国名
ジュンは陰牢たちと別れたあと、征服国(旧バルブメント王国)南部の都市カイーシャに来ていた。
時間的には、商国シンディ王城半壊の報告が入る数日前のことになるため、陰牢に話してしまった秘密は解明できておらず、モヤモヤを抱えた状態での訪問となっている。
南部に来た理由としては、ここにアリサがいるからだ。
零にこき使われているグラウスと、アリサの2人の様子を見に来たのである。
実は、ジュンとグラウスには面識がある。アリサの教会再建期間中に会っている。何故なら、復興作業を見ているばかりでは時間が経過せず、村長ズイの長話に付き合わないといけない、時間の有効活用────もとい、自分も働いているアピールをしに、アリサの勤務先を事前に調べていたのである。
アポ無し訪問に腰を抜かすグラウスを最初は心配したものの、その後の対応は申し分なかった。
零の指示にも柔軟に対処している様子で、毛嫌いする男性種ではあったが、無下にする必要もなかった。何より、アリサを送り出す先として大きな問題点を感じられなかった所は評価に値すると、早乙女純は思ったのである。
そしてこの日、再度訪れたグラウスの執務室には、守護者の零も来ており、4人が一同に会したのだった。
「──あ……ジュン様!」
開口一番のふんわり抱きつきはシスターアリサ、小さくも柔らかい胸が当たる。
(あ……いい、これ)
「ジュン様、おはようございます」
「多忙な身でありながらの視察感服致します。どうぞ、くつろいでいってください」
次いで零、グラウスと挨拶する。
「うむ」
(最近、こういうほんわかムード無かったからチャージしとかないと、またいつ殺伐とするか分からないし、世界征服中は仕方ないんだけど、変態と思われない程度に且つ、男女の恋愛に発展しないように、乙女たちの匂いを嗅ぎまくりましょうかね)
とは思いつつも、視線は痛い。
零の笑顔は棘のように刺さる、ある意味精神攻撃で、小言を言われる前に離すことを決意するジュン。
「──っと、それで順調か?」
「はい、問題ございません」
「私としては居住地が少な─モガ△▼……」
グラウスの要望は、鋼糸が巻き付かれることで口封じされていた。火事で多くの家屋や土地を失った南部地方ならではの問題。
紅蓮の見せしめ行為による被害者とも言える。
「ならば後日、式と紫燕を派遣させよう」
教会再建と関所建築については、前もって話をしていたこともあり、南部も恩恵にあずかりたいと懇願しているのだ。
零の口封じ行為は何となく理解もできるが、ムチばかりは良く無い。たまにはアメを与え、関係性を向上させる必要がある。
今でさえ物理的に鞭をくらっているようなものなのだ。疲労や重圧で精神ダメージを蓄積しているのに、肉体ダメージまでとは流石に慈悲がない。
鞭打ちを喜ぶのは一部の快楽者だけである。
(拘束プレイかぁ……想像しただけで……うん、悪くない。今後、女体になったらやる事リストに入れておかないとね)
やる事リストは既に100項目を超えている。全て、早乙女純がムフフと思う内容で、変態気質な者にしか、意図を解読できないようになっている。
(他は…問題はなさそうね。零が定期的に来てくれてるようだし、アリサちゃんの笑顔も見れた。これ以上は用件も無いし、次は唯壊たちの所に訪問ね)
ジュンが“新界”を使用しようとした時、声をかけてきたのは零。
「ジュン様、今よろしいですか?」
「む…」
(何かしらね?経験上、零に引き留められるの良く無い気がするのだけど……)
「実は、国名の事なのですが……」
(あーー!!すっかり忘れてたわ!!そういえば、皆に意見書を出してもらったんだっけ?)
「こちら取りまとめた物になります。私としては、【最強最高ジュン様王国】という案を推しているのですが、如何でしょうか?」
(相変わらずのネーミングセンスの無さね。これ絶対あなたが考えたでしょ。自分の案を押し付ける作戦見破ったりよ──というかダサすぎでしょうよ)
意見書は全部で10枚。1人一案提出されており、丁寧に確認していく。
(これもダメね。組織名だけを推したS国認知もナシ。これじゃあ某国扱いじゃないの。皆、センスないわねぇ)
ネーミングセンス◎も〇ですらも所持している守護者はいない。創造する当初はそんな問題が浮上するとは思わなかったからだ。
(私がしたいのは、ハーレムライフ。しないといけないのはハーレムライフと世界征服と国づくり……あれ?私達が住むレムハってなんか、ハーレムをもじったような名前ね……、あっ!!)
「ルクツレムハ!」
「ルクツとはどういう意味ですか?」
「隠語、だ」
「隠語ですか…」
ハーレムツクルをもじっただけの国名も、レムハという原点を大事にしている感も出て、これ以上の案は無いと意気込む。
「──では国名はそれで良いとして、王名はどうします?」
「おうめい?」
「はい」
(それ必要?ルクツレムハ王国でいいんじゃないの?)
「私としては、ルクツレムハ最強最高ジュン様王国が良いと思うのですが、如何でしょうか?」
(いやいや、それじゃあ私の案が意味なくなるじゃない!王名も長すぎるでしょうよ!ここはそうね、魔王ではないし、帝王でもないから、もう割り切って“征服王”にしましょう。誰かからレッテル貼られる前に自分で名乗る方が格好いいものね。それに裏の意味で征服ならぬ制服もありかもね、ふふふふ)
「畏まりました。他国や民衆に、【ルクツレムハ征服国】として周知致します」
「頼む」
「それと、こちらは報告なのですが……」
手渡された資料の題目には、『小国レジデントからの訪問』と記載されている。
「ふむ…」
「反逆心とかではなく、恐らくは観光の類でしょう。資料記載の能力者3名が、レムハに滞在しているようです」
「……会ってみよう」
「ありがとうございます」
(多忙を極めてるものね。挨拶くらいは私がしてあげるわよ。久し振りに街に降りるのも良さそうだし、唯壊たちの所へ行く前にチャチャっと用事済ませちゃいましょう)
次こそ“新界”を使用できたジュンは、レムハとカイーシャを繋ぐ亜空間へと入る。
3人に見送られながら、征服王は来訪者へと会いに行った。
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