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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第二章 子供達の過去
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第十二話 記憶

 みんなが昨日の花火や夏休み何やりたいか笑顔で話す中、ぼくは昼食を食べながら心の中で自分のことを叱咤しったしていた。

 朝起きてから、ぼくは何度もスターに昨日聞いたシン君の呟きのことと、スターとシン君の関係を聞こうとした。だけど、なかなか聞けないでいた。みんながいるから聞きにくいと同時に、スターはシン君の話題を出さないようにしているから、更に聞きにくかった。でも、これは聞かなくちゃいけないこと。そう言い聞かせてぼくはさっき自分の部屋でスターと二人きりになった……んだけど、そこでもぼくは怖じけずいてしまった。ぼくの馬鹿! せっかく聞くチャンスだったのに!

 スターは人の心を読めるからぼくの言いたいことがわかるんじゃないの? って思うかもしれないけど、本当に隠したいと思っていることは読めないらしい。この時間までスターはぼくの心にあるシン君のことを読んだそぶりを見せなかった。ってことは、ぼくが無意識に隠していることになるんだなぁ。あんまり軽く話せる内容じゃないからね。それに、ぼくの口からスターに伝えたいし。じゃあ話せよって話なんだけど。

 それと、ぼくはシン君と目を合わせるのが怖くなっていた。昨日聞いてたことは気付かれていないとは思うけど、なんだかあの赤い目が何もかもを見透かしているようで……。


「はぁ……」


 思わずため息が漏れる。

 ぼくは昼食を済ませると、すぐに部屋に戻った。なんだか気分が悪い。夜、トイレに行かなければよかったなぁ。そうしたら、あんな話聞かなかったのに。……ううん、そんなこと考えても仕方ない。多分、あれは聞いた方がいい出来事だったんだ。ほら、ゲームでよくあるイベントってやつ。

 そう言い聞かせてベッドに倒れ込み、スターにどうやって話を切り出そうか考える。うーん、二人きりになったときに普通に切り出す?


「あのさ、スター、昨日夜中トイレに行ったときにね……」


 ……こうやって切りだそうとして、さっき失敗したんだ。じゃあ、もっとテンション高く?


「ねえスター! 昨日聞いちゃったんだけど!」


 ……いや、深刻な話になりそうなのにこのテンションじゃおかしい。これは嬉しい知らせの時のテンションだ。

 えっと、じゃあ、どうしよう……って感じかな? こう、怖がっている風に……。


「ス、スター、昨日、夜中にね、トイレ行ったんだけど……」


 あ、なんかきもいって言われそう。普段、ぼくこんな風に話さないからなぁ。じゃあ、単刀直入にずばっと訊いてみるとか。


「スターとシン君って、どういう関係なの? シン君って、どういう人?」


 あー、答えてくれない気がする。びっくりさせちゃいそう。やっぱり、最初に何でこんなことを訊くのか理由を話した方がいいよね……。

 駄目だぁ! もうどうやって話したらいいかわかんないよっ! いつもなら気軽に話せるのに、何でこんな大事って感じの話をしようと思ったときに話せないのー!?


「はあ……」


 天井を見つめたまま、また盛大なため息をついたとき、控えめに扉が開いた。入ってきたのは、ぼくと同じ部屋のぼくが一番話したくて話したくない人、スター。

 ……って、スター!?


「ソラ、大丈夫……?」

「い、い、いつからそこに!? 今の話、聞いてた……?」

「うん。『あのさ、スター』ってところから」


 全部聞かれてたよ! スターに話すための練習をスター本人に聞かれてたよ! もう練習じゃなくなってるじゃん!

 心の中で自分自身に突っ込みを入れた後、息を吐いて覚悟を決めた。もう話すしかないじゃん。元々話すつもりだったけど。

 ぼくはスターにベッドに座ってもらうと、深呼吸をして昨日の夜のことを話した。スターの表情がどんどん硬くなっていく。やっぱり、いい話じゃないんだ。むしろ、聞きたくない話だったのかもしれない。それでも、ぼくは話し続けた。

 話し終えると、部屋に沈黙が下りた。ぼくはスターの様子を窺う。スターは、ぼくの話を聞いているときに俯いてしまっていた。きっと、スターはシン君が何をしようとしているのかを知っている。いや、それがわからなくても、シン君のことをぼくよりも詳しく知っているはずだ。そして、二人(ルークも入れると三人か)の間で、確実に何かがあった。だって、シン君が孤児園に入ってきたとき、シン君はスターを見て小さく笑ったから。スターもあのとき目つきが鋭かった。

 ぼくは顔を上げ、この沈黙を破った。


「スターは、シン君のことを知ってるんだよね?」

「うん……」

「じゃあ、シン君が何をしようとしているかは知ってるの?」

「……うん」


 今度は間があってからの頷き。ぼくはシン君の目的を聞こうとし、その言葉を飲み込んだ。まずはスターとシン君の関係を聞こう。多分、あの台詞からしてシン君の狙いはスターとルークだと思うから。ただの勘だけどね。


「スター、シン君との関係とか、過去にあったこととか、話してもらってもいいかな?」

「……うん」


 スターは小さく頷くと、ぼくと目を合わせ、ゆっくりと口を開いた。


「いきなりだけど、ぼくには前世や前々世の記憶があるんだ」



 前世にもこの孤児園があって、ボクやルーク、カイ君――孤児園のみんな、今と同じような姿だったんだ。同じ場所で、ボク達は同じ人生を送っていた。ちょっとだけ違うところもあったけど。園長先生も同じ姿だったよ。でも、園長先生がずっと死なずに生きているわけはないから、多分、前世は過去じゃないんだと思う。そこら辺はあんまり知らない。

 それで、前世にもシンがいて、ボクはシンに……殺されたんだ。ボクの親も、カイ君とかロイ君、ルミちゃんとかの親も。ボクが一番最初に死んじゃったから、ルークとかカイ君がどうなったかはわからないんだけど、多分、みんなもシンに……。なんで殺しているかはわかんないんだ。シンの心は読みにくくて。うん、前世も、前々世も殺されてた。だから、今のこの世界でも、このままだとボク達は殺されちゃうと思う。ボクの親は、ボクが小さい頃に殺されたし。殺したのは、シンだった。シンがボク達に言ったんだ。「君たちの親を殺したの、俺なんだよ」って……。その後、シンに飲まされた薬でボク達はシンの記憶を忘れるはずだったんだけど、ボクにその薬は効かなかったみたいで、ルークだけがシンの記憶をなくしたんだ。だから、シンはボクを狙いにこの孤児園に来た。これは、前世でもだいたい同じだったよ。え? 前世とこの世界の違うところ? それは、ソラがいることだよ。前世にはソラはいなかったんだ。それで何か変わるかなと思ったんだけど、この感じだと変わってないみたい。

 シンはこれから、誰かを殺すつもりだよ。最初はボクかな……あ、でもシンは「その前にあいつだな」って言ってたんだよね? じゃあ、ボクの前に誰かが……。誰かはわかんないよ。さっきも言ったけど、前世ではボクが最初だったんだから……。



 そこまで話し終えると、スターは唇を噛みしめた。


「……最初はね、シンはボク達のお兄ちゃんみたいな存在だったんだ。それが、それが……!」


 こんなスター初めて見た。スターはいつも意地悪そうに笑っていて、寂しいとか悲しいとか、そういう表情は見せなかったのに。

 ぼくはどう声をかければいいのかわからず、俯くスターを見つめていた。そんなとき、キィという音を立てて、扉が開かれた。

 顔を覗かせたのは、申し訳なさそうな顔をしたロイ君とルミちゃん。

 ぼくはスターと顔を見合わせ、おそるおそる質問した。


「二人とも……今の、聞いてた?」

「あ……悪い……」

「ごめん……聞いちゃって。それで、今の話って本当なの?」


 ルミちゃんにそう聞かれ、ぼくは少し迷った後、ゆっくりと頷いた。こんな状況で嘘なんかつけないし、いつかわかることだと思うから。

 ロイ君とルミちゃんは何を言えばわからない様子で、ただただぼく達を見つめていた。

 ぼくはどうにかこの沈黙を何とかしようとして、だけどいい話題が思いつかなくて、何となく気になっていたことを聞いてしまった。


「スターとルークは、なんで心が読めるの?」

「……いきなり話題変わったね。えっと、ボク達の王族は特殊な能力を持ってるんだよ。それが、心を読む能力と、前世を記憶する能力」

「へー、そうなんだ。……って、王族? スター、ここに来る前はどこに住んでたの?」

「え? 城だけど?」

「……えぇー!? お城!? じゃあ、スターって王子様なの!?」

「うん、そうだよ」


 ……知らなかった。スターと会って五年ぐらい一緒にいるけど、そんなこと一度も聞いてなかったよ。

 ロイ君とルミちゃんも当然驚いていた。まあ、ルミちゃんは「すごーい!」って感激してたけど。

 てか、さっきのシリアス的な雰囲気は? ぼくの質問ですっかりなくなっちゃったよ。ま、あんなどんよりした感じよりはいっか。

 それから、ぼく達はスターの話を誰にも話さないことと、シン君に気をつけることを約束し、みんなが心配する前に一階に戻ることにした。

 何事もなくスター達がみんなの会話に加わってから三十分後。ぼくは夕食までの時間を確認して外に出た。庭の中を歩き、孤児園の裏側に行く。そして、壁際に生えている草木の中に手を突っ込んだ。指先が堅い物に触れる。あった、これだ。

 ぼくはそれを草木から出し、じっと見つめた。

 ……懐かしい。ここに来るときにぼくが持っていた、この世界のお母さんが大事にしてた剣。スターとルークが孤児園に入る前に、もう使わないとここに隠して置いたんだ。まさか、ここでまた出すとは思ってなかった。

 鞘から剣を引き抜く。刃はまだ錆びてはいなかった。試しに落ちている木の幹に振り下ろしてみたところ、簡単に幹を斬ることが出来た。

 ぼくは誰にも見つからないこの場所で剣を振った。周りに生えている木を斬らないように気をつけて。小さい頃に数回使っただけなのに、まだ身体が使い方、というか戦い方を覚えていた。あ、使ったと言っても人を斬るためにじゃないよ。ただ、地球ではこんなことできなかったから、ゲームをやっている気分になって振ったことがあるんだ。そのとき、園長先生が剣の相手をしてくれたんだ。いつか、戦うときが来る時の為に。まあ、途中で怖くなってここに隠しちゃったんだけどね。それからはすっかり忘れてたんだけど、シン君が誰かを殺すかもって聞いて思い出したんだ。もし、シン君がスターやルークを殺そうとしたとき、これで守れればいいなって。スターの話は秘密だから、園長先生に特訓を手伝ってはもらえないんだけど、小さい頃の練習を覚えているし、一人で頑張ってみよう!

 夕ご飯の時間になるまで、ぼくは剣を振り続けていた。


 そのときのぼくは思ってもいなかった。この剣を人に向ける日が、すぐ来るということを。

 わかるとは思いますが、前々世とは前世の前の世界のことです。前世の前世……わかりにくい、というかややこしいですね。

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