エピソード 月華③
ジュンは月華の膝枕の上で目を覚ます。
「……見事だ」
“絶景だ”ではなく、“見事だ”と伝えることで、技の凄さを褒め称える。
決して本心はバレてはいけない。
「ありがとうございます!それで、改善点はあると思いますか?」
「うむ…」
これと言ってはない。
レベル差がありすぎて分からないというのもある。
(う〜ん、技の良し悪しはそこまで詳しくないのよねぇ。私、体育会系じゃないし、嘘を言うのもなんか違う感じよね)
「後ろからでなく、正面からはどうだ?」
だからここは敢えて本心をド直球に、いや変化球を交えて伝える。
(くほおおぉぉぉ!!これなら万が一触ったとしても変じゃないわよね!!美少女と正面から密着して、尚且つ、抱き締めることも可能。私ながら大正解の提案。勿論、男女の恋愛なんてもってのほかだけど、多少は…そう多少は触っても問題ないわよねぇ、ぐふ、ぐふふふ、はははは!)
「正面からですか」
「ああ」
「分かりました!やってみます!」
(よし!よしよしよし!!引っかかった!撒き餌に釣られた!勝ったのは、そう私!早乙女純の性欲求!!)
構えを取る月華に対し、ジュンは両手を広げる。
完全なる受け止め体勢。
早乙女純の欲求が叶うと思われたその瞬間──
「こちらにいましたか」
一人のメイドが現れる。
「れ、零!」
第三者の介入により、豊満なバストに埋もれる欲は終わりを告げる。
大きく広げた両手を仕舞い、一つ咳払いをする。
「ど、どうかしたか?」
「そろそろ、ランチのお時間ですので」
「あ、ああ…そう、だったな」
(もうそんな時間?我を忘れていると時が経つのは早いわね。鍛錬場に時計、設置すべきかも…)
「あ、あの…」
月華はジュンに稽古の礼をしようとする。
組手の機会はそうあることではない。
ましてや二人っきりというのも少ない。
だがまだ昼間、午後からという可能性も無くはない。
「午後は街の統治に関する条例決めの予定でございます」
「あっ……」
(ノオオォォォォ!!!)
欲望は絶たれ、早乙女純は心から泣き叫んだのだった。
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