秋のキャンパス…失禁
「やめてくれぇ〜…あぁぁ」廊下に響き渡る涙混じりの叫び声。6人の男子学生が、1人の男子学生のジーパンを脱がし、トランクスを剥ぎ取ろうとする、いつもの光景が奈央の目に入った。いじめが日常化しているこの学校。だが中学でも高校でもない。大学である。底辺の為、全入状態で、荒れた高校そのままの状況なのである。 新山奈央、19歳、大学1年。黒髪のロングヘアーが似合う清楚な女子学生だ。いつもはその光景に、憤りを感じる奈央だが、今は人どころじゃない。実は前の90分の講義中から、トイレを我慢していたのだ。何とか終了まで堪えて、次の講義までにトイレを済ませておきたかった。だが、目的のトイレの前では、多数の男女の学生がいじめを見て、嘲笑している。
とてもトイレに入れる雰囲気ではない。
しかし、他のトイレは少し遠い為、講義に間に合わない。 (もう、始まっちゃうよ、仕方ない、我慢しよ)奈央は教室に入った。100人規模の教室に学生がぎっしりと座っている。 (何処か空いてる席は…あっ、あそこしかない、やだなぁ)そこは奈央がもっとも苦手としている派手な学生グループが陣取っている場所だった。いわゆるギャル男とギャルである。
何かをくっちゃべっていたのだが、奈央がその席に座ると、黙ってそれぞれが顔を見合わせた。明らかに(何、コイツ)と、言わんばかりの顔だ。 (90分間、目をつけられない様にやり過ごさなきゃ)大人しい奈央にとっても、いじめは他人事じゃない。いつターゲットにされるか分からない。そして、もうひとつ、乗り越えなければならない、大きな危機、おしっこの我慢である。 先生が教室に入って来て、間もなく始業のベルが鳴った。
相変わらずお喋りや携帯いじりを止めない学生が多い。 奈央はかなりの不安があった(終了まで我慢出来なかったらどうしよう、教室でしたくない…) 20分が経過した頃、奈央はかなりの尿意に、ジッとしてはいられなくなった。太股を擦り合わせたり、踵を上げ下げしたりを繰り返していた。しかし、尿意が尿道口に迫ってくる感覚は更に強くなり、恐怖と不安が奈央の緊張感を高めた。
さっきまであった、寄せては引く、尿意の波の間隔も…もうなくなった。溢れ出さない様、膀胱と尿道口に力をいれて、ただ、ひたすら我慢するしかない。 いや、我慢しなくても、先生に許可をとれば行かせてもらえるだろう。しかし、大人しい奈央が、100人程いる学生の前で、トイレを申告する事は、無理だった。
「トイレに行かせて下さい」その一言が恥ずかしくて、どうしても言えなかった。奈央は19年間の人生を振り返っていた(思えば、小中高とトイレに行きたいといえなくて、ギリギリまで我慢した経験があったな。でも、これまでは、なんとか我慢出来た。失敗は免れてきた。でも…今日は…本当に駄目かも…ここで出るかもしれない…イヤッ、絶対漏らしたくない) 何度も何度も時計をみている。やっと一時間が経過した。
後、30分。
いつもとは違う、とてつもなく長い、取り返しのつかない悲劇に向かう、30分。
もう奈央はピクリとも動けない状態となっていた。寒くなった季節に薄手のジャケット、ブラウスに膝下丈のフレアスカート、ストッキング。パンプスを履いた指先から、足、腰、体の芯まで冷えていた。なのに背中は汗ばんでいる。この教室は4人掛けの机の為、周りの学生は、奈央の様子がおかしいのに気付いていた。明らかにトイレを我慢しているのは、明白だった。だが誰も
「トイレに行きたいんじゃない?」と聞く者はいなかった。奈央は太股をピタリと閉じ、背筋をピンと伸ばし、やや前屈みになっている。(もう、感覚が分かんない。まだ大丈夫だよね)足元を確認した。床は濡れてはいなかった。だが頭の中では何度も、自分が粗相をしている瞬間、してしまった後、クラスの学生の反応を想像した。最悪の事態に備え、覚悟の気持ちを持たせる為に…。残り10分だった。
奈央の下半身が僅かに震え始めた。
(もう、我慢出来ない、漏れる、漏れる、あぁ…おしっこ…ここで出る…漏らす)奈央の端正な顔が、泣きそうな顔になった。この時、奈央は気付いていなかったが、数人の学生が、携帯のカメラを準備していた。後、5分だった。 「シューーーー」奈央の尿道口から、おしっこが勝手に溢れ出した。気持ちは我慢しているつもりだった。でも、膀胱の容量が限界だった。パンティが一気に温かくなった。(あーーー出ちゃったー)奈央は捻る様に脚を閉じ、とっさに左手で股間をきつく押さえた。だが、もはや、おしっこを止める事は出来なかった。スカートのお尻が
「シュワワワワワ〜〜〜」と濡れた。ベージュのストッキングを穿いたふくらはぎを伝い一筋のおしっこが
「ツーーーッ」とながれた。次の瞬間、スカートの裾から
「ビシャッビシャッビシャ〜〜〜〜〜ッ」と教室に響き渡る大きな音をたて、おしっこが床に流れ落ちた。ふくらはぎに、幾筋もの流れを作り、パンプスを濡らし、スカートから落ちるおしっこと合流して、床に水溜まりをドバァ〜〜〜と作っていった。
1分20秒、出続けたおしっこがようやく止まった。パンティ、スカートの後と前股間部、ストッキング、パンプスがグシャグシャに濡れた。白いリノリウムの床には、左側の席と、右側の通路に広がる程の、大量のおしっこの海が出来ていた。膀胱に溜るのが早かった為、おしっこの色は薄黄色だ。奈央は呆然と、定まらない視線のまま、前を見つめていた。
「カシャ、カシャ」携帯のシャッター音に奈央は我に返った。すぐ左のギャル男が
「うわ〜、こいつ汚ねぇ〜、ションベン垂れ流しやがった!!」と大声で言った。通路を挟んだ右隣のギャルが
「マジ信じらんないんだけど。あっち行けよ。汚ねえ」と、奈央の机の右部分を蹴った。その流れから一気に周りの学生に広まった。
「恥ずかしいね」
「大学生にもなっておもらしなんて、マジ信じられねぇ」
「クククッ、ハハハッ、教室はトイレじゃねえぞ」教室中が大騒ぎになり、嘲笑や罵倒が奈央の悲しみを、絶望の暗闇へ落として行った。
(しちゃった…もう…大学生活も終わり…かな…でも、出てないかも) 奈央はそっと足元を見た。淡い期待は、その大きなおしっこの水溜まりを見た時、打ち砕かれた。奈央は机に広げたノートを意味もなく見つめた。 コツ…コツ…靴音を立て、先生が近付いてきた。40代後半の男性教諭は奈央の太股を、スカートの上から平手で、
「パチンッ!!」と叩いた。そして
「おしっこをしたいなら早めにいいなさい。大学生にもなって。この子はっ!!」と、叱責した。奈央はこの時、堪えていた糸がプツリと切れた。 「ウワァーーーーーーーーーーーッ」奈央は小さな子供の様に大声をあげ泣きじゃくった。顔を隠さず、泣き面を晒しながら。その時、授業終了のチャイムがなった。 「次の学生に迷惑だから、早くおしっこの後始末をしなさい」教諭が冷たく言い放った。
「あ…い…」奈央は泣きながら、返事にならない様な返事をした。終了のチャイムは鳴ったが、席を立つ学生はいない。大学で授業中おもらしをした女子大生…その現場…一生の内で殆んどの人が出会えない千載一偶の出来事だ。教室中の学生が奈央に視線を集めていた。奈央が席を立った。スカートの裾から
「ポタタタタッ」と滴が落ちた。フレアスカートの後は上から下まで1面ビショビショだった。歩く度に脚に触れ、パチッ、カサッと小さな音をたてる。他の学生の嘲笑と突き刺さる冷たい視線の中、奈央は教室を出て、掃除用具入れに向かった。バケツに水を入れ、雑巾を手に教室へ戻ると、次の授業の学生と入れ替わる所だった。
自分の取っている授業の、クラスの学生と、その次の授業の学生に、失敗を見られ、おしっこの後始末をする屈辱。女子大生という大人とも、まだ子供とも取られる、揺れる年頃の女性にとってこれ以上ない羞恥である。前の授業の学生から話を聞いた、次の授業の学生が早速、奈央に冷やかしの視線と言葉を投げつける。椅子と床の後始末をすると鞄を持って足早に教室を出た。 ただ、濡れたスカートのまま、過ごす訳にはいかなかった。奈央は大学の医務室に行った。 「あの…すいません。おしっこを…漏らしたので、着替えを貸して下さい。」
それを聞いた医務室の担当教諭・春恵は、一瞬、初めての出来事に目を大きく見張った。(えっ!嘘でしょ)
しかし、濡れたストッキングを見た春恵は、奈央をベッドのある所に連れて行き、カーテンで隠した。 「ちょっと待ってて」そう言って春恵は、引き出しから大きめの下着と赤いジャージを取り、カーテンをそっと開け、渡した。
「有難うございます」着替え終えた奈央は次の授業に急いだ。上は私服、下は大学のジャージというアンバランスな格好で、その後の授業を受けた。しかし…それは、その日で終らなかった。 次の日、大学に行くと、奈央の失禁の事はかなりの学生に知れ渡っていた。奈央を見て、友人同士で顔を見会わせニタニタ笑い合っていた。そして、教室に入ると、すでにそこに居た学生達が、一斉に目線を向けてきた。
その中でも、最も卑劣なイジメを繰り返しているグループが、奈央目がけて、無数の紙オムツを投げつけてきた。奈央はこの時、自分がターゲットにされた事を確信した。そして、この大学で学士取得を諦めたのだった。奈央は教室から出た。教室からは大勢の学生達の高笑いが響いてきた。新山奈央、大学一年、秋の深まるキャンパスでの失禁が人生を変えてしまった。〈完〉
読んで頂きまして、有難うございます。小説は創作ですが、実際の体験や目撃、聞いた話等、色々な物が詰まっています。学校でトイレの我慢の経験は殆んどの人があると思います。切なく、悲しい思い出。どこかオーバーラップするかも。絶望的な結末は、一度の失敗も許されない、そんな時代背景を重ねてみました。