エピソード 夢有③
それほど時間が経たないうちに、夢有はカレー鍋を持ってくる。
コック帽子とエプロンもスク水の上から着用し、さながら学校給食の風景。
「おまたせしましたぁ」
盛り付けが終わり、ジュンの目の前に皿が置かれる。
ホカホカのご飯にカレー、焦げ付いた匂いはなく、一見美味しそうに見える。
それもその筈、これは殆ど零が作っており、夢有は終始見ていただけとのこと。
「なら、いただくか……うっ!?」
古城の主は倒れる。
あまりの美味しさに倒れたのだと、夢有思い介抱はしない。
暫く白目をむくジュンだったが、自動治癒により事なきを得る。
「何か……入れたか?」
料理上手の零が失敗する筈がない。
であれば、第三者が何か変な物を入れたとしか考えられない。
「んーと、隠し味に砂糖と林檎と…」
「うむ…」
「蛇と蛙!!」
「ひぇ!?」
寡黙な男に似合わない剽軽な声が出る。
(ちょっと待ってよ、蛇と蛙食べたってこと!?リバースしないと!それともリユース!?リリース!?もう、訳解んない!!これはもうチューくらいしないと駄目だわ。夢有ちゃん、チューしましょう。チューして中和しましょう!!)
熱い抱擁の姿勢は既で止まる。
理性は戻り、両手を仕舞い、表情を素に戻すも、夢有は“?マーク”。
「誰の入れ知恵かな?」
「シキ」
「あいつか」
酒好きの式ならば、自身のツマミ用として所持していたとしても不思議ではない。
この世界は転生前のゲームにあるような、モンスターを倒したらアイテムを落として消滅するなんてことはない。
そもそも、モンスターはいない。
そのような文献は見当たらない。
転生前の世界に似た植物や動物は存在を確認しているので、先程の蛇や蛙も近しい種類で間違いではない。
とすれば、食用としても可能ではあるのだが、身体が受け付けない。
早乙女純は動物は好きだが、昆虫や蛇などは嫌いなのだ。
(ワイルド過ぎるのも良くないわねぇ。毒味役が私じゃなければ死んでいたわよ)
ここは一人の大人として、[早乙女純(♀)は元女子高生だが]、きちんと言う必要がある。
「蛇・蛙は少々特殊すぎる、今後は控えるように」
「わかりました!」
生物混入問題は解決。
ひとまずは安心と言いたいところだが、料理意欲が収まるまで毒味役は必須。
暫くは、心労の絶えない日々が続きそうだとジュン(♂)[早乙女純(♀)]は思ったのだった。
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