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牢獄にて・1 (残酷表現有り)

主人公がひどく痛めつけられます。こういうのが苦手な人は注意です。

 頬に当てていた手から、完全に力が抜け落ちる。瞳にかろうじて残っていた光すら、ふっとどこかへいってしまった。それまでは確かに感じられていた温度が、急激に冷たさとすり替わっていく。これが「死」なのだと、柚子は思った。

 祖父も、祖母も、死に目を見届けてやれなかった。

 あんなに愛してくれたのに、一人で逝かせてしまった。アレックスはこの世界へ来て、初めて会話をした人間だ。もしかしたら、好意くらい抱いていたかもしれない。外見は全く違っていたが、祖父にとても似ていた。

 もっと話したかった。

 もっと色々聞きたかった。料理はとても美味しかったし、話は面白かった。ドレスだって本当は嬉しかったし、助けてもらったお礼も言っていない。

「わたし、何も伝えられなかった」

 アレックスは答えない。

 彼は死んだ。

 会話からするに、命を狙われていたのだろう。従者もいたし、それなりに身分のある立場なのは間違いない。従者の「戻るべきだ」という忠告を無視したのは、柚子がいたからだ。

「わたしの、せい?」

「そう。お前の所為ですよ、何もかも」

 背後に立った人間は、聞いたことのある声で告げた。

「国王暗殺の罪で、お前を投獄する。国王を弑した罪は大変重い」

「こく、おう?」

 腕を引っ張られた。

 よろよろと立ち上がると、何故か罵倒らしき言葉を聞いた。頬が張られる。勢い余って転んだ拍子に背を蹴られた。一人ではない。あちこちに痛みを感じながら、柚子は呆然と言葉を反芻する。

「国王、だったの。アレックス、が」

「無礼者が!!」

「なんだこれは。薄汚い髪に泥のような目をしているぞ。こんな気持ち悪い生き物、見たことがない」

「遠い東の島から来たそうですよ」

「奴隷じゃないか。身の程も知らない愚か者めが」

 また蹴られた。髪を引っ張って強引に起き上がらせ、殴る。

「それくらいにしなさい。この者には、きちんと罪を償わせなければ」

「へっ、お優しいこって」

 罪を犯した。

 そうかもしれない。本当は柚子も、気付いていたのだ。王様以外にありえないと分かっていたのに、わざと流された。逃げようと思えば逃げられただろう。実際、食事の後に手を振り払って逃げたのだから。

 本当は、ちやほやされるのが嬉しかったのだ。

 お嬢さんと呼ばれ、お姫様みたいに着飾ってもらい、美味しい食事を腹いっぱい食べられた。アレックスは強引だったが、柚子の意志を完全に無視するということはなかった。

「ごめんなさい」

「謝って済むことか、奴隷風情のくせに!」

 数えきれないほど殴られても、痛みは感じなくなっていた。

 意識が少しずつ黒に塗りつぶされていっても、柚子はきっと忘れない。アレックスがくれた言葉と一緒に、小さな鍵を強く抱きしめた。


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