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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第二章 子供達の過去
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第十四話 旅行―カレーと夜空―

 午後四時になり、ぼく達は夕飯を作ることになった。夕飯はキャンプの定番であるカレーライス(ぼくが勝手にそう思ってるだけだけど)。作り方はわかるけど、外で、しかも山の中となるとどうやって作ったらいいのかわからなくなるよね。

 食材は園長先生が持ってきているらしい。鍋とかまな板、包丁も先生がそれぞれ三つずつ持ってきたんだって。そこでぼく達は三つのチームに分かれることにした。甘口チームと中辛チームと辛口チーム。まあ、だいたい予想できると思うけど。ぼくとカイ君とピクちゃんが甘口。ルミちゃんとロイ君、ラギ君とピンクちゃんが中辛。スター、ルーク、シン君が辛口となった。

 ……辛口チームが少し不安だけど、今はうまく作れるように頑張らないとね!

 お米は先生が炊いてくれるから、ご飯のことを気にせずにカレーを作れることになった。

 まずは、かまど作り。道具はやはり園長先生がどこからか借りてきたらしい。かまど作りは体力があるカイ君に任せることにした。カイ君は、不満そうな顔一つせずに引き受けてくれた。多分、ルークに頼まれたら「えー」って言うんだろうけど、このチームはカイ君の他は女の子しかいないしね。ちなみに、中辛チームはラギ君とロイ君が、辛口チームはルークが用意していた。

 カイ君がかまどを設置している間、ぼくは野菜を洗い、ピクちゃんはその野菜を切ることになった。先生からまな板と包丁を受け取り、ピクちゃんが肉を切り始める。ぼくはニンジン、ジャガイモ、タマネギなどを川の水を使って洗った後、ピクちゃんに手渡した。


「おーい、かまどの準備できたぞ」

「ありがとう!」


 カイ君にお礼を言ってかまどを見ると、火をつける木も用意してくれたらしい。準備は万端だった。

 ぼくは鍋をかまどに置く。……あ、火ってどうやってつけるんだろ? ライター?

 他のチームを見てみると、中辛チームも辛口チームももう火がついていた。


「ねえ、ピンクちゃん。火ってどうやってつけたの?」

「あたしたちはロイ君の魔法でつけたよ」


 そうだ。ロイ君は魔法が使えるんだった。改めてこの世界がファンタジーの世界だって実感する。まあ、そんなことはどうでもいいや。

 野菜を炒めているロイ君に頼むと、すぐにオーケーしてくれた。ぼく達のかまどの木に手を伸ばすロイ君。そして、何か呪文のようなことを呟くと、一瞬で木が燃え上がった。


「すげー! どうやってんだ!?」


 目をキラキラさせるカイ君。ぼくがロイ君にお礼を言うと、ロイ君はカレー作りに戻っていった。

 カイ君にバケツに水をくんでくるように頼んだ後、ぼくは鍋に肉を入れた。長い箸を手に肉を炒める。途中でピクちゃんが切ってくれた野菜を入れ、火が通ったところで水を入れた。あとは、煮込むのを待つだけ。

 んー、その間何しようかな。ピクちゃんは読書してるし……そうだ。カイ君と一緒に他のチームを見て回ろうかな。

 ぼくが提案すると、カイ君は喜んで着いてきてくれた。

 まずは中辛チーム。ピンクちゃん達も、ぼく達と同じく煮込んでいるところだった。


「おーい、ラギー。服乾いたか?」


 ピンクちゃんとなにやら話していたラギ君に、カイ君が問いかける。二人は川に入ったからずっと濡れた服を着てたんだよね。もう一つ服は持ってきてるんだけど、それは明日着る分だからって着替えなかったんだ。


「ああ、ほとんど乾いた」


 見ただけじゃわからないけど、さっきよりは乾いているみたい。髪の毛も乾いてるし……二人とも風引かないかなって心配してたけど、大丈夫みたい。


「あ、それより、ラギ君足大丈夫? 赤くなってるみたいだったから」

「ああ、大丈夫だ。今は湿布張ってる」


 足を見せてくれるラギ君。うん、腫れてはないみたい。よかったぁ。

 ピンクちゃんも心配してしてたのか、ほっと安堵の息をつくのがわかった。

 ぼく達は二人と少し話をした後、辛口チームに行った。そこは……空気が重かった。鍋の前にはルークがいて、スターとシン君は少し離れたところにいた。誰も何も話していない。スターとルークに関しては表情が暗いし。シン君と同じチームなのがいけないのかなぁ。二人は過去シン君に……。この話はやめとこう。

 よし、ここはカイ君を投入しないとね!

 カイ君は、ぼくが何も言わずにいても自分からルークに話しかけに行っていた。


「ルークー、ってお前どうしたんだよ。なんか、雰囲気? が悪いぞ」

「気のせいじゃないか?」

「いや、気のせいじゃないだろ。喧嘩でもしたのか?」

「一言もしゃべってないからそんなはずはない」

「チームなんだから何かしゃべれよ! で、お前しかカレー作ってねーのか?」

「ま、そんな感じだ」


 予想はしていたけど、やっぱりそうなんだ。

 スターの方を見ると、スターはシン君に背を向けて座っていたため、表情が見られなかった。でも、話しかけづらいな。シン君は頭の裏に腕を回して地面に寝っ転がってるし。この三人を一緒にしちゃ駄目だなって思った。


「なあ、カイ。お前のカレーに唐辛子入れてもいいか?」

「なんでだよ!? それじゃ辛口になっちまうじゃねーか!」

「いいじゃないか、辛口!」

「おれ辛いの食べられねーって知ってるだろ!」

「何で食べられないんだよ」

「逆に何で食べられるんだよ……。とにかく、俺は甘口なんだ!」

「そうか。じゃあこっそりと唐辛子いれとくよ」

「やめろー! っていうか『じゃあ』の意味がわかんねーよ!」


 カイ君との会話でルークがいつものテンションに戻った後、ぼく達は自分達の鍋を見に行った。そこには沸騰した鍋の中身をかき混ぜているピクちゃんの姿があった。


「ピクちゃん、煮込めた?」

「うん! 灰汁あくも取ったよ」

「ありがとう。じゃあ、ルー入れるね」


 ルーを入れた後は、トロトロになるまでかき混ぜるだけ。ぼく達は交代しながら鍋をかき混ぜた。

 カレーが出来上がり、夕日が沈み始めて周りが橙色に染まっていく中、ぼく達は円になって地面に座った。


「それじゃ、いただきます」

「いただきまーす」


 園長先生に続いて手を合わせた後、ぼくはカレーを口に運んだ。うん、美味しい! 自然の中で食べているからなのかな。それとも、自分達が作ったからなのかな。いつもより、孤児園で食べるよりも美味しい。あ、別に先生のカレーが不味いって言ってるわけじゃないよ?

 他のみんなはどう思ってるのかな? と、隣にいるカイ君を見ると、カイ君はおそるおそるといった感じでスプーンを口に入れていた。そして、ほっと息をつく。


「ふぅ、唐辛子入ってないな」

「それは入れて欲しかったのか?」

「ちげーよ!」

「じゃあ、次は唐辛子入れておくからな!」

「なんでだよ! おれ一言も唐辛子入れろって言ってねーだろ!」


 と、喚くカイ君を、ルークは笑って受け流してた。今思ったんだけど、カイ君と話してるときのルークって表情がよく変わるよね。ぼくと話すときは無表情なのに……カイ君ってすごいなぁ。

 ルークの隣にいるスターは、ルークと共にカイ君を意地悪そうな笑みで見ていたけど、それ以外は誰とも話さずに黙々と食べていた。それより、園長先生がスターとシン君の間に座っているんだよね。なんか、二人の関係をわかっているみたい。偶然、なのかな? 先生だからわざとやってるようにも見えるし……。


「ソラたん、食べないの?」


 右隣に座っているピクちゃんが不思議そうに見つめてきた。あ、いつのまにか食べる手が止まっていたんだ。


「ううん、食べるよ。ちょっと他のみんなのカレーが気になっただけ」


 ぼくはそう答え、スプーンでカレーをすくった。

 カレーを食べ終えた頃には、もう日も沈んで辺りは暗くなっていた。先生がつけてくれた焚き火がなければ何も見えなかったと思う。ここは山奥だしね。電灯とか、家の光なんて一つもないし。

 そんな焚き火だけの光の中、鍋やお皿を片付けながらぼくは川の方に何か光る物があるのに気がついた。かと思えば光は消え、また光る。あれは、もしかして……。

 お皿を箱にしまった後、ぼくはその光に近づいた。そっと手で包み込み、手の上に乗せる。逃がさないようにしながらその光を見つめる……思った通り、蛍だった。


「みんな! 蛍がいたよ!」


 ぼくはみんなの方向に走りながら手を上に上げた。蛍がぼくの手から離れる。黄色く光る蛍を見て、みんなが目を輝かせるのがわかった。


「ソラたん、後ろ後ろ!」

「え?」


 ぼくはピクちゃんが指さしているところ――後ろに視線を送った。そして、感嘆の声を上げる。さっき蛍がいたところに、たくさんの光が瞬いていたんだ。全部、蛍。

 蛍達は次々に現れ、ぼく達の周りを飛び回った。


「こんなにいたのか……」


 ラギ君が地面に座りながら、近くにいた蛍に手を伸ばす。その横で、ピンクちゃんがすぐ近くを飛ぶ蛍を目で追っていて、園長先生もシン君も蛍に見入っていた。

 ぼくは頭上を飛ぶ蛍を見上げた。そして、また「わあ……」と声を漏らした。だって夜空に、無数の星が瞬いているんだもん。蛍に負けないぐらい、輝いている。

 ぼくはその場に寝転がり、空を飛ぶ蛍と空から光を送っている星々を眺めた。他のみんなもぼくの行動に気づいたのか、同じように寝転がる。

 星って黄色にしか光らないのかと思ったけど、こう見るといろんな色をしてるんだね。白や赤に緑。この光景は、山だから見えるんだって最近になってわかった。日本の夜空も、こんな感じだったのかな……。ぼくが今まで気づかなかっただけで、日本でもこんな風に輝きながらぼくを見守っていたのかな。

 いつも、夜になる度に家に帰りながら夜空を見上げていた。当時苛められていたぼくは、誰でもいいから慰めて欲しい、星でもいいからぼくを癒して欲しいと思ってたんだ。だけど、星は見えなかった。流れ星も流れなかった。星達までぼくを見捨てたのかと思った。それで、ぼくは事故にあって死んだ。自殺に似た死に方だった……。

 ……でも、違ったんだ。星達はぼくから見えなかっただけで、ずっと空に存在していたんだ。なんで、気づかなかったんだろう。なんで、ここで気づいちゃったんだろう。何で今、星達が見てるなら頑張れるって思っちゃったんだろう。後悔しても何も変わらないのに。もう、前の世界には戻れないのに……。

 つぅーっと、目の横を何かが流れるのを感じた。視界が歪み、星がよく見えなくなる。

 そんなぼくの横に、誰かが座るのがわかった。

 そっちに目を向けると、空を仰視する園長先生が見えた。

 先生は顔を上げたまま、ぼくにしか聞こえない声で言う。


「君は真っ暗な空だった。前の世界にいた頃は」

「え……?」

「だけど、この世界に来て、君には光が宿ったんだ」


 先生がぼくを見る。透き通っている水色の目に、疑問符を頭に浮かべているぼくが映った。先生は、そんなぼくに笑いかける。


「ソラという名の夜空に、スターという光がね」

「……!」


 ぼくが夜空で、スターが光。確かに、ぼくの名前はソラ。スターは日本語にすると星。ここに来てぼくに光が宿ったって事は、ここでスターに出会ってぼくは変わることが出来たって事……?

 答えを確かめるように横を見ても、先生は微笑んだだけで何も答えてはくれなかった。こうなると、先生は何を言っても口を開いてはくれない。ぼくは質問するのを諦め、何となくスターを見た。途端、目が合う。優しく笑いかけてくれるスター。何故か顔が熱くなった。けど、心地よかった。さっきのもやもやした気持ちがなくなったからかな。ぼくは、柔らかな笑みを送れた。

 もう一度、夜空を視界に入れる。火照った頬を撫でる風が気持ちいい。この星空を、一生忘れないようにしよう。


 ぼく達はそのまま、星達に見守られながら眠ってしまったのだった。園長先生が、なんでぼくに前の世界があることを知っているのかなんて、その時は特に気にならなかった。

 カレーの作り方、間違っていたら教えて下さい。

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