能力の無駄遣い?
朝、文を読み返していたジュンの部屋には、つい先程から月華も居る。
屋外トレーニングを終えた月華は、現在ストレッチ中、部屋は割り振られており、月華が自分の部屋を使わない理由は特段無い。
ジュンも、とやかくは聞いていない。
普段なら、『おっ♡』っと思いながら、マジマジと生肌を凝視している筈なのにだ。それだけ、商国シンディの報告文が衝撃的だったということ。
(城の半壊に、天井部全壊。加えて、女王と側近及び兵士やメイドに使用人の虐殺かぁ。これは陰牢たちに直接の原因ではないにしてもよ。男はヤッちゃって構わないけど、女は…ねぇ。もしかしたら私の好みがいたかもしれないって思うと、やるせないわね。今後の統治に響かないといいけど、バルブメント王国とほぼ同じような結果じゃないのよ。貴重な人材を失ってなければいいけど……)
文末には、城の修理及び改築をしてから帰還するとも書かれている。
勿論これは前回みたく、陰牢監督のもと、式と紫燕が取り掛かるのだろう。
3人の采配はジュンの判断であるが、陰牢が2人の建築才能を見越したうえで、教会建築を提案し、王城破壊をしても問題ないと判断していたとすれば驚愕ものである。
更に陰牢に至っては必殺技も使用している。
相手が強者で使わざるを得なかったのならば良いが、使う前提で乗り込んだとすれば全権委任を許可すべきではなかったのではとも思えてくる。
(陰牢の必殺技は理性が半分くらい吹っ飛んじゃうから極力使わないようにって、前々から釘差してたはずなのに、もしかしてストレスでも溜まってたのかしらね。単体攻撃メインの拷問器具召喚とかで勝てたんじゃないの?エネルギー砲は必要なかった可能性ありって書いてあるし、賢いからって全てを任せるのは良くないかもね。今後は誰か一人に司令塔させるんじゃなくて、同行する皆で考えてもらうようにした方が無難なようね)
失敗は成功のもと。組織の在り様、部下の活用、人材確保の難儀さを、経験を通して学んでいく。政治学含め教育的指導者を雇う必要はあるかもしれないが、身の上話を全て暴露した状態で教えを請うことはできない。
後手後手にはなるが、元女子高生の早乙女純には、今の勉強方法が一番合っている。
怪訝そうな表情をする日も、いつかは無くなる。暫くはまだ、学ぶ必要があるうちは、眉間に皺を寄せる反応も防ぎようが無く、今回のように不思議に思われ、顔を覗かせられるのだ。
「ボクもそれ読みました」
「おっ──」
(──っぱいが間近に!?そうだわ、忘れてた。部屋には無防備で襲ってくださいと言ってるような月華がいるのよ。私ったら何難しいこと考えてるのかしら。今はこの──たわわなおっぱいを堪能して元気になることが優先でしょ)
月華の無意識接近により、二人の距離は物理的に近い。早乙女純の言うように、何かの拍子で当たってもおかしくない位置に、豊満な胸はある。
だが触ることはできない。気づかれないよう凝視するのが、早乙女純としての流儀であり苦悩。
会話行為も、目線を下げるためだ。
「どう思う?」
「凄いと思います!」
「凄い…か」
「はい、ボクだったら倒せてないかもしれません。『聖九』は部下でも強いんですね」
「だが必殺技を使用する必要はなかった」
「そうですか?ボクたちは皆、制限下で戦ってますから、負けるよりはその……陰牢の判断は間違ってなかったとボクは思います」
「…そうか」
(とはいってもねぇ、やり過ぎなのよ。必殺技は温存してほしかったわ。もしかして、この報告文も能力使って届けてるんじゃないでしょうね)
「これはいつ?」
「?……零なら朝早くに届けに来ました」
「どうやって?」
「?……こう、シュバッとパパッと来て、サッと置いてまたシュンッと消えました」
「……」
(やっぱり、能力“次元殺法”を使ってるじゃないのよ!戦闘じゃなくて移動手段に!誰かをパシってない事実は知れてよかったけど、能力の無駄遣いじゃない!)
ジュンの“新界”は、現在地と目的地を点と点で結び亜空間を通る技。
縦横幅の変更は可能で、大人数の移動もできる。対して零の場合、次元への干渉や移動はできても、使用者しか通れないほどの空間で、一瞬で消失するうえ、長距離移動も不可となる。
本来の正しい使い方としては、敵の死角や感知範囲外に瞬時に移動するというもの。
鋼糸操者としての実力が凄まじく、能力=必殺技ともなっているため、戦闘でも殆ど使う機会がない───代物の筈………。
(つまり、瞬間移動を小刻みに連投してるわけだから、相当負担がかかっている筈よね。普通に走ったり跳躍したりの方がいいんじゃないかしら?敢えて精神疲労を科したい特別な理由でもあるのかしらね。それにしたって、無駄遣いは良くないわ。能力の価値が下がるのは創造者として何となく嫌な気分になるもの。やっぱり、今の私達には人材確保こそが一番の急務ね)
組織の今後について真剣なことを考えながらも、ジュンとしての目線は変えない。
急務といえど、癒しは必要。
気づかれないように、しっかりと双丘を堪能するジュンだった。
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