第十夜「さて、始めますか!」
“何!藍須家の者と結婚をするだと!本当か!?絢!”
「はい。父さん、私……ジン様と結婚します。お願い……」
“わかった。”
「え……」
“さっそく祝言を挙げよう!藍須殿とコウセイ殿にも言わなければ!!”
(……ほっ、良かった。後は……紘……大丈夫かな……)
なぜ、こんなことになったかと言うと……
遡ること数十時間前……藍須家に泊まり、朝を迎え、朝食事にこんな事を言われたからだ。
「え!う、嘘の結婚を行う!?」
「ええ、申し訳ない、我が姫君。」
「とは、言っても実際に結婚するわけじゃないから安心して。」
「で、でも……」
突然、言われたのは「ジンと“嘘”の結婚式を挙げる。」
ユウは、申しわないという言葉とは裏腹に嬉しさと悔しさが渦巻いていることは誰も知らなかった……
フォローをするように洸も笑顔に言う。……唖然とする絢、それに対し紘は……
「大丈夫だ、絢。こいつらを信じろよ。」
「こ、紘?……」
「一か月後に式を行う。紘殿、ここからが勝負だぞ。」
「……ああ、わかってる。」
紘は「ユウ達を信じろ。」といった。にくい敵のはずなのに……絢の考えを止めるようにユウは紘に言った。
何のことなのかわからないまま、まるで、自分だけが蚊帳の外へ放り出されたこの気持ち……
隣にいるはずの紘がこんなにも遠くに感じる日が来るとは絢も紘自身も思わなかった………
そして、現在に至るわけである。
父親と話を終えた後、部屋に戻るうとする絢。考え込む絢のもとに如月家に仕える者が絢に話しかける……第一話に登場したばあやだ。ばあやは嬉しそうに言葉をかけるが、絢はどこか寂しげな顔をする。
“絢お嬢様、御結婚おめでとうございます。”
「!、えぇ、ありがとうございます。」
“あんなに幼かったのに……ばあやは嬉しゅうございます。”
「…………それで、何か?」
どこか冷たい絢、ばあやに用件を聞く。
“あぁ、申し訳ありません。実は、紘様が……”
「!、紘!!」
ばあやが用件を言い終える前に絢は、ばあやの前から消えていた……。
“……、あら、さすが絢お嬢様足だけはお早いことで……”
今の絢には声にならない思いがこみ上がり早足で紘の元へと急いだ。
「え、じゃあ、しばらくは会えないの?」
「あぁ。大丈夫だって、今抱えていることが終わったら、一番に会いに行くから、な。」
「……う、うん。気を付けてね、紘。」
「おう!」
数時間ぶりに会ったものの紘から出た言葉は、「会えない」 という言葉だった。
絢は寂しい顔をするが、紘の笑顔を見て少しばかり苦笑いをする。
絢は知っていた。紘の口癖と笑顔は嘘をつているときの癖だと、祖父が亡くなった時もその癖が出ていた。それでも、絢は笑って送ろうと心に、何かが引っかかるような思いを抱えながら、今の絢は……
今の君は…… なにを おもう ?
それから、数日後。ジンと絢の結婚噂は広まり、世界をひっくり返す勢いにまで発展していた。
「まさかここまで、大きくなるとは……」
「まぁ、想定内じゃないの?兄さん。」
「確かに……ジン、用意はできたか?」
「ああ!もう準備は万全だぜ!」
想定内の出来事でも動じないユウと洸。
そして、次の段階へと、駒を進めていく。
“いやー、嬉しい限りです。藍須様・木戸様。”
“えぇ、本当に、お似合いのお二人で……やはり貴族の方とでは違いが……”
「………」
(本当にすごいなー。噂って……)
二人の目の前にいるのはコウセイ親と絢の父親。親が見つめる先には、楽しそうな絢とジンの姿。洸は紅茶を飲みながら見ているが、ユウは嫉妬のように黒いオーラが出ていた。
外にいる、絢・ジンはそれを知る由もない。
「でも、どうしてこんなことをしなくちゃいけないんですか?」
「んー?もしかしてお前……わりぃ。」
「え?」
「ちょっと膝貸して。」
「え、ええ!」
木に寄りかかりながら喋っていたが、ジンは言葉を濁すように絢の膝に頭を置き、疲れているのか寝息が聞こえる。
事情を話してくれない紘とジン。他の人達もなんとなく接し方が違う。違和感がある中、絢は自分が嫌われているのではないだろうか?とそう思いながら……
ジンの髪に触れてみる。
「(あ……綺麗、すっごくサラサラしてて……)」
「ぅんだよ?」
「え、あ!ご、ごめんなさい。」
「別に、もうちょっと触っててくれ」
「……はい。ジン様。」
そよぐ風の中、ジンの寝顔を見、ふっと微笑む絢。昔はよく紘とやっていたことを思い出す。
もし、もし戻れるのなら子供のころに戻りあの時のまま楽しい時間を過ごしていたいそう願う絢。紘と共に楽しい日々を過ごした、あのころに戻りたい……
絢はただ、そればかりを心の中で考えていた……。
一方、室内では、話が進められていた。
“それでは、申し訳ありませんが今回の結婚は、無かったことにという事で、申し訳ありません。”
“いえいえ、気にしないでください。それに娘さんと私の息子とでは差がありすぎて、本当にもったないくらいです。”
絢の父親・コウセイ親が話している中、ボソッとユウがしゃべる。
「これで万事解決だな。」
「それはまだわからないでしょ?兄さん。」
洸もそれに合わせて小声で話をする。飲んでいたカップを置き洸は話題を変えようとする。
「そういえば、コウセイさん。息子さんはお元気ですか?」
“え?あぁ、息子ですか、いえお恥ずかしいながら、ここ最近様子がおかしいので……”
「?」
「何かあったんですか?」
“いえ、それが私たち親でも知らない所で何かをやっているようでして……”
「そうですか……それは大変ですね……」
コウセイ息子の不審な行動、通り魔事件、大きな違和感に確かな確信が目の前につかずいてきているが、何か、何か別のものが近いていることを今は知らない。
“それにしても、お似合いの二人ですなー。”
“えぇ、確かにお子さんもお二人に似て素敵な子供になるでしょうねー。”
「……っ。」
コウセイ親・絢の父親の言葉にユウの怒りが更にこみ上げるのを抑えようとするがピキッとカップにひびが入る。なぜか洸のカップにもひびが………
そこへ、松風・皐月が来た。
「失礼します。洸様御報告が……」
「あぁ、わかった。大変申し訳ありません。私はこれで失礼します。」
“ああ、いえいえ、こちらこそ申し訳ありません。”
「!、洸さん何かあったんですか?」
「おぉ、ジン。……大丈夫か?」
「ああ……」
席を外す洸。外にいたジンと絢は室内に戻り洸と少し話した。
だが、ユウの黒い笑顔に迎えられたジンは、なぜか変な汗をかいていた。
その光景に“?”を飛ばすコウセイ親・絢の父親。
ジンの腕の中には絢が眠っている。
「何をしたんだ?ジン」(怒)
「な、何もして、ない、から。親父。」
「ほう?それはよかったな。ジン。」
「あ、アハはハハハハハハハハハハ。」
ジンとユウの周りには黒いオーラがよどんでいた……。




