付随能力
ニシミヤライトと別れたジュンは、高速飛行しながらネルフェール国内を横断する。
組織『S』の中で常時飛行を可能とする者は、世理と紅蓮と翠、それと必殺技発動時の陰牢のみ。陰牢の場合は悪魔のような羽が生え、見た目に変化を生じさせるが、他の者は容姿そのままに飛行できる。
空中移動の要領に近いが、空を歩いたり走ったりするのではなく、鳥のように移動できるため高速飛行と名がついている。
空中に降り立つ(静止する)ことも可能で、3人の守護者が飛行しようとする場合は、“半自動治癒”同じく魂魄の一部を消費しなければならない。陰牢に関しては物理的に羽が生えるため、魂魄の消費はない。
また、許可の有無についても“半自動治癒”同様で、ジュンに確認する必要なく、使用は個人判断となっている。
陰牢・世理・紅蓮・翠を除いた他の守護者が飛行できないのは贔屓と思われるかもしれないが、それに匹敵する跳躍力を式や零は持っている。
素早さといった移動力に難のある夢有と唯壊は、それに代わる攻撃力を有している。
月華と紫燕は他に真似できない攻撃方法を要している。
純粋な戦闘力という意味では、紅蓮と翠がNo.2とNo.1を張っているのは事実であるが、個々人も優れた能力を持つため、必ずしも贔屓とはならない。
差別化を図ることは、個人の役割を区別することに繋がり、個々人の特徴・意思の尊重にもなる。守護者間で飛行の有無が原因となる争いもない。ある意味賭けの創造ではあったが、何も問題は無いのである。
(──にしても、あまり意味が無いわ。“新界”使えばよかったかもしれない)
別れてからは、かなりの距離を飛行した。
にも拘らず、商国シンディのようなデートスポットは見つからない。この国の王がいる場所へは、数分で辿り着いてもしまう。
(何も無いんだけど、この国!!もっと娯楽に金を費やしなさいよ!!)
望む場所は、この国ネルフェールには無い。保護する必要もなければ、管理する必要もないくらいに何も無い。悪く言えば、ジュンが最初に征服したバルブメント王国よりも魅力に欠けた国となる。
(さっさと、親玉倒しましょうかね)
つまり、無駄に時間をかける必要は無いということ。それならば、女体化を探る方に時間を充てたい。もしくは、女の子とイチャつきたいと思うジュンは、みるみると進んでいき、あっという間に国の中心部へと辿り着く。
(月華と夢有は──っと、あそこね)
ジュンが2人の居場所を捉えることができるのは、与えた魂魄が視えるからである。総量や消費量までもが視え、現在がどのような状況下なのかも魂魄を通して感じ取ることができる。
(2人には継戦、親玉は私が倒すって伝えましょうか……ね──っと、男声に戻さないとイケないわ)
更に魂魄を有している者は互いに心(念話)で対話することができる。
ジュンに距離制限は無く、守護者間同士では目視さえできれば、いつでも可能。
今回、月華と夢有の位置は互いに目視できないほどの距離に該当してしまうが、創造主のジュンが間に入るため問題ない。
『あー、二人共聞こえるか?』
『はい!ボクは聞こえます!』
『ドーン!バーン!よいしょー!』
『夢有?』
『え……あっ!?ジュンさま、ごめんなしゃい!夢中で壊してた……』
『あー、まぁ、よい』
『気にするな』とも付け加えたジュンは、今後について簡潔に説明。両方共、ジュンの戦闘姿を観たい様子だったが、それは却下。
ジュンの闘い方は酷い。
純粋で善人な少女たちには悪影響を及ぼすと親心……いや乙女心で判断したのだ。
『では、後ほど連絡する』
『はい!分かりました!ボクも頑張ります!』
『分かった!全部終わったら、抱っこいい?』
『……少しだけだ』
『ズルいよ、ボクも褒めてもらって良いですか?』
『……勿論』
念話中、ジュンが昇天しかけたのは言うまでもない。
反応が遅れたのはその所為。男女の恋愛は到底許されるものではないが、褒める程度であれば発展もしないし、支障はない。
2人の喜ぶ声が聴こえる中、妄想するジュン。
『おでこを撫でるか、それともおっぱ───』と口に出しかけた所で踏みとどまる。
女声を出すわけにはいかない。今は男、基本は寡黙な主、ジュン。
内心、満面の笑みを浮かべる変態は妄想に浸りながら、この国の王、暴君ヴァルカンを強襲したのだった。
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