エピソード 式
守護者の中で唯一、一人称“オレ”の野性味溢れるような女性がいる。
それが式と言う名の、ケモミミ金髪和服巨乳美女である。
彼女の武器は太刀。
能力名は、“全我全俺”。
蓄積した精神・肉体的損傷を斬撃や打撃で倍返しすることができる───というのが、大前提としてあるが、本当の所は少し違う。もっと別の意味を多分に含むが、基本的な技が倍返しであるため、その認識で間違いない。
実に分かりやすい、容姿に則した能力と言えよう。また、素の戦闘能力も高いのが彼女の魅力。
ワイルド系であるためか、内に籠もることは少なく、大抵は外に居ることが多い。獣属性をフルに活用している、そんな感じの性格だ。戦闘面に於いても、飛躍的に役に立つ彼女ではあるが、残念な事に知能は低い。単細胞であり、守護者間でも喧嘩を買うことがしばしばとある。
口で負けるなら、拳で勝つが彼女の言葉。そんな彼女は今日も凱旋し、意気揚々と主の居る部屋を訪れている。
「今戻ったぜ、主!」
肩に担いでいるのは何処ぞで狩ったであろう大型の獣。
「今日は熊鍋だな!」
熊というよりは獅子に近く、頭部も3つあり普通の生物ではない。食用としての基準を満たしているかどうか微妙なところ。
(相変わらずのワイルドさだよね〜。個性バリバリの巨乳美女ってホント最高。しかも街の人からの人気も高いらしいじゃない。社交性は高く設定しなかったけれど、意外と馴染んでいるようね。やはり獣属性を入れて正解だったわ。和服チョイスもベリーグッド。自画自賛ってわけじゃないけど、これだけの要素を持つ美女がモテないわけないのよねー。私が女の体のままだったら間違いなく毎晩一緒にお風呂入ってたわ。それで全身くまなくさわっ……洗い合うのよ)
「ところで主、いまいいか?」
いつの間にか、ジュンが肘を付く机の上へと座っている。胡座をかいた不良座りだ。
尻尾は右へ左へと落ち着きがない。
「相談事か?」
「流石は主、オレの心を読んだのだな?」
「買い被りだ」
(いやーどう見てもソワソワしてるじゃん。こういう所はチャームポイントだよね。一人称オレでもこんなに可愛いらしいなんて最高!!)
「じゃあ言うぞ、聞きたいことは3つ」
「何!?」
「どうした?」
「いや……続けてくれ」
驚いた理由、それは端的に言って、質問数が多いと感じたからだ。
鍋の具材の話と思いきやそうではない。
夕食の献立に相談事を3つも消費するわけがない。
では一体───
(まさか、おっぱいをガン見してたことがバレたとか!?いやいやだってそれは仕方ないでしょうよ。おっきいもの。溢れ出そうだもの。そういう服装に設定したのも私だけど、ハーレムするにはそれくらい許してちょうだいよ、ねえ!)
「1つ目──いつ、攻め込むんだ?」
「んん!??」
質問は、予想とは全く違うもの。
突拍子もない話題に、一瞬思考も固まる。
何を言っているのか1つずつ整理して、やっと正解に辿り着く。
「近々……だ」
「ホントか!?オレはもう我慢できねぇぞ」
早乙女純が転生して、誰も住んでいない古城を見つけ、生活をしているこの地域は、とある国の一部。国の中心部からは遠く離れ、整理や管理が行き届いていない外れ地域。
小さな街はあるものの、領主のような存在は十数年おらず、運命的にも古城の主となったジュンが代わりを担うことになったが、国は務めの許可を出していない。
把握もされていないし、逆に言えば、こちらから出向く必要があるのだが、世界征服も考えている手前、いまは地盤を固めることを優先していたが、どうやら式は待てないらしいのだ。
「世界征服すんだろ?」
ウズウズと肩は小刻みに揺れている。
尻尾も、さっきより激しく横に動いている。
“待て”により少しは静止したが、眼はギラついている。
(今襲われたら一溜まりもないなぁ。私の貞操は今日ここで奪われるかもしれない。攻めも受けもどっちだっていいけど、あわよくば両方一気に堪能したいわぁ。3P、もう一人は月華なんてどう?)
「主!!」
妄想に耽る無言の主に、式は耳元で大声を張り上げた。
「お、おう。きぃてるぞ、世界征服は必ず……する」
「よし!!」
2つ目の相談は、街に娯楽施設を作りたいとのことだった。
(どゆこと??古城の中でなくて街に??)
「街の奴らに、もっと楽しみがあってもいいと思うんだ」
「あー」
(なるほど、そういうことね。街の人達のこと想ってるのね。娯楽が増えれば息抜きができ争い事も減ると言うことね。検討しましょう)
「いいだろう」
「オレの株が、また1つ上がるぜ」
街へ赴く守護者は何人かいる。
夢有・月華・陰牢・式・零の5人が、定期的に訪れ、街人に知られている。それに対抗心を燃やしていたのである。
「じゃあ最後3つ目だな、この服──」
式は胸元や肩にかかる部分を引っ張る。
着心地が悪いような素振りにも見える。
(変更は無しだからね。特に、上から羽織るとかは絶対に無し!)
「──の胸部分キチィから大きいやつねえ?あと、肩のところウザいから切っていいか?」
(ワイルドグラマラスボディ最高!!はぁはぁはぁ、私が切っていいですか!!生着替え見てもいいですか!!??)
「あーでも、零の奴に言った方がいいのかこれ…」
(そんな事ない!私でいーのよ。私が貴方を着替えさせる。おっぱいを見る権利は、この早乙女純にこそあるのよ!!)
本心を伝えるべきか悩み、手をワナワナとしていると部屋の扉が開かれる。
「呼ばれましたか?」
「……へ?」
「ちょうどいいじゃん」
入室したのは、メイド服の零。
まさに、地獄耳である。
「何が丁度いいのか良く分かりませんが、お困りの様子、ジュン様はお休みになってください。あとは私が対応します」
(ノオオォォォォ!!!)
早乙女純の欲望は、またもや散ることとなった。
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