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追想の愛

婚約破棄した相手がいつ平民だとおっしゃいました?

作者: 伊藤猫
掲載日:2026/09/20


 貴族の学校が魔術の学校と合併した。

 どちらも王立。場所も同じ王都でお隣同士。だけどその学ぶ事が異なり、校風も異なる。

 一つは貴族として将来の領主、淑女、騎士、文官になるため、そして大人になった時のつながりを重視する目的の学校。もう一つは魔術を主軸として礼儀作法や言葉遣いなどの基礎教育は必要最低限。実力と金さえあれば平民でも入学することは可能だった。

 学校が統一しても制度や設備の調整はまだ不十分で、互いの建物の壁を取っ払っただけの状態。制服が統一されても交流する場も異なる。12歳までの生徒が所属する初等部はほとんど同じ内容の授業を受けることになるが、それ以上の高等部は魔術科、領主科、文官科、騎士科と別れるため、互いが互いを別の学校であると認識していた。


「ファリナセア・フラッシュライト!お前の可愛げのなさにはうんざりだ。婚約を破棄する!」


 ファリナセア・フラッシュライトは男爵夫妻に育てられ、伯爵家の嫡男であるジェラルド=カモミール・グロッシュラーと婚約したが、魔術の学校に入学し、3年生の途中で貴族の学校へ領主科へ編入。

 彼女の婚約者であるジェラルドは彼女が選ぶ進路を知るたびに彼女に激昂した。前例がない、自分と結婚するつもりがあるのか。

 ジェラルドの家は普通の貴族の家である。魔術に関する事業をしているのは男爵家であって、ファリナセアが伯爵家に嫁げばそのつながりもほとんどなくなる。だからジェラルドは意味がないだろうと怒っていたが、ジェラルドの両親である伯爵夫妻は賢く教養も振る舞いも良い彼女の自由にさせなさいと窘めることで落ち着いた。

 しかし領主科は意味が分からない。ジェラルドも領主になるために領主科に在籍しているが、伯爵夫人になる彼女が必要なのは社交であって領地経営ではない。これには伯爵夫妻も、男爵夫妻も困惑した。ちなみに男爵家は一代限りの爵位なので領地はない。

 理由を聞いても「そこで学びやりたいことがある」としか答えない。


 そもそも彼女が伯爵家に嫁ぐにあたった経緯は伯爵家が男爵家に自分の領地に販路を広げる許可、領地を跨いだ商売で関税を免除することを打診したことがきっかけだ。

 男爵家は元々商人だ。魔道具事業が成功し、魔道具の特許の功績で爵位を賜った。一代限りであるが、その財は莫大だ。

 伯爵家は男爵家に病弱なファリナセアがいることをどこかで嗅ぎ付け、嫡男である彼の妻に迎えたいと言った。あくまで彼女が男爵家の娘だという前提で。

 ファリナセアはある理由で男爵家が他家から預かっている子供だ。身分もあり難色を示したが、伯爵がどのような伝手を付けたのかファリナセアの両親にも許可をもぎ取る。ファリナセアは自分の体の弱さを理解していたので、三年子供が出来なかったら第二夫人を娶ってもいいと伯爵に伝えた。

 それほど伯爵家は金銭に困窮しており、借金をなくすどころか儲けるきっかけが欲しかった。第二夫人を囲う金も男爵家からもたらされる金でどうにかなると信じて。

 ということもあり将来お飾りの伯爵夫人になる可能性もあるのだから、もう結婚するまで自由にさせてあげようという親心で折れるしかなかった。

 しかしそれは当人の一人であるジェラルドは納得が行かなかった。


 第二夫人を娶るどころか、第一夫人と結婚する前に彼は淑女科の生徒と浮気し、ファリナセアとの婚約破棄を公然の前で言い放った。


「……そうですか。元々過ぎたものだとは思っておりました」

「そうだろう」


 よくわかっているじゃないかとジェラルドは上から目線で物を言ってくる。

 ファリナセアから見てジェラルドは傲慢な男だった。

 婚約したばかりの頃は病弱なファリナセアを気にかけ、頻繫に見舞いに来てくれた。しかし療養のために空気のきれいな田舎で暮らし始めると、遠いという理由で婚約者としての義務である贈り物どころか手紙一つ寄こさなくなり、快癒して学校に入ることになってから彼女が決めること何でもかんでも文句を言い、指図するようになった。

 それで彼女が彼の言う事を素直に聞くわけでもなく、彼女が反対意見に納得しなければ自分のやりたいことは何でもかんでもやるようになった。病で何もできなくなった時の反動だ。

 それを彼ははしたない、こんな身勝手な女を妻にしたら我が家の財政が傾いてしまうと様々なところで嘆き、挙句の果てには「一代限りの男爵家の娘なんて実質平民。自分には不相応だ」と声を上げるようになる。厄介なのは親にではなく、学校の友人や学校の中の社交場で嘆くところだ。

 おかげで自分は領主科の生徒だけでなく学校内でも針の筵になる。魔術学校時代の友人は事情を聞いて同情してくれたものの、魔術学校と貴族学校では様々な理由で折り合いがつかない。


 そして今、学校同士の壁が取り払われた広場で大勢の学生が野次馬になり始めた。人気のないところで何か言われるよりはと思って広場にしたのだがそこで浮気を窘めたのは悪手だった。さすがにこれ以上は騒ぎになるのは両家にとって醜聞になる。


「ではジェラルド様から父にお話なさってください」

「なぜ私がそんなことを!」

「だって、この婚約は家同士の契約でもありますし、私も望んで貴方と婚約してた訳じゃありません」


 将来結婚したいとは思っていたけれど、ファリナセアは自分に誠実であれば誰でもよかった。むしろ指名したのはそっちの家だ。それをジェラルドは全く分かっていない。


「はぁ?見栄張るな!いつもお前は」

「その御姿を見たら私はもうあなたへの情もなにも失せました。失礼します」


 すでに彼が浮気をしているのは把握しているし男爵にも報告している。男爵から伯爵家に伝えていることは聞いていた。以前から会いに行くどころか、手紙一つ寄こされたことがないことも伝えていたのだから、男爵家の不利益になることは無いだろう。

 頭を下げ、踵を返して貴族学校側の建物に向かう。レポートをまとめ上げなければならない。


「この平民のくせに、領主科に行った間抜けが!」


 遠くで何か叫んでいても今はそれを気にする余裕は無かった。


―――


「はぁ!?婚約破棄された!?」

「声が大きい。仕方ないじゃない。向こうから言われたのよ」

「なんで本人がそこまで冷静なんだよ」


 最近関わるようになった同じ領主科の友人に呆れられる。

 共同で提出しなければならないレポートを照らし合わせている最中、思い出したかのように言ったファリナセアに対して呆れた顔をした。


「それで親御さんは何て?」

「元婚約者が伝えるよう言ったから知らない」

「そういうのよくないぞ」

「いいんじゃないかしら。元々家に利がある婚約ではなかったもの」


 男爵家が販路を増やしたいというのは事実だが、販路を増やす場所は別にグロッシュラー領じゃなくても良かったのだ。むしろ借金を負担するのだから不利益にしかならない。

 ファリナセアは魔術科から領主科に転身した珍しい生徒である。

 別に彼女が領地持ちの家の嫡子になってしまったわけでも、将来領地を賜る予定もない。

 だが難易度の高い領主科への編入試験では全て満点だった。それで彼女が編入できない理由は無く、長期休みを待たず高等部3年生の春という中途半端な時期に編入が叶った。

 そんな彼女を何者だと伺う者はいても近寄ることはなく、興味本位でなぜ転身したのかと問えば「学びたかったから」だと答えた。

 ある者は間抜けと笑い、ある者は憐れみ、ある者は気味悪がった。ジェラルドの嘆きを真に受けたものは彼女を良い印象で見ることは無かった。


「いくら疎遠だったとはいえ関心がないのはどうなのさ……」

「逆にエレンディルはどうなの?また実家がお金の支払い滞っていたじゃない」

「どうもしない。優秀な相方のおかげで仕事の時間が出来たし」


 エレンディルは、没落寸前のホーク家の者ということで利にならないこと、エレンディル自身があまり人と話す性格ではないのでつるむ相手もいない。そんな二人が一緒になるのは自然なことだった。

 彼は目の下にクマがあり、それを隠す様に金髪の髪を伸ばしているが、元々酷い癖っ毛なのも相まって鳥の巣のような頭をしている。正直あまり良い身なりではない。整える時間がなくてもせめて髪を切ればいいのにとは思うがその金も惜しいという。おかげで裏で彼はたんぽぽ頭と呼ばれていた。


 そうなるのは彼が勉学の合間に隣国の本の翻訳作業という仕事をしていたからだ。

 貴族として隣国語は基礎教養であるが、金を稼ぐのを嫌う貴族は隣国のましてや平民が読む娯楽小説の翻訳仕事を受ける者は中々いない。

 そしてその金は学費に充てていた。実家の支援だけでは足りないのだ。ファリナセアは彼に学費の援助をしようかと申し出たが、それは即断られた。


「学生の本分は勉強でしょう?」

「いいんだ。これが発表できれば、国からの補助金が下りるし、事業を進めば家も再興できる。提案してくれたお前には感謝してるんだ。ありがとう。ファリナセア」


 感謝されるのはむずがゆい。


「ちょうどいいから声をかけただけよ。そっちも魔術科に対して良い印象持ってないのではなくて?」

「本当は俺は魔術科に行きたかった。でも俺も長男だから領地を受け継がないといけない。弟たちも金のない家を継ぎたくないんだとさ」

「……そう、そういわれるとこちらも複雑ね」

「だからこうして、共同研究で魔術の一端を知ることが出来るのは君のおかげだ。この事業が認められて成功すれば我が家も俺が継ぐころには憂いもなくなる。君にも利益があるだろう?」

「もちろん。分前はちゃんといただきます」


 やりとりが面白くて二人は笑いあった。


―――


「婚約破棄!?お前はなんということをしてくれたんだ!!」


 破棄の手続きをしようと王都の実家に来ていたジェラルドは父の怒りに理解が出来なかった。


「平民は伯爵家に相応しくないでしょう?家の借金はアマリリスの子爵家に頼めば――」

「まさか彼女を平民だと思っていたのか?」

「男爵と言えど一代限りだ。平民のようなものでしょう」


 ジェラルドの父は頭を抱えた。

 確かに彼女はフラッシュライト男爵家に育てられた。だが彼女は男爵夫妻の実子でもなければ養子でもない。その実の親が事情があって仕事から離れられないから代わりに育てられただけなのだ。

 しかし顔合わせの時も男爵夫妻は名代だと言っていたはずなのに、ファリナセア自身もフラッシュライトを名乗っていたから、息子は勘違いしたのかと合点しさらに頭を抱えた。

 ファリナセアの髪は黒髪だ。それはありふれた髪色のひとつだが、瞳の色は珍しく左目は金色、右目が青灰色だ。その瞳の色で彼女が何者なのか分からないとは。

 昨今の若者は今も聖都から王都に移住しないあの一族の容姿を知らないから言われないとわからないとは聞いていたが、それでも領主科、いや学院に通っている者がそれを知らないなんてありえない。


「向こうに何と言えばいいか……」


 彼女は幼少期の病のせいかお披露目がされていない。学院に入学できたのであれば、近いうちにデビュタントをするのかと名代の男爵家に問い合わせていたのに、返答されたのはジェラルドが浮気をしていること、療養していた頃から手紙一つ送られていなかったことなど苦情だった。

 あの令嬢は病が快癒してから慎みが無くなってしまったとはいえ、二人の関係は上手くいっていると思っていたのにこんなことになっているとは。


「いいかジェラルド、あのお方は――」

「貴方が何と言おうと私はアマリリスと結婚します!」

「待てジェラルド話は終わってない!」


 しかし父の引き留めも叶わずジェラルドは書斎から出て行ってしまった。


―――


 フラッシュライト家とグロッシュラー家で婚約解消の手続きは恙なく終わった。両家話し合いの結果だ。

 グロッシュラー家側はジェラルド以外はごねているようだったけれど、父がある事を述べるとすぐに折れた。

 ファリナセアは同席はしなかったが、父が隠し持っていた水晶でその様子は見ていた。

 ジェラルドに対し父は「彼女に慎みがないと言っていたが慎みがないのはどちらだろうか」と物申していたのをジェラルドが「将来の夫も敬えない女の方が慎みがないだろう」と言い、近くで聞いていた伯爵は頭を抱えていた。

 伯爵は父に対し詫びを入れ、「そちらの家にもこちらから詫びをしたい」と言っていたが父はお茶を濁していた。()()()はこの婚約にほとんど無関係なのにとファリナセアは呆れる。


 ジェラルドとの婚約がなくなった話はまたたく間に広がった。ジェラルドが言い広めたのだろう。

 おかげでどこかで嘲笑の声が聞こえてもファリナセアは背中を丸めることなく学院内を歩いていた。それでもやはり気分が良いものではなく、お昼休みは魔術科に近い裏庭のベンチでランチボックスを開ける。


「貴族学院は本当に陰湿ね」


 そういったゴシップは娯楽の種なのだ。

 ジェラルドが被害者面しているのも面倒だ。ファリナセアとジェラルドが婚約していた背景を知っている者ですら嘲り笑う。

 実力主義だった魔術学院では多少の身分の差で隔たりもあったし関わる相手も友人としてならある程度の制限はあった。平民なんかは通常のカリキュラムに将来宮廷魔術師や貴族お抱えの術師になる可能性がある者のために礼儀作法の授業があったが、それでも基本は平民も高位貴族も対等だった。今思えば。

 貴族学院は貴族が貴族たらしめんとする場所だ。階級は絶対で人数が多い学科ではクラス分けもその棲み分けのための条件となっている。領主科はそもそも人数が少ないのでジェラルドと毎日顔を合わせているけれど。

 合併しても互いの壁は変わらず高い。


「魔術科が懐かしいわ」

「おや、ホームシックかい?首席殿」


 赤毛のショートカットに星を散りばめた深い紫の瞳。黄色の宝石を象った耳飾り。男装しても分かる腰のくびれや肉付き、黒いローブは魔術科の証。かつての同級生だ。


「久しぶりね。そちらはご機嫌いかが?」

「ファリ!本当に淑女が板についちゃって。私は悲しいよ。よよよ」


 そう言って泣く素振りをする彼女に笑ってしまう。


「会えて嬉しいわ、マルガ」

「中々会えないなんて同じ学校だと思えないね」

「だって壁を取っ払っただけだもの。あ、私婚約解消されたわ」

「ついでに報告することじゃない!」


 マルガと呼んだ相手はマーガレットと言う。男性の制服は別に男になりたいというわけではなく好きだから着ているという活発な子である。

 出会ったついでに婚約解消の報告すると彼女はファリナセアを抱きしめた。


「本当、あの男に解放されて良かったね」

「心配かけたわね」

「だってそうだよ!フラッシュライト男爵も物申せない立場なのは分かってたけどそれでも親代わりだなんて信じられない!」

「仕方ないじゃない。グロッシュラー家はごねていたみたいだけど」

「そんなの息子をそんな風に育てた親の責任だよ。そんで更生できなきゃさっさと廃嫡させればいい」

「滅多なことをいうんじゃないわ。もう壁はないのよ」


 マーガレットは「かまわない。だって本当のことだし」とむくれる。いくら彼女でも言動が危うい。


「でも解消?私は破棄されたって噂を聞いたんだけど」

「そっちでも広まってるのね」

「広場で大声で叫ばれたらそうでしょう。ウチのクラスでもその場を見たって。大丈夫?嫌がらせされてない?」

「大丈夫よ。共同研究できる相手ができてね。これで私の悲願も達成できるわ」


 さらりと話をすり替える。

 マルガは目を見開いて手を合わせた。


「例の!?アレようやく調査が終わったって教授から聞いたの!今度こっちの研究室においでよ!」

「共同研究のペアも連れてきていい?」

「私たちのことを差別しないならいいよ。私は名乗れば一発で周りが跪くけど、ほかの子たちはそうじゃないからね」


 マーガレットの実家は侯爵家だ。社交場では女性らしい格好をしているから学院での彼女を見ると仰天する者も多い。

 だけど彼女のその性格は本当に魔術科向きだ。私は何度彼女に救われたか。


「ありがとう。彼にも伝えておく」

「男子か……でも会えてよかった!今度またお茶に誘うから!」

「えぇ!絶対予定合わせるわ!」

「約束だからね!」


 マルガはそう言って手を振って離れて行ってしまった。彼女も最終学年。卒業課題で忙しいのだろう。

 突然のことだったけれど内心曇っていたことが晴れた気がする。調査結果の件も後でエレンディルに伝えよう。もう編入は難しい時期だけど彼も魔術科には興味があったようだし。

 この一連の様子をひそかに見ている者が何人かいたのも知らずにファリナセアは浮き足立って歩いて行ったのだった。


―――



 ファリナセアは自分の鞄に入れていた下書きの論文がなくなっていることに気付いた。後ろをみると屑籠に書類の束が食べ物のゴミと一緒に捨てられている。

 こんな卑しい嫌がらせをするなんて思わず、その犯人であろう相手に頭を抱えた。


「ごめんなさいエレンディル。論文が汚れてしまって」

「問題ない。資料は無事??」

「……これもダメ。魔術科に行くしかないわ」

「そう何度も見せてくれるかな」

「よくある事よ。流石に公開前の情報は不味いけど、事情を言えば分かってくれるわ」


 先日魔術科に訪れ調査結果を拝見した二人は一部見直さなければならないところがあり、日夜その仕組みを見直していた。まさかそんな機能があるなんて思わなかったのだ。


「分析は面倒ね」

「でもそこから仕組みを考えるのは君の得意分野だろう?」

「言ってくれるじゃない」


 ファリナセアは魔術科で学んだ事をベースに大まかな流れを見直し、エレンディルは翻訳仕事で培った文章力で論文を書き綴った。

 途中何度か嫌がらせがあったため、二人は教師に何とかしてくれと言ったものの、のらりくらりとかわされるだけで相手してくれなかった。


―――


 ファリナセアとエレンディルの共同研究は大詰めだ。


 ファリナセアが領主科での扱いは変わらず、ペアで組む時も誰も相手にされないので仕方なくエレンディルと組んでいる。

 ジェラルドはいい気味だという顔をしているが、周囲は私だけでなくジェラルドに対してもあまり良い顔をしていない。浮気していたことは広まってないらしい。


「魔術塔はその性質上魔力を集めるから稼働コストがかからないのはかなり大きいわ」

「調査が終わったと言ってもまだ分からないところも多いから開発者に会えればな」

「よくそんな都市伝説を知ってるわね」


 この国は多くの種族が住まう。ファリナセアは人族で、エレンディルも髪に隠れて分からないがおそらく人族だとファリナセアは考える。

 教会の権力者でもあったその者はエルフという長命の身で、長きに渡ってこの国の裏を牛耳り、皇族達を魔術で扱う贄にした。多くの種族と交わってきた皇族は死後残る魔石の質が高かったらしい。

 当時腐敗した政治によって皇帝が処刑され貴族制は廃されたものの、その実情が明らかになりその者も裁かれることになる。長命で不死の体質を持つため処刑しても復活することから、500年魔法や魔術の使用不可の上幽閉されているというもの。

 もしその開発者が生きていたら何千年生きているのやら、そんなのおとぎ話だ。


「都市伝説じゃないさ。文官科の授業で出てくる。場所までは分からないが接する人は限られているそうだ」

「……そうなのね」


 500年の幽閉なんてその者からしたらたった数年、いや数ヶ月くらいの感覚なのではないだろうか。


「私達で出来ることをするわ。その人がたとえ文句を言おうともね」

「そうだな……500年後も残る物を残そう」


 もしこの共同研究が事業になるなら何十年もの長いスパンになるだろう。そうであるなら誰かに受け継がせられるものにしたい。


「そうだ。今度の建国祭でデビュタントするの」

「え、君何歳だったっけ?」

「貴方と同い年よ。私身体が弱くて田舎で療養してたからデビュタントをしてなかったの」


 この国でのデビュタント(お披露目)は13歳。高等部3年のファリナセアは15歳とデビュタントするにはやや遅めだ。


「治癒師でも治せなかったのか?」


 この世界は解剖学が禁忌とされているせいで医学の発展は乏しいけれど魔術による治療は目覚ましい。

 だがファリナセアの身体は魔力を通すことも出来ず、治癒師と呼ばれる魔術を使った医者による診察も治療も出来ない身体だった。

 それでも自然の魔力は通りやすいようで、魔力の多い自然豊かな田舎で療養期間を過ごした。全く動けなかった訳では無いので、並行して淑女教育を行っていたら飲み込みが早かったせいかいつの間にか満点を取るほどにまでなったのはおまけだ。


「そうね。ある体質が起因して私は魔力が通せなかったみたい。もう治ったし、デビュタントしようって父が。婚約者もいなくなっちゃったし」

「ならエスコートもお父上が?」

「そうよ。ドレスなんて久しぶりだから入るかしら。貴方も来るでしょう?」


 エレンディルは建国祭のパーティーなんて興味なかった。自分が立っているだけで醜聞でしかないからだ。

 しかしファリナセアの晴れ舞台を友人として見たい気持ちもある。


「あぁ。でも君ならどんなドレスも着こなせるだろう?」

「あら、口説いてるの?」

「じ、事実を述べだだけだ!」

「なら尚更うれしいわ」

「……当日は妹がデビュタントを受けるから、そのエスコート役はする」


 これは本当のことだ。エレンディルは妹から「前日までにその鳥の巣を取ってくることね」と手紙が来てうんざりしていた。顔を晒さないといけないのが憂鬱だからだ。


「妹さんがいらっしゃるのね。なら私もご挨拶に伺うわ」

「……ありがとう。妹にも伝えて置くよ」


 エレンディルはファリナセアが男爵家だから己の矜持を保っていることに内心情けなくなっていた。


―――


 それからもファリナセアやエレンディルへの嫌がらせは続き、お互い荷物は肌身離さず持ち歩くことにした。

 ファリナセアは魔術道具のポシェットで多くの荷物を仕舞うことが出来たが、エレンディルはそんな魔術道具を持っては無い。せめて術式をファリナセアが教えて上げればエレンディルは見よう見まねで似たような魔術道具を作ることが出来た。ファリナセアはその様子にだいぶ関心した。


 研究発表の反応は良好。絶賛された。

 魔術科で首席だったファリナセアが領主科に行ってしまったことを惜しんだ魔術科の教授は多く、彼女の研究発表では多くの教授が見に来ていた。

 その様子に領主科の同級生達はざわめいたものの、ファリナセアとエレンディルは臆せず発表に挑んだ。


 ファリナセアとエレンディルが考えたものは、魔術の塔の魔力を集める仕組みから、その魔力を集める場所を指定し、魔石を特定の場所で産出できるようにする技術とそれに伴う事業プロジェクトの考案だった。

 魔術塔は防衛機能もあることから、国で保存の費用を出していたが年々老朽化をしておりその維持費用は莫大なものになっていた。

 すでに魔石が生成されるプロセス、自らの魔力で魔石を生成する魔術がある。お金のない平民が自分の魔力を売ることもあるけれど、それでも砂利に近い石ころの大きさにしかならず魔力としては足りない。それを賄えるのであればやるに越したことは無い。海外に輸出できるほど生成できるのであれば事業としても価値がある。

 二人は優秀賞を受賞することになり、これを国へ奏上すると学院長からの言葉に喜びを分かち合った。

 その様子をジェラルドは奥歯を噛みしめながら睨みつけていた。



―――



 卒業式が無事に終わり、その二日後に建国祭のパーティーが開催された。

 建国祭は王家が今も尚存続できることを祝うものだ。今の王家が復活してから丁度百年が経ったということで全貴族が集まり盛大になった。今の王家は一度皇帝が処刑され、数十年間王がいない時代があった。その後皇族の末裔が祭り上げられ今の王家につながっている。

 エレンディルは話す相手がおらず、デビュタントを控えていた自分の妹のエスコートが終われば、その後は誰かと語らうでもなく給仕からドリンクを貰い手持ち無沙汰に壁に立っていた。

 彼女の家は男爵だから伯爵家の自分よりも先に入場しているはずだ。しかし会場を見渡しても彼女はどこにもおらず、誰かとの挨拶をしているのだろうかと思っている。


『マグワート公爵とファリナセア=ソレル・フォン・マグワート令嬢のご入場です』


 拡声の魔術具で呼ばれたと同時にすぐに扉に目を向けた。

 そこには黒髪をまとめ上げ、デビュタントの白いドレスをまとったファリナセアが同じく黒髪の男性と共に歩いている。

 学生である子息令嬢達は名前がフラッシュライトでないことに困惑をしており、顔が似ているだけではないか、それとも養子にでも入ったのかなどとささやかれている。

 それよりもエレンディルはそのファリナセアの姿に見惚れてしまった。


―――



 ファリナセアのようにデビュタントを行う少年少女は複数人いるがやはり自分より年下ばかり。しかも彼女が最後の入場となった。


「最後まで控室で娘と語らうことができて私は幸せだな」

「私はデビュタントが遅れ、しかも先日に婚約を解消した女というレッテルが貼られているのですが」

「婚約破棄にしなかったことを感謝してほしいくらいさ。大体、婚約も君が動いた結果だろう?」

「ですが母を身籠らせ、療養を理由にして当時10歳の娘に前倒しでお勤めをせざるを得なくしたのはどこの誰ですか」

「私の子がお前しかいないのに勝手にお前が嫁に行ってしまうからだ。おかげで年の離れた弟ができて良かったではないか」


 王の謁見を前に遠くで男爵夫妻が手を振っていることにファリナセアは面映ゆい気持ちになる。本当なら二人の娘としてデビュタントをしたかったが、隣にいるこの男が黙っていない。

 マナー上、手を振り返すこともできないので視線で会釈をするにとどめる。壇上にいる王と王妃の前で公爵と跪き、頭を垂れた。


「楽にせよ。久しいなマグワート公爵よ、令嬢も大きくなった」

「長らくお会いすることが叶わず申し訳ない。娘もこうしてお披露目することが叶いました」

「そうか……マグワート公爵令嬢、学院での其方の成果、しかと見た。その内容は我が国の課題を解消するきっかけになる素晴らしいものだった」

「滅相もございません。それにその成果はわたくしだけのものではございません」

「そういえば連名だったな。しかし、なぜ其方はフラッシュライトと名乗った」

「……わたくしを育ててくれた男爵夫妻にあやかりたかったこと、そして己の身分で贔屓されることを嫌ったからです」


 このやりとりにファリナセアは思わず公爵を見上げる。公爵は得意げにウインクをした。一瞬むかついた。


「学院を卒業したら家を継ぐわけではないのかね?途中からの編入はそのためだと思っていたが」


 顔も知らない弟の不幸を案じたのかもしれないが、知らせも無かったので気になったのだろう。


「いいえ、家督は弟が継ぎます。わたくしは、幼い頃からあの魔術の叡智の結晶だった塔を見て育ちました。そしてその塔の歴史も。アレを朽ちていく様を見るのは心苦しかった。改修する提案をしてもその事業計画の考案、建物のことまでは領主科でなければ学べません」

「なるほどな……」


 発表会を見ていなくてもあの論文を読んでくれた者は多いようだ。

 周囲の反応は見なくても分かった。

 その様子を国王と王妃はほほえましく見ていた。


「連名の者にも伝えるが、これは前向きに事業として扱いたい。かなり時間のかかるプロジェクトだ。長い付き合いとなりそうだ」

「仰せのままに」


 周囲から拍手が響く。認められたことは嬉しく思うけれどまるで自分の成果のようで釈然としない。この場に彼がいないことが気がかりだった。

 それからというもの、ファリナセアは父である公爵と共に挨拶周りで忙しくエレンディルに会うタイミングも取れなかった。

 中には学院での態度を謝罪してきた同級生もいたが、おそらく公爵からの制裁を恐れたからであろうとファリナセアは思った。

 その中にジェラルドの親であるグロッシュラー伯爵夫妻がいた。


「今回の件は令嬢に謝罪したく。愚息の不出来で申し訳ないことをした」

「すでに男爵にも謝罪してくださったのですから結構ですわ。私もこの婚約は公爵家を継ぎたくない一心で気を急きすぎました」


 伯爵はぱちくりと目を見開いて公爵を見上げるが「息子が生まれるまでは娘に継がせたかったのですよ。結果としては伯爵を巻き込んでしまった」と言えば伯爵は慌てて「とんでもない」謝り返す。


「そ、それはそれは……とても活発なご令嬢で……存じてはおりましたが……」

「けれど、本当にどうしようもない息子で申し訳ないわ。学院で失礼なことを言われたりされませんでしたか?」


 夫人が心配そうにこちらを見るが後ろからジェラルドが割り込んできた。

 後ろから付いてきているのは今の恋人だろうか。


「ファリナセア!どういうことだ!公爵家!?聞いてないぞ!!」

「ジェラルド!なんてことを言うの!?」


 伯爵夫人が叱咤するが気にも止めない。

 先ほどからずっと挨拶待ちの者で人が多かったのにそれらを押しのけて言い出したそれは更に周囲の人間の恰好の見世物になっていた。


「お前には何度も言ったはずだ!ファリナセア男爵は名代だと!」

「この女は詐欺師で売女だ!こんな騙すような真似をして、この前だって魔術科の男と抱き合っていただろう!?」


 一瞬周囲がざわめいた。


「ファリナセアと抱き合った魔術科の男がいるの?」


 その声で人の波が二つに分かれる。

 黄色の宝石を象った耳飾りを揺らし、スラリとしたシルエットを見せ付けるドレスをまとったマーガレットがファリナセアに問いかける。


「事実無根です」

「そう。ならそれはわたくしね。魔術科で男装しているのはわたくしだけだもの」

「え、は?ロータス公爵家!?」


 彼女の首元には家紋を象ったネックレスがある。

 「御名答」と微笑む彼女は今の王家と近縁にあたる公爵家の三女だ。そして彼女も臣籍降下する第四皇子に嫁ぐことが決まっている。耳飾りは婚約者の魔力の色が残る石を加工したものだ。

 魔術科は閉鎖的であり、彼女が公爵家の者だと知る者が少ないせいか、男装趣味があることはそこまで広まっていない。


「男装は上手くないと思っていたけどまんまと引っかかるのね」

「振る舞いまではごまかせなくてよ。マルガ」


 この場で公爵家と対等に話せるのは同じ家格の者だけ。しかも彼女は将来臣籍降下する予定の第四皇子との婚約者であると周知されている。

 その二人の様子に益々信憑性が増していく。マーガレットはファリナセアの頰を優しく触れた。

 遠くから黄色い声が響くのは魔術科にいるの彼女のファンだ。


「それに、この子の目を見て。金色と青灰色のオッドアイは【女神の寵愛】の証。高位貴族でよくあるこの目で、よくもまぁ、この子を平民だなんて言ってくれたわね」


 マーガレットはジェラルドに睨む。

 彼女の瞳も深い紫色の中に星が散りばめられているが、それも王家の血を受け継いでいる証だ。自分よりも尊いものだとファリナセアは思っている。


「そういう事よ。子供も産めなかったら第二夫人を娶っていいと言われていたのに、それを待たずに浮気なんかして」

「お前が公爵令嬢だと知っていたらそんな、ならやり直しをさせてくれ……!」


 ジェラルドの恋人が悲鳴を上げる。恋人一人すら大事に出来ない男に私は長年婚約していた事が信じられなかった。

 婚約者の証であるアクセサリー一つも送らなかったくせに。


「いいえ、もう貴方とはごめんだわ」

「公爵!ファリナセアの本当の親なのでしょう?彼女を妻に!」

「断る。私はおろか娘も望んでいない相手と婚約させるつもりはない」


 公爵も一度解消した相手とはごめんだと拒否する。

 面目丸潰れたジェラルドは怒りを露わにする。


「何もかもお前のせいだ!」


 ジェラルドが脇目も振らずこちらに手を伸ばす。

 しかしジェラルドは前に倒れる事で事なきを得る。


「これ以上は辞めろっ!」


 風が巻き起こり周囲は騒然とした。

 ジェラルドの背中を押さえつける。ふとした時にしか見えなかった顔がそこにあった。


「エレンディル!?」

「衛兵!さっさと彼を捕らえろ!」


 不慣れながらも必死にジェラルドを抑える彼にファリナセアは驚いた。髪を上げているだけでなくエレンディルは鳥族の象徴である鷹の翼を持っていた。

 会場にいた近衛がジェラルドを連れて行ったのを見送り、エレンディルはファリナセア達を見る。


「すまない、手こずらせ――。もっ、申し訳ありません!お怪我はありませんか?」


 すぐに翼は跡形もなく引っ込んだ。鳥族の翼を見るのはファリナセアにとって初めてだったから跡形もなくなり残念に思う。


「今さら取り繕ったって無駄よ。エレンディル。ありがとう。怪我はないわ……貴方、隠さなくてもいい顔してるじゃない」


 エレンディルは整髪料を付けた髪をいじり耳を赤く染める。


「やめてくれ。柄じゃない」


 いつも通りのやりとりを始めそうなところで公爵が咳払いをした。



―――



 その後ジェラルドは公爵令嬢に乱暴をしようとしたこと、王家主催のパーティーで騒ぎを起こしたことで伯爵家から籍を抜かれ、その後家は歳の離れた弟を跡取りとされた。

 ジェラルドは今まで馬鹿にしてきた平民になってどんな惨めな思いで生きていくのだろう。


 それからというもの、ファリナセアは公爵家として社交に出るようになり、ジェラルドを含めた当時領主科にいた学生の何人かは見かけなくなった。

 ちなみにファリナセアは公爵家名義で学院を入学したが、フラッシュライトで名乗っていたためか、貴族学院の教師もファリナセアが公爵令嬢であると知らなかった者は多く、例の瞳を見ても公爵家だと判断できなかったらしい。

 特に領主科の担当教師の雑な業務が顕著で、調査が入り、学院の教師の質が問われることとなった。

 そして転身したとはいえ魔術科で学んだことを生かし共同研究を行った実績で、学科を跨いだ交流も今後積極的になるだろうとのことだ。


「それで、お主はまだ結婚する相手もおらんのか」

「ございません」

「残念じゃのう。婚姻の折には儂が特大の魔石を贈ってやるというのに」

「市場が混乱するのでおやめください。ソレル様」

「易々と売ろうとするな」


 自分のミドルネームと同じ名を持つ相手を呼ぶ。

 老人ぶった口調でソファに寝そべる少女は、常識外の長さのある黒髪を、一束持ち上げた。髪を切らないのはその髪が魔石を作るのに必要だからだ。

 ルビーのような瞳を細める彼女は私を気に入っている本人だった。女神の関係者ではあるが、女神本人ではないと本人はいう。


 ファリナセアの母はファリナセアと同じく【女神の寵愛】である瞳を持っている。

 その【女神の寵愛】は生まれた時から目の前にいる少女の監視と管理を任されている。娯楽を取り上げられた環境で唯一彼女を慰める話し相手だ。

 ソファに寝そべる彼女は鎖で繋がれており、そんな彼女が自分に執拗に話しかけるくせに自分の瞳を通じて別の誰かを見ているのが嫌だった。子供の頃は家を継がなければその役目から解放されると勘違いしたのだ。


 ソレルの世話ができるのは【女神の寵愛】とその伴侶だけ。しかし父は公爵として領地をまとめなければならないので、社交を控えたとしてもどうしても母にばかり負担がかかる。

 卒業してからは父である公爵と王からの圧も強くなり、泣く泣くファリナセアはソレルの世話をするようになった。

 何なら将来の逃げ場として宮廷魔術師の道もあったのに同じくねじ伏せられてしまった。


「あと、来週は王都に向かいますのでしばらくは母に頼みます」

「本当に可愛げがなくなったのう。お主の肺が治ったのは儂の魔力がお主に通ったからじゃぞ」


 田舎にいた時期は子育てに忙しかった母に代わって私がこのように世話をしていた。


「それは感謝しております。ですがそれとこれとは違います。何が楽しくて貴女様の話し相手をせねばならないのでしょうか?」

「何を言う。女神とその夫が魔法の始祖であれば儂はこの世魔術の始祖。その者に近いお主が」

「何度もお聞きしてますが貴女には魔術は触れさせません」


 「わかっておるわ」と拗ねる。

 魔術学院に通っていた頃はこの話し相手は免除できたのに、今ですら話したい事があるのに避けなければならない。


「のう、ファリナセア……お主あの礎にはなんもしとらんのよな?」

「いいえ。(機能を付け足しただけで)何もしてませんわ」


 ソレルの幽閉が解けるのは約400年後。

 その頃には彼女が礎と呼ぶそれもだいぶ変わっているであろう。


―――


 ソレルの幽閉場所は王都に直接転送できるから楽だ。

 事業はまだ軌道に乗ったばかりで、ファリナセアとエレンディルは起案者であるものの、主担当ではなかった。二人の身分を考えるとそうせざるを得ない。

 王都の庁舎で、担当者から進捗を聞かせてくれるだけでもありがたいというものだ。

 担当者の中には魔術を組み込むため宮廷魔術師も控えているが、彼らからの勧誘は公爵と国王によってねじ伏せられてしまった。


 ソレルが今の魔術塔を見たらどんな反応をするのだろうか。それをエレンディルと想像してみたくなる。


「何か楽しいことでもあった?」

「あら、そう見える?」


 エレンディルは学院を卒業してから髪を伸ばすことはしなくなった。なんなら翼も隠さなくなった。

 鳥族は魔力操作と同じ感覚で翼を仕舞うことが出来るが、エレンディルは人族の多い学院で浮くことを嫌って翼を見せることはしなかったのだ。

 自信が着いたのなら良い。ますます格好良くなる彼にファリナセアは誇らしくなる。


「昔からお世話になっている人に会ったのよ」


 エレンディルが言っていた都市伝説は本当だ。

 実際に記録にも残っているので隠されている訳では無いが、代々世話をしている【女神の寵愛】達が秘匿していただけだ。

 ファリナセアが公爵令嬢であることを知られても、ソレルのことは話さないことになっている。

 療養していたのもほんの一月だけで、それ以外はソレルの世話と公爵令嬢としての教育を受けていたこと、家族のこと、教えてない事は沢山ある。

 いつか自分の秘密を彼に打ち明ける日が来るのだろうか。

 その時はソレルを紹介して、あの魔術塔を作った本人よと自慢してやりたい。



ソレルは長編ではソーレルと名乗っています。

変わったのは時代の変化で喋り方や発音が変わったということで。

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