酒と女
商国シンディの都市部にある歓楽街、ここは国の魅力と言っていいほどに大人の楽しみがある。
入室制限がある店や女性厳禁と書かれた看板。子供はおらず、成人した大人のみが闊歩する街。二人か飲み明かした?店は普通の飲み屋も、店に行き着くまでは、街中探索したくなるのはごく当たり前。ジュンも夜の街で有意義な時間を過ごしたように思われたが、なんとそこでも一悶着あった。
興奮状態のジュンを一気に沈静化させたのは、またもや女性、しかも期待に満ち満ちた状態での直下落ち。
その女性は開けた服を着ており、最初はジュンに近づくも、お金の匂いが感じ取れないや否や、即刻立ち去った。
『貧乏人は不要』と言われ、裕福そうな男を見つけては、『王子様お待ちになって』、と言っていた。派手な服装を着ていないだけの違いだったが、ジュンは女に弄ばれたのだ。
飲み屋に着いてもイライラは止まらない。
自動治癒で精神が回復してもだった。
そんな気分を払拭したいがために、長く店に滞在してしまった。挙句の果てには爆睡、眠る前後のことも余り覚えていないという始末。これはその出来事の翌日の話。
「──だから、何が問題なんだ?」
「遊びすぎよ、式。楽しみはあとに取っときなさいな」
「オレは主の『待て』しか聞かないぜ」
「ふぅ、まぁいいでしょう。これ以上は計画に支障が出るから私が指示するまでは待っておくように」
「オ、レ、は!!主の言葉しか聞かない!」
「安心して、ジュン様に『待て』って言ってもらうから」
「ああ!そうしてくれ!」
その主は、別室で休んでいた。というのも、二日酔いがやっと治ったからだ。
本来であれば、毒をも瞬時に治す自動治癒で酔う必要もゲロることもなかった。だが昨日は誰かに愚痴りたいという欲求が勝り、自動治癒を解除したのだ。
それが裏目に出た。 さらには──
(ああああ〜!もしかしたら中身は女の子って言ってるかもしれないぃぃ!あらぬ事を言ってるかもしれないぃぃ!キス魔になってたらどうしよう……ヒィィ!!)
全く覚えていないのだ。世理に改変してもらおうかと迷うほどに、あたふたしている。
安易に技を解除するのは良くないという教訓は得たが、ダメージは大きい。
(陰牢のことだから何か知ったとしても誰かに言わないはず……よね?秘密は厳守するような真面目設定にしてるもの。作り直すのだけは絶対にしないからね。今回の教訓は次に活かすわ。必ず……もう失敗はしない)
そう意気込んだ所で、戸が数回ノックされる。
吃驚するも声に出さなかったのは、ある意味奇跡と言えるだろう。
「ど、どうした?」
「情報収集が終わりましたので報告に参りました」
(あれ?何の情報?私何か指示してたっけ?)
「簡単にまとめています。零ほど読みやすくはありませんが、ご確認ください」
「ふむ………ん?」
そこには女性の情報。昨夜の一悶着あった娼婦と娼館の情報。
「ジュン様に無礼を働いたので、始末対象に加える予定で調べさせたのですが、想定を超える偶然でしたので、一応報告致しました」
「なるほどな──で、伝えたのか?」
「いえ、まだ」
「そうか」
「この件を含め、この国掌握の全権を私がいただいてよいでしょうか?」
「そうしよう」
ジュンの判断が異常に早かったのは昨夜の一件があったため、何か1つでも秘密を口実にされると厄介と思ってしまったからである。
そんな行為を守護者がする筈もないのだが、二日酔いから目覚めたばかりでは判断も鈍るというもの。
陰牢の運が、ジュンよりも勝った結果とも言える。
「それと、ジュン様は、お疲れの様子。レムハで朗報をお待ちください。もしくは、ジルタフ方面に行くのはどうでしょうか?向こうも多少は動きがあった頃合いでしょうし、紅蓮や月華も、ジュン様からのお言葉を待っているかもしれません」
「そ……うだな」
(ナイスアイデアね。気分転換に一度戻ってからジルタフ方面に行ってみましょうか。この国は私が居ても問題しか起こらなそうだしね。全権も委任したわけだし、陰牢なら上手くやってくれるでしょ…たぶん)
帰り支度が終わり、式には『陰牢のGOサインが出るまで待て』という指示を伝え、ジュンは新界を発動する。
守護者3人は見送る体勢も、主が亜空間へ入ろうとした瞬間に、妖艶な美女だけは主の傍に寄り、耳打ちする。
この言葉、他の2人には聴こえていない。
いや正しく言えば、ケモミミの式には聴こえていたが、あまり理解はしていない。
その後、疑問に思う2人を適当にあしらった陰牢は夜中、鏡の前の自分に問いかける。
「貴方は知っていた?知らないわよね。まさか、ジュン様が童貞だったなんてね。あんなに魅力的な殿方なのに吃驚だわ。私の言葉、上手く伝わったか、これからが楽しみね」
陰牢が伝えたのは、『昨夜の事はお気になさらず、私は気にしませんし、誰にも言いません、初めてを経験する際は私にお声掛けください』、という内容。
早乙女純の女性としての貞操は過去に奪われるも、男性としての貞操は無事、つまり童貞。
ジュンは中身が女とは言ってないし、キス魔にもなっていなかった。その事実を、ジュン本人も気づいたので、一旦は安心したのだが、初めてとは一体何を意味するのか。可能性が無限にあって、余計に悩む事態となってしまう。
意味を暴くか先か、男としての貞操を奪われるが先か、後者を早乙女純が望まない以上は、この論争は長く続く。結果、飲みでの愚痴は言うのも聞くのも、ほどほどが丁度いいということ。
一夜で数個の教訓を得たジュンは、これから更に成長する……はず。
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