エピソード 零
古城の家事、つまりは料理や掃除に洗濯は守護者の零が全体の9割を担っている。
夢有や月華に紫燕が手伝うことは稀にあるが、技量は零に遠く及ばない。1人に負担をかけ過ぎているかもしれないが、他に有力候補がいないのが現状だ。戦いを得意とする守護者が多く、零に任すのが一番良いのである。
勿論、彼女も強者であるため裏方に徹するだけではない。
零の能力は、“次元殺法”。
あらゆる次元に干渉できるという優れものだが、戦闘時に使うことはあまりなく、敵を倒す際に使用するのは専ら武器。
鋼のように硬く鋭い鋼糸を自由自在に扱い、敵を切り刻む。防御にも優れており、長期戦も可能。賢くもあり守護者の頭脳トップ3にも入っている彼女は、今日も自慢の薄水色髪をなびかせ、仕える主に紅茶を煎れる。
「リラックス効果付きの自家製物にございます」
「うむ」
午後のティータイムに、丁度いい大きさの菓子がいくつも並んでいる。仕入れた物かと思ったが、これも手作り。
この世界は、早乙女純のいた世界のように発達はしていない。どうやって店頭商品のように、ラッピング含め包む技法を会得したのかという疑問が生じるが、その答えは創造時に、必要以上の現代知識を無意識に流し込んでしまったのか、はたまた零だけが急成長を遂げたかのどちらか。
驚きにジュンはむせるも、反射神経のようにハンカチを出す。素早い動作は、洗練されたスーパーメイドと言えよう。
「流石だ」
「お褒めに預かり嬉しく存じます」
小休憩も終わった午後、業務へと入ろうとしたジュンは、片付け始めない姿を気にして声を掛ける。
「お時間を頂戴して誠に申し訳ございません」
「よい」
「検討したい事案がございまして、今よろしいでしょうか?」
一応は、考え込む仕草をするジュン。
無表情のままではよくない。形式は重要も、ジュンの脳内は全く別のことで埋め尽くされている。
(零ちゃんの今日のパンティは何色だろう?黒か赤か純粋に白か……ん〜覗き込みたい。スーハーしたい。床を私だけに見える鏡にするとかありよね。うん、あり!今度実験してみよう!!流石は私、妙安ね!!)
主からの返答が無いからといって、式のように耳元で大声を出すなんてことはしない。零は慎ましく頭を垂れ静かに待つ。
それこそ、隣に立つに相応しいと言える。ジュンが頷いたのは、早乙女純としての妄想を終えた直後。
「ありがとうございます。では単刀直入に申し上げます。私達には組織名が必須かと思われますが如何でしょうか?」
「ふむ……」
これまた予想外の提案。
今度こそは真面目に答えねばと、両肘を着き、考え込む仕草をとるジュンだったが、良さげな案は思い浮かばない。
(“悠久の幻獣”、格好いいけど何だこれ?“円卓の美女”も人数が合わないような、“ジュンと愉快な仲間達”だと怒られちゃうよね??私、ネーミングセンスないからなぁ。守護者の名前は時間をかけたから良かったけど、即興は得意じゃないのよねぇ。そもそもの話、そんなキッズぽい設定、零に施してた?)
それを本人に聞くことはできない。
デリカシーに欠けているのもあるが、そんな疑問をぶつけては、これまで築いた寡黙な男、且つ泰然自若な古城の主のイメージが崩れてしまう。
的外れなネームを言うのもアウトだ。
ここは慎重にいかなければならない。
「零の案を聞こう」
「私など恐れ多いです。ジュン様が、お決めください」
発案者に任せる戦法は失敗に終わった。
だがここで引き下がるわけにはいかない。ネーミングセンスの無さをひけらかすことは論外だ。
ゆえに──
「零から言え。なに、意見程度でも構わない」
命令口調になるのは致し方ない。
それにヒントがあれば考えやすいというもの。これで失敗率は大幅に下がる。
「畏まりました。それでは私から案を出させていただきますと、そうですね……“悠久の幻獣”はどうでしょう?」
「んん!?」
「もしくは“円卓の守護者”、“ジュン様フレンズ”なんて如何でしょう?」
「んんん!?」
(え!ちょっと待って、ストップストップ!!ネーミングセンス無さすぎでしょ!!いや、そもそも私の考えた内容に近いよね!!もしかして読心術!?時折タイミングよく現れるのも私の心を読んでるからとか?)
「ウオッホンッ!ちょっと待て、それは本気か?」
「何がでしょう?」
零は満面の笑みで問いかけてくる。
(正気って怖いわぁ。それにしても、ネーミングセンス同レベなんてね。美女だから許されるけど、私が発言してたら終わってる。学校生活でどれだけハブられてきたか……まぁ別に過去話だからいいけどね)
そうはいってもこのままではマズい。
非情に状況は良くない。
大事な大事な組織名をポンコツネーミングセンスの2人が決めようとしている。
由々しき事態ではあるが、他のメンバーを集めてまで議論する価値があるかどうかといえば微妙。結局、自分達で名案を出さなければならないのだが全くもって思い浮かばない。
「ジュン様の能力は魂に関するものでしたよね?」
「だな」
守護者創造はあくまでも技の1つ。
「では、頭文字をとって“S”は如何でしょう」
「その案でいこう」
「畏まりました。周知含めデザインはこちらで担当致します」
「う……む?」
(デザイン?ユニフォームでも作るの?まぁ、いっか。あとは任せましょう……というか最初からその案出せたでしょう、絶対、ぜーったい、心読んでるわ。私含め女子って怖いわぁ。もしかしたら私が本当は女って気付いてるかもしれないわね)
用事も済んだようで、零はテキパキと片付けていく。その後、丁寧にお辞儀し、にこやかに笑顔を振り撒いていた。
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