癇癪
ジュン達が飲み明かす前、つまりは二国間の代表による対話が終わった直後、女王シンディは癇癪を起こしていた。
「うあああああぁぁぁぁ!!わああぁぁう!!」
物を投げたり破いたりと当たりまくり、調度品や絨毯は滅茶苦茶になっている。癇癪自体は時折あることで、側近もメイド達も大慌てというほどではない。
「あああぁぁ!!もう何だってっんだい!!」
「と申しますと?」
「あ゛あぁん?」
側近の一人が勇気を持って声を掛けるも、これは良くない行為。女王シンディの眼はギラついている。命1つ程度どうとでもなるという意味が込められた殺気ある眼。側近だからといって無事では済まされない。
触らぬ神に祟りなし、とはこのこと。こういう時は、長年付き添った一番の側近でしか対応は出来ない。
「恐れながら申し上げますと、何も問題ないかと思います」
「ああそうだね!!あたしもそう思うよ!!」
「では、なぜ?」
「簡単だろう!?あたしゃあ、窮屈なのが嫌いなんだ!!バルブメントが潰れたのは別にいいさ!でもなんでこっちなんだい!ネルフェールかジルタフだろう!ウチは無害同然じゃないさ!!」
「目的は金銭かと…」
「ああそうだね!!あたしもそう思うよ!!長ったらしい文書は偽物さ。歓楽街がなんで必要なのさ!戦争を起こさない代わりに歓楽街の権利を寄越せなんて嘘っぱちだろうよ」
「ですが我々としては、最初の要求をのまなかった場合は金銭を要求してくるとも思っていました」
「ああそうだね!!予想は外れた、けど問題ない、そうだろう?」
「そうですね」
「何故なら、あたしには屈強な部下がいる。都市内には腕利きの知り合いもいる。そして、闇の商人もさ」
「つまり、安泰ですね」
「ああそうだね!!バルブメントを倒したくらいで良い気になってる小僧相手に負けるあたしじゃないのさ!」
シンディは吠える。
しかし、この国には精強な軍隊はいない。一応仮のというべきか、見せかけの兵はいる。その数、たったの1万人。全て掻き集めてその程度である。
中央部や東部に人数を割いていた旧バルブメント王国でさえ、総数は5万を超える。商国シンディは大国の1つとして数えられるが、それは財力という点でのみ。軍事力は最低レベル。
侵攻されたら一溜まりもない状況ではあるが、そうならずに今日まで財を蓄えることができたのは、商業国家という強みと友好国であるドラゴニアス帝国の援助あってこそだろう。
さらには、軍人や兵隊ではなく、能力者に重きを置いているのも生き長らえている理由の1つ。この国における能力者の平均ランクはC〜B。この水準は他国と比べても低くはない。旧バルブメント王国と比べた場合は圧倒的に高い。能力者数も桁違いで、旧バルブメント王国ではF〜C帯が30人程なのに対し、商国シンディではF〜A帯となり100人を超える。Aランク2人に、Bランクは20人以上はいるという。能力者達は、地下闘技場だったり、商人の護衛で金銭を稼ぎ生活しているし、 女王シンディの部下にもいる。
切羽詰まった状況下では特殊能力を持った人間の方が強い、それは数にも勝るというのが彼女の言。
女王シンディは能力者ではないが、目利き力は商国を治めるだけはあるというもの。
「あと、さっきから気になってたんだが、ありゃ何だい?」
「え?」
シンディが指差すのは部屋の隅、そこには一人のメイド。
「ど、どうもですぅ…」
新米メイドは、耐久地獄からやっと解放されたと喜び安堵するも、メイド長の説教は終わらない。
見つけてしまったシンディも、怒り狂わずにはいられなかった。
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