辺境の街の占い師タボン、今日も適当に占う
私はタボン。アラフォーの女子。
アラフォーなのに「女子」を自認するという恐れ多いことをしててごめんなさいね。
心を若く保たなければ、身体なんかすぐに老いてしまうのよ。
類似で病は気からって言うでしょ?
それにほら、心の中でどう思ってようが表に出さなければセーフ!
そんな私は占い師。
街角占い師をやっている。
「よぉ、タボン!」
「やぁこんばんわ。少し占っていくかい?」
早速顔見知りのベテラン冒険者から声を掛けられた。
全体的に汚れている。依頼帰りだろうか。
う~ん、冒険者からは出発する時にゲン担ぎで占いを頼まれることもあるんだけど、帰って来た時では需要がないんだよね。
全て終わった後だから。
「さっき無事に”森”から帰ってきたからな。今はいいや」
「そうかい、残念さね」
ほらね。
まぁいいわ。
歓楽街にはこれから人が増えてくる。
この辺境の街シガルハイムの近隣には、危険だけど資源の宝庫の『落命の森』がある。
そのおかげで冒険者、商人、流通業者、軍関係者などが多い。
そして、そういう連中を相手に商売をしようと人が集まる。
そうしたら今度はそっちを目当てに、また別の人達が流れ込んでくる。
人が人を呼ぶ、ってやつだね。
そんなこんなでこの街は辺境にしては人が多い。
大量の人達の薄汚れた欲望を受け止める大きな便所のような歓楽街。
いつもいつも夜の時間帯は盛況している。
だから少し待っていればお客さんなんてすぐ来るわ。
陽が沈みかけて、そろそろ一杯、または一発やりたい男達が増えてくる時間帯だもの。
ここでは様々なお客がおとずれる。
占いも深刻な悩みに関することから、明日の天気のことまで本当に様々。
『そんな話を私にしちゃっていいの?』とこちらが心配になるようなことまで話しちゃう人だって珍しくない。
おかげさまでこの街の事にはかなり詳しくなってしまったわ。
知りたくなかったこともいっぱいあるので、まったく嬉しくもないのよね。
そんなんで命を狙われたくもないし。
『情報通』なんて立場はクソ喰らえだわ。
なので、何を相談されても流しながら当たり障りのないことを適当に答えるわけ。
そんな感じで長年やってたら、まぁまぁ人気が出たみたい。
名物占い師と紹介されることもあるのよね。
不思議なもんだわねぇ。
「占って欲しいのですが……」
お客が来ないで暇だから、鼻くそでもほじろうと思ってた。
そしたら女性のお客さんに声をかけられた。
危ない危ない。
あと少しで私の鼻の穴に小指が侵入する所だったわ。
「どうぞ~」
営業スマイルで席に着くように促す。
私的には渾身の笑顔のつもりだけど、夫に『ブサイクだな』って言われたことがある。
うるせぇ、ぶっ殺すぞ。
しかめっ面で厳格な雰囲気を出す同業もいるけれど、私はフレンドリーな接客姿勢。
どんなにシリアスなオーラを纏おうとしても、どうせ街角占い師。
道行く人に『何カッコつけてるの?』って笑われちゃうかもしれないじゃない。
酔っ払いが吐く言葉は容赦がないんだよ!
お客さんが椅子に座わり、荷物を置いたりしてこちらと会話を始める準備ができるまでのわずかな時間。
その間に私はお客さんをさり気なくだけど、よく観察する。
性別、年齢、顔、髪型、体形、服装、持ち物、所作。
会話を始める間から占いに必要な情報はいくらでも転がっている。
それらをわざわざ見逃す手はない。
宝の山じゃあ!
お客さんは外見と服装から、あからさまに夜職に就いてる若い女性という感じだった。
接待を重視する酒場か娼館。
そのどちらかは間違いないね。
んもう、こんなに胸をはだけさせちゃって!
私がやったら衛兵に通報されそうよ。いいわねぇ。
顔の方はあら美人さん。
でもよく見るまでもなく疲労が濃いのがわかるわね。
十分な睡眠が取れていないのだろうね。
「悩みがあるって顔しているねぇ」
お客さんの準備が出来たのを見計らって、間髪入れずに口を開く。
当たり障りのないことでも先手を取った方がいいのだ。
ちなみに私はお客さんに敬語は使わない。
なんでかって?
……雰囲気が出るからね。
「な、なぜそれを?」
お客さんが目を見開く。
何故もクソもわざわざお金払ってでも占い師に視てもらおうなんて人間は、悩みが有るに決まっている。
お酒に酔ってノリでお願いしてくる者もいるけれど、それでも何かしらは気になる悩みがあるものだ。
そうでない者は、ノリでも占い師ではない違う事にお金を使う。
「そうさねぇ……男……だね?」
「!!」
今度は手で開いた口を覆うように隠す。
こういう反応を見る度に思うけど、そんなに驚くようなことかねぇ。
若い女が占いに来て、男の話をしないことのほうが珍しい。
それに色恋に関わらず、成人した女は男に対しての悩みは高確率で持っているものなのよ。
好きな男がいる。
彼氏または夫の愚痴。
彼氏ができない。結婚できない。
男友達がいない。
男友達に好意を持たれて困っている。
職場の男上司が気に喰わない。
他には……息子が言う事を聞かない。息子も男だからねぇ。
などなど。
本当に千差万別。
こんな感じで誰にでも当てはまるようなことを二つ、三つ言う。
そうするとお客さんの方で勝手に『〇〇の事を指摘された!』となって、心の開示が始まる。
「そうなんです。実は付き合ってる彼が……」
このお客さんの悩みは、典型的な彼氏とのすれ違いの話だった。
細かいエピソードを必死に説明してくれるが、それすらテンプレートかと思うくらいに。
もう少しバリエーションが欲しい所よね。
実は『彼氏が異世界人で、白米に生卵をかけて食べるのが許せないんです』とかね。
「それで私が言ったんです」
「ほぉ、言ってやったのかい」
「ええ! それはですね――」
私は相手が喋ってる時は意見を言わない。
相槌か、オウム返しのみ。
途中でこちらが遮ると気分を害すお客が多いからね。
そりゃ『ん、どういうこと?』と理解するために質問したくなる時もあるのよ。
パルスのファルシのルシがパージでコクーンという話をするお客さんの時なんて困惑したもんよ。
それでも我慢して話終わるのを待つ。
詳しく聞いた所で、お客さんを満足させるためには何の役にも立たないからね。
「――と、いう事だったんです。どう思いますか?」
一方的に話させていれば、平均して20分程度で区切りがつく。
こちらが途中で下手に介入してしまうと、共感・反発、いずれにせよ話す内容が増幅されてしまう。
結局の所、話している内容自体は変わらないのだが、『もっと話したい』となってしまうのだ。
逆にただ聞いてるだけであれば刺激は加わらないため、残弾がすぐに底をつく。
そこで初めて私がまともに意見を言うターンとなる。
「そうさねぇ……」
机の上にこれ見よがしに置いてある水晶玉に手を乗せる。
そして、この世界の誰しもが体内に備えている魔素を、台座の魔石に流し込む。
水晶玉がぼんやりと光る。
「…………むむむ」
別に何が視えるというわけではない。
本当にただ光っているだけ。
でもこういう小道具による演出が大事なのだ。
ちらりとお客さんの顔を確認すると、不安に曇った表情を隠しもしていない。
「このままひた向きにお客さんがお客さんらしく頑張っていれば……運勢は上向くみたいだよ」
自分で言ってて『何言ってんだ』と思う。
具体的な助言でも何でもない。
『お客さんがお客さんらしく頑張れ』って、いったいどういう意味なのかと思う。
パンケーキのようにふんわりし過ぎ。
運勢が上向くという根拠なんて何も無い。
時期もいつだか全然わからない。
にも関わらず――
「ほ、ほんとですか!?」
「ああ、そのまま頑張りな」
「わかりました!」
さっきまでの死んだような顔はどこに行ったのやら。
明るく前向きな表情になる。
このお客さんもそうだけど、本質的には占いの結果なんて何でもいいのよね。
重要なのは『話を邪魔されずに聞いてもらう』『肯定してもらう』だけなのよ。
「ありがとうございました」
お金を置いて、足取り軽く歓楽街に消えていくお客さん。
小一時間話しただけの料金としては、安くはないと思う。
それでも満足して帰っていく。
「ま、生きてくだけでもしんどいこの世の中、こういうのも必要だわねぇ」
私には先を見通す力なんてない。
魔法としても予知系の魔法なんてのも聞いたこともない。
本当にそんなものがあるならば、私は今頃こんな街角ではなく、領主様の館や王城とかで勤めているだろう。
そもそも私は魔法師ですらない。
占いなんて気休めよ。
でも、その気休めで生きる気力が沸くならば、それで十分じゃないか。
私も生活の糧を稼げて誰も困らない。
世界は回っているのよ。
「……さて」
次のカモーーお客さんが立ち止まった。
私はシーフよりも素早く営業スマイルを浮かべる。
「どうぞ。何を占おうかねぇ?」
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