似ている
ニシミヤライトの提案を、誰もが反対しない事実により、戦争国家であるネルフェールを今ここで叩くという結論へと至ってしまったジュンは、渋々了承して“新界”を使う。
亜空間が辿り着く先はジルタフ都市部。非戦闘員に近い、ナタリーとミナミの2人を戦場から逃すという判断ではあるが、“新界”を使うのは不本意。
秘密にしていた技の1つをバラす結果になり、手の内を隠そうとしていた行為は全て無に帰す。
夢有を連れてきた際の嘘にも気づかれている。
弁解の仕様もないが、ナタリーが怒っている雰囲気は無く、2国間の仲にヒビ割れも生じていない。最終的に、技の1つや2つなら見せて構わないという判断に至る。
(まぁ、これくらいわね。私が戦ってるところは見せられないけど……)
但し、離脱するのはナタリーとミナミだけではない。守護者の紅蓮も別行動になったのである。
ナタリーの耳飾り伝えに、地下遺跡にいるヤンとミズキから、誰か一人来てほしいという連絡が入ったのだ。
それを聞いた紅蓮が自ら挙手し、『あの者で対処出来なければ、それなりの者が行くべきかと……』と言い残して、“新界”も利用せずに、自足で地下遺跡へと向かっていった。
ヤンの事を嫌っていると思っていたジュンは、それなりには買っていると知れ、紅蓮の行動を許可したのである。
ナタリーとミナミを見送ったあとに残るメンバーは、ジュン・月華・夢有と提案者のニシミヤライトの4名。攻め方を思案していたところで、ニシミヤライトは、この国の地図を取り出した。地図は細かく丁寧に描かれており、およそ一般人が持つ代物ではない。
恰も、最初から攻め入る算段だったのではと思えるほどに詳細で、売れば高値が付いただろう。
「これは?」
「歩き記した、私手製の地図です」
活動家とは名ばかりの出来栄えで、戦略家と言っていいほどだ。
(胡散臭いわね、この男本当に何者なの?)
ニシミヤライトは、にこやかに笑うだけ。その笑顔は、守護者の零を彷彿とさせる。胡散臭さはあっても問うことを嫌ったジュンは話を戻す。
「では、どうする?」
「この国には、関門所が5箇所ありますので、1つずつ潰していくのはどうでしょう?それぞれ、各国との国境付近にありますが多くの民や軍を消すよりは、建造物の破壊を主目的にして王都を目指すという方が倫理的にも良いのではないでしょうか?」
「ふむ」
(民には手を出さない感じがして良い人っぽさ演出してるかもだけど、私は誤魔化せないわよ。潰すとか消すとか破壊するなんて言葉、躊躇せずに言ってるもの。私が征服王だからってだけじゃない気がするわ。しかも悪気無しに言うところがまた零に似ているのよね、ホント…)
いっそのこと、似た者同士を引き合わせてみようかとも考えるジュンだったが、化学反応どころか核爆発を起こしてしまっては元も子もないと思い、その案は抹消する。
(今は、この状況の打開が最優先ね)
だがしかし、ここに知恵者は居ない。一番近かった紅蓮は地下遺跡に向かってしまっている。残る月華は賢いとは言えず、夢有ではもっと委ねられない。
「……っ、仕方ない」
「私の案を了承していただきありがとうございます。大変恐縮です、征服王殿」
結局、提案者の意見を飲み込む他なく、適当に月華と夢有の配置を決めていく。
ここから近い第3関門所(ユーリース共和国との境界線)と南の第4関門所(ドラゴニアス帝国)は夢有が、少し戻った場所にある第1関門所(砂漠地帯ジルタフとの境界線)は月華が受け持ち、第2関門所(ルクツレムハ征服国との境界線)はアリサ率いる南部軍に任せるとした。
第5関門所はネルフェールの王都に近いため、最後に纏めて叩くという作戦。
アリサたちへの事前連絡はしない。
“新界”で赴き、伝えることは簡単にできるが、その必要はない。どこか1つの関門所を破壊すれば、ネルフェールの王が軍を動かすのは容易に考えられるからである。
アリサに急な開戦を強いるのは少し酷だが、先の報告で小国レジデントのモウリ達も一緒に居ることは把握している。何故彼らがこの地までいるのかは不明も、今は心強く、アリサの成長も促せる。
そう思ったのは完全なる後付けだが、作戦に問題は見当たらず、あとは開始するのみ。ジュンたちが第3関門所に到着したのは、それから数刻のことだった。
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