最後の日、直前。
流れる雲。頬をうつ風。
俺、夕凪葵は授業をサボって今、部室である別館の剣道場の縁側でで寝転んでいた。
今日はポカポカと温かく、絶好の昼寝日和。
俺は当たり前が嫌いだった。わかりきったものを習い、教科書通りに生きているのがまるで人生を勝手に決めつけられてるようだからだ。
だから俺は当たり前のように全教科満点をとったあとこうして堂々と授業という名の洗脳をサボっている。
「あーくん。お茶はいったよー」
おっと、彼女の説明を忘れていた。
今部室でお茶を湯飲みに注いで持ってきてくれたのは同じクラスで同じく全教科満点をとってサボっている二階堂聖。
同じマンションの俺と同じ部屋で住んでいる──同居人だ。
長い艶のある黒髪を腰までストレートに伸ばし、奥ゆかしい雰囲気をだしている。
そして世紀の人形のような整った顔立ちにすらりとしていながら控えめに自己主張する肢体。
彼女とのつきあいは四歳のころからだ。天涯孤独たる俺と違い、彼女は元華族という名家に生まれた。
本来なら話すことどころか関わることもない俺達だったが、ひょんなことから追ってらしき黒服に追われていた彼女を俺が助けたところから始まる。
どうやら家の方で婚約者が決められてたらしく、また両親が黒いことをしていたため、家から逃げ出したらしい。
まだ四歳児でだぜ?ほんとスゲーよ。
取りあえず追っ手を二十メートルくらい蹴り飛ばし、理由を聞いた俺は彼女を自由にするため、彼女の実家に押し掛け、警備員を一人のこらず地にめり込ませ、婚約者とやらを二度と女に近づけなくなるよう調教──もとい折かn──教育し、彼女の屑親には脱税などなど不正取引の証拠を元に恐喝(OHANASI)した。
──父親のほうが銃を向けてきたので銃を叩き切ったあと(素手で)両足をへし折ってやった。なのでこの交渉は涙と鼻水とメイク跡でグシャグシャになった顔を面白おかしくデコレーションした母親の方と交わしておいた。もし裏で手を回そうとしたなら今度は生きるすべてを奪うと言って。
まったく、ああいうのは尊厳とか世間の風当たりとかを面白いほど大切にするからな。
そして彼女を俺の住んでたマンションに招き、以降一緒に暮らしている。
彼女はその容姿ゆえに告白やストーカー紛いによる被害が半端ない。だから俺は彼女と付き合ってると嘘の情報をばらまき、下心丸出しの下半身直結野郎共から守っている。
「ああ、ありがとさん」
コトッ、と俺のそばに置かれた緑茶をずずずと飲みながら、未だくそ真面目に勉強してるであろう生徒がいる本館の方をみやる。
「今日はどうするの?」
「まっ、今日ものんびりここで過ごすか……そうだな、久々にやるか?」
「うん。わかった。無手?木刀?それとも真剣?」
「はは、何か新婚さんみたいだな」
そんな新婚なんかいなフベラッ!
「……あれ?あーくん、何で石を空に投げたの?」
「気にすんな。馬鹿が何かほざいてると思ったから何となく、だ」
「……?わかった。それで、どうする?」
「真剣でいいだろ」
「そういうと思った」
にこっと笑った聖は道場の隅に立て掛けてあった大太刀と二本の小太刀を持ってくる。
ちなみに大太刀が聖で小太刀は俺だ。
俺はボタンを留めてない学ランのまま、聖は防具なしの剣道着で腰に刀を吊るすと、互いに距離をとる。
「んじゃ、いつも通り」
「うん。こっちは準備できてる」
俺はポケットから五百円玉を取りだし、コイントス
の要領で弾こうとして────
その時、学校の敷地内にナニカが入ってきたことを知覚した。