・・がいないよ」


 あれ・・……? あ、園長先生のことかな。って、あれって呼んでるの?


「だって園長先生あれはあれじゃん。あれとしか言いようがないよ」


 普通に園長先生って呼べばいいと思うけど……っていうかスター。


「また心読んだでしょ」

「うん。読みたくなくても聞こえるんだからしょうがないでしょ~」


 聞いてわかるとおり、スターは人の心を読むことができる。弟であるルークも同様に。でも、隠していることは読めないみたい。あと人の負の感情に弱いらしく、今までに倒れそうになったことが何度かあった。


「え、何で知ってんの!?」

「見てたから」

「隠せてると思ってたんだけどな~。それに、ちょっとがくってなっただけじゃん!」


 えー、あれは倒れそうになってたよ。今は元気そうだけど。

 まあ、そんなことは置いといて。園長先生どこ行ったんだろう? いつもならこの時間は夕ご飯の下ごしらえをしているのに。部屋にいるのかな? ……行ってみよう。

 スケッチブックを閉じると、ぼくは階段を上った。


「……あれ? スターも行くの?」

「うん。なんか面白そうだから」


 そう言うと思った。

 二階の奥にある扉の前に着いた。扉には園長とかかれた札がかかっている。

 トントンとノックしてから声をかける。


「園長先生、いますか?」


 返事はない。いないのかな。

 諦めてリビングに戻ろうとすると、スターがドアノブに手をかけた。


「あっ、開いてるよ!」

「え、勝手に入っちゃだめだよぉ」

「いいのいいの!」


 園長先生の部屋に入ろうとするスターを止めたけど、スターは言うことを聞かないで部屋に入ってしまった。でも、ぼくも中に何があるのか気になる。ちょっとだけ、覗くくらいだったら大丈夫だよね……?


「何をしてるんだい?」


 ……! 身体がびくってなった。鳥肌も立ったよ!

 扉の前で固まるぼくの横を通り過ぎ、声の主――園長先生はスターの手を引いた。


「勝手に入って秘密を探ろうとするなんて、趣味が悪いね」

「いいじゃん別に」


 スターは不機嫌そうにそう言ったけど、先生に追い出されちゃった。先生は扉に鍵をかけると、水色の瞳にぼく達を映す。


「それで、私に何か用かな?」

「えっと、リビングにいなかったので何かあったのかなと……」


 小さめの声でそう答えると、先生はにこっと微笑んだ。


「ちょっと外に出かけてただけだよ。夕飯にするからリビングに行こうか」

「はぁい」


 よかった、そんなに怒ってないみたい。

 ぼくは返事をして階段を下りる先生を追った。スター、無言だったけどどうかしたのかな? うーん、まあいいか。スターならすぐに元気になると思う。

 午後七時。机を九人で囲み、先生が作った野菜炒めを口に運んだ。言い忘れてたけど、この世界の時間帯も日本と同じ、一日二十四時間だ。料理も日本でよく食べるものが出てくる。


「先生、見た目も良くて料理もうまいって、絶対女子にもてるよね」

「うん、絶対もてる」


 ぼくの隣にいたハートちゃんとピンクちゃんが先生を見る。

 うん、確かにかっこいいね。銀髪も綺麗だし、背も高いし。でも、先生っていくつなんだろう? ぼくがここに来たときから全然外見が変わってないけど。


「先生って、何歳なの?」


 ぼくの心を読んだのか、それとも偶然なのか。スターが先生に尋ねた。ハートちゃん達も箸を止めて先生を見ている。


「さあ? 何歳かなぁ?」


 誤魔化す先生。やっぱ教えてくれないんだ。

 先生から目を離し、他のメンバーの会話に耳を傾けてみる。ルークとカイ君は好き嫌いについて言い争いをしており、左隣にいるロイ君、ルミちゃんの二人は学校のことについて話をしていた。

 ああ、賑やかな食事だなぁ。前世とは大違いだ。


 こんな暖かな空間を、大事にしていこう。そう、ぼくは思ったのだった。

 前回とは全然違う、ほのぼのした話でした。

 登場人物、誰が誰だかわからなくなったらすいません……。

 ソラはもともとソーラという名前の男の子でした。けれど、話の変更によって女の子へと変更し、その時にぼくっ娘にしました。

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