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迷宮を彷徨う鎧のお話 1

『鎧の幽霊と狐耳の少女』


「きゃああああああああ!」

暗い通路。明かりとなるのは、外から持ち込まれた松明やランタンだけの世界に悲鳴が響き渡った。

悲鳴を上げたのは、年の若い少女だった。おっかなびっくり迷宮を彷徨う少女は、松明に照らされ多少明るくなった闇の中で、此方の姿を見たら悲鳴を上げて倒れてしまった。

年のほどは15,6歳といった所だろうか。腰に安物の片手剣を吊るし、皮鎧を着ている。襤褸のように擦り切れた外套を纏い、秋の稲穂のような色合いの髪を馬の尾のように後頭部で纏めている。胸や尻は薄く、肉付きは良くない。痩せ細っているというのが正しいだろう。顔は非常に整っていて、後数年もすれば引く手数多な事は明白だった。顔の横に純人(じゅんじん)の耳はなく、頭部に狐のような耳があった。おそらく狐人(きつねびと)なのだろう。

「さて、どうするか…」

鎧は出会い頭に気を失い、危険な迷宮で悠長に眠りこける亜人の少女を見下ろして呟いた。


『迷宮を彷徨う鎧のお話』 Part1


パチパチと薪の爆ぜる音と、少女の呼吸音。その二つだけが静寂に満ちた石室に響くものだった。

パチッと一際大きく薪の爆ぜる音がした。

「ん、んう」

薪の爆ぜる音に誘われて少女が目を覚ました。

「んーー」、と少女は固まった筋肉を解すように伸びをした。少女に掛けられた厚い黒染めのマントが肩から落ちた。

「よく寝た。……ここ何処?」

たっぷり数秒間ほど伸びをした少女は、見知らぬ場所に居ることに気付く。少女は用心の為に、腰の剣に手を伸ばした。

「…あれ?」

伸ばした手は空を切った。武器は取上げられていた。少女の額にたらりと汗が流れた。

「もしかして、この状況は非っ常に不味いのでは?」

「ようやく気付いたのか?」

「ひゃあ!」

横合いから聞こえてきた硬質な声に少女は短い悲鳴を上げた。

「な、ななな何!?」

少女は両手をクロスさせて腰を低く構える謎の闘技、狐拳の構えを取った。少女が子どもの頃に考えたオリジナル拳法である。実用性はない。

「そんなに怯えるな、取って喰いやしないよ」

「ふ、ふん。騙されるもんか! 姿も見せない奴が信用できる訳ないだろ!」

「…姿は最初から見せているのだがな」

「な、なら何処にいるんだよ! 姿を見せろよ! 泣いちゃうぞ!」

少女はその宝石のように綺麗な瞳に涙を浮かべて言った。

「目の前に居るさ」

「目の前って…」

少女は涙の滲む瞳を凝らして目の前の空間を凝視する。目の前には木製の椅子に腰掛けた鎧しかなかったから、何らかのスキルで持って空間に隠れているのだと考えたのだ。

「…鎧しかないじゃないか」

「その鎧が俺だからな」

動かくなど考えてもいなかった鎧が動き、右手を上げた。

「きゃぁああああああ! お化けぇえええええ!」

少女は気を失った。

「はぁ」

鎧のため息が静寂に満ちた石室に空しく響いた。

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