エピソード 世理
古城内はとても広い。
元々の設備に加え、地下も広大に増築。主と10人の守護者では手に余るほどの広さである。
その中には、気軽に誰でも入れない部屋がある。
1つは守護者創造部屋。
ジュンの欲望剥き出しの変態設定集がいくつもあり、入室は固く禁じられている。防壁のように守られているため、物理的な強行突破はほぼ不可能も、万が一にも中を見た者は処罰対象になると守護者には伝わっている。
もう1つは、守護者の世理が使用する世界観測部屋。ジュンが製作した衛星装置に干渉して、世界の至る場所を視ることができる。
観測中は部屋の外には出れず、また観測できる者も世理のみと限られている。
そんな彼女の能力は、ぶっ壊れの“事象改変”。
あらゆる事象・事実に干渉することができ、その全てを思うがままに変更できる。例えば瀕死の状態だったとしても、それを無かったことにできるのだ。最強と言っても過言ではないが、守護者最強ではない。
能力を使用する場合は、主のジュンが近くにいることを第一条件としているからだ。それ以外にも使用条件はあるし、他の守護者みたく武器は使用できない。
能力に使用条件のある守護者は世理のみ。
それすらも改変できるのではと考えてしまうが、そう行動した時点で反逆行為に見做される。
使用条件の無効化及び主の認知不可なんていう、傍若無人な振る舞いは無きにしもあらずだが、そこはもう信じるしかない。
無闇矢鱈に能力を使われるのを防ぐ手段ではあるが、どこまで効果があるか、性格を温厚にしているのもそういった理由からになる。
天女姿の見た目優しい女性に裏切られたくはない。
そもそも、このぶっ壊れ能力を創ったのには理由がある。
現状、ジュンの力では、自分自身を女体化させることはできない。可能性の1つとして、創造した守護者ならばと思ったのだったが、女体化していない事実から察するように、何故かその改変だけは出来なかった。
世理には変に思われないよう、“女体化”ではなく“容姿変更”と伝えているので、心内はバレてはいないが、この世界のいるかどうかも分からない神に慈悲はなかったということ。
未来の自分もしくは世理の成長に期待するしかなく、その確認で今日もまた、ジュンは観測部屋を訪れているのだ。
「……」
無言のまま入室する。
観測部屋は基本、部屋の管理人たる世理とジュンしか入らない。極稀に零が居ることもあるが、それは食事を運んでいるだけ。
部屋の前に置くことの方が多いが、ノックをしても返事がない場合は中まで運んでいるのだとか、バッタリと遭遇するのはそういう時。
「調子はよいか?」
「はい」
「その後はどうだ?」
「変わりありません」
つまり、身体の改変はできないということ。
定期的に訪れているが、その頻度が多いことは言うまでもない。しつこすぎるのは良くないが、理解していても自ずと足を運んでしまうのは、ジュンが変態気質だからだ。
(やっぱりまだなのね。成長させるには戦わせるべきか……でもそうなると戦場に赴かないといけないわけで、私自らもっていうのはちょっとね。私は戦闘狂じゃないし、女の子と戯れたいだけだしなぁ)
互いが喋らないまま静かに時間が経過する。
寡黙なジュンが話しかけ過ぎるのも良くない。
設定ブレブレにすることはできない。
そんな間を察するかのように、扉が数回ノックされる。タイミングよく、登場したのは零。
「返事がないので入室しましたが、もしや密談中でしたか?」
「いや問題ない」
密談だった場合、退室を考えていた零だったが、そうでないと分かると部屋の片付けを始める。
食事を運ぶだけが、仕事ではない。
世理は観測部屋から出ることは少ない。
他の守護者と会うことも滅多にない。
観測者の生活感を知っているのはメイドただ一人。
今日はちょうど部屋の廃棄物を外に出す日だったのだ。
(籠もり過ぎは体に悪影響よね。少しくらい、外の空気を吸いに出てもいいと思うけど……ちょっと誘ってみようかしらね)
「外出しないのか?」
「結構です」
即答である。
礼儀的にもう少し検討すべきなのかもしれないが、世理に意志を曲げる気はない。
「無理だと思いますよ。世理は、この仕事に責任を持っていますから」
「とは言うが気が滅入るだろう?」
「いえ、大丈夫です」
(ええぇぇ〜心配しちゃうよ私、親心ではないけどこのままじゃずっとお家デートしかできないじゃん。私が女になっても毎回ここでセッ──と危ない危ない、我を忘れる所だったわ。仕事は確かに大事っていうけれど、根を詰めるのは良くないと思うのよね。元女子高生の私が言うのもなんだけど、良い成果って発揮できないと思うもの。それに皆、血に飢え過ぎ。世界征服は目標にしたけど、私の一番の目的はハーレムライフなんだから……って聞こえないか)
本心を告げるのも1つの案ではあるが、それは選択しない。男の体で美女達とおセッセはしたくない。あくまでも女体化するまでは、理性と欲望に戦い続けることをジュン(♂)────いや、早乙女純(♀)は選んでいるのである。
そんな考え込む様子を見かねてか、世理は主の名を呼ぶ。
「しかしながら、世俗に疎いことは事実ですので、最近の嗜みなどあれば教えてほしいです」
(そうは言ってもねぇ。現代社会じゃないのよ、異世界なのよ、遊技場は勿論、娯楽施設なんてあるはず……いやそういえば最近作ったわ。式のお願いで街の酒屋にダーツを作ったじゃない!ボールとかの概念があればスポーツ系統の予定だったのを断念してダーツにしたんだったわ)
「ダーツ、というのを知っているか?」
「だーつですか?」
「ああ」
街の娯楽について、ダーツの仕方について詳しく教えていく。世理と仕事以外の話で盛り上がったのは初めてだった。
(よしよし。これでデートスポット追加できたわ。もっと娯楽施設作ったほうがいいわね。未来の私達のために!)
いずれ訪れる女体化を夢見て、その性欲を満たすために街が発展するとは誰も思わない。
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