エピソード 夢有②
黒く丸い物からは焦げの匂いとは別に、微かに何か香りがする。
「まさか…料理?」
「うん!ハンバーグ!」
「はんばーぐ?」
ジュンは転生前の現代知識を各守護者に教えている。
全員に教授しているというよりは、それぞれの専門分野ごとにだ。
口頭で伝えることは基本しない。
寡黙なジュン(♂)には行えない。
ゆえに創造する際に、彼女達の脳内知識として植え付けさせている。
そのおかげで、美味な料理や快適な暮らしなど衣食住に困らない生活を送っているのだが、今ここにある食べ物は決して『ハンバーグ』ではない。
『ハンバーグ』に似せた何かだ。
「レイに教えてもらったの!」
「零…か」
古城の家事全般を担う守護者が零。
彼女なら他人に教えることは動作もない──がしかし、これは明らかに失敗作。
口に入れたら最後、嘔吐物を飛散させる結末を迎えかねない。
子供に悲しい現実を突きつけるのはよくない。
中身の早乙女純(♀)も葛藤に藻掻いている。
(食べてあげたい!あ~んしてもらいたい!そのまま指もペロリンチョしたい!でもでもそんな事したら吐くわ、間違いない。私、苦手なのよねー。あ、想像しただけで吐き気が……)
スク水のポケットスペースに入れていた所為もあるが、匂いはきつい。
それは変態がこよなく愛す、人の分泌した汗と衣類の化学反応なのかもしれないが、今回ばかりは遠慮すると決める。
「食べてくれないの?」
「あ…とで食べるぞ」
『ハンバーグ』に似せた何かを掌から器へと移す。
夢有もジュンの膝から降り、これで用件はおしまいかと思われたが、まだ何かある様子。
「いま、カレー煮込んでるからちょっと待ってて!」
「か、カレー!?」
新しいことに挑戦する彼女の足取りは軽い。
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