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迷宮に夢を見た少女のお話 1


 それからは魔物と遭遇する事はなく、順調に地上へ続く階段の近くまで来ることが出来た。


「着いたぞ」と、鎧は自身の後ろを歩く、迷子になった幼子のように不安げな表情を見せるリリーへ振り返り言った。


「あ、…うん」


 少女はその声にびくりと震え、返事をした。



『迷宮に夢を見た少女のお話』 Part1



「ちょっと、リリ! 居るんでしょ! 開けなさい! リーリッ!!!」


 朝日が昇り、都市の通りが賑わいを見せ出した頃、ドンドン、ドンドンと扉を荒々しく叩く音が、朝の喧騒に包まれる宿に響いた。宿の中からは多彩な音が聞こえてくる。食事を頼む野太い声、それに答える陽気な声、早く起きろと急かす少年の声、赤子の泣く声、一日の始まりは騒がしく賑やかな雰囲気で始まった。


「こんのっ!」


 扉を叩く少女が何時まで経っても開かない扉を前に、我慢の限界が来たのか眦を上げて怒りを顕にした。少女が赤い燐光に包まれた拳を振りかぶる。


「邪魔するんじゃないわよっ!」


 魔力による恩恵を得た拳の威力は何倍にも強化され、本来扉を貫通する威力など望める筈もない拳を、扉を貫通するほどの威力を持った拳へと変貌させた。

 少女の拳はズガンッと破砕音を響かせて、健気に役目を果たしていた扉を貫通し、二の腕の半ばまで突き刺さった。


「確か…鍵は、ここらへんだったわよね」


 前回来た時の記憶を頼りに少女は、扉に空いた腕一本分の隙間から腕を引き抜くことなく、ドアノブの反対側へと手を回した。内側からカチリと鍵を捻る。扉のロックが外れた。

 少女が扉を開き、室内へと入っていく。そこで見たものは、布団を頭から被り、全身を覆ったリリーだった。


「あ…お姉ちゃん」


 リリーが、女性が室内へと入ってきたことに漸く気づいた。その表情は暗い。顔色は悪く、隈も濃い。少女は知る由もなかったが、リリーは昨夜迷宮から帰還してから一睡もせずにいた。眠りにつこうとしても、スライムに消化されていた少女の顔が浮かび眠れなかった。否、彼女の顔が忘れられず、一歩間違えていれば自身が彼女のように喰われる事となったかもしれなかった事に恐怖し、眠れなかったのだった。

 そんなリリーを見て、少女が小さく呟いた。


「もっと早く来るんだったわ」と、少女はすぐに駆けつけなかった事に後悔した。





「はあっ!?迷宮に潜ったですって!?」


 過程をある程度話したリリーは、姉と慕う彼女、アカシアにそう怒鳴られた。


「初めに言ったわよね!? まずは教習所に行きなさいって!」

「う、うん」


 リリーは俯いて力なく返事を返した。


「はぁ。…まあ、いいわ。勝手に、迷宮に入ったのは許さないけど、説教は勘弁してあげる。幸いな事に怪我はしなかったようだしね。もしその可愛い顔に一筋でも傷を付けていたら説教3時間コースだったわよ」


 アカシアはリリーに大きな傷がない事を確認し、リリーの頬に優しく手を添えた。


「だから、これで許してあげる」


 ぎゅーっと頬を抓った。


「い、いふぁい! いふぁいよ!」


リリーの口から悲鳴が出た。しかし、その声には僅かなりとも元気が宿っていたのだった。

短いけど…まあ良いや。

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