出稼ぎ
教会の再建は、なんと2日で終わる。細かい作業を得意とする紫燕と、腕力ある式の豪快さにかかればあっという間。
縄張りという意味で、組織の【S文字】を屋根に刻み込む以外は、アリサが記憶する通りの教会となる。
「ありがとうございます!」
「おう!このオレに感謝しろよ!」
「綺麗に仕上げたの私だから、私に感謝してほしいな」
「あ゛あぁん?オレが材料運んだんだぞ」
「それを組み立てられるようにしたのは、私!」
「オレ!」
「私!」
「あっ、あの…」
「はいはい、アリサが困っているでしょう。そこは普通に考えて再建を了承したジュン様じゃない?」
「「だな!!/そうですね!」」
「やれやれね」
村人達とは程よく仲良くなり、息も合いつつある。教会を作り終えた次は関所、資材はまだ十分にあり、作業を続けていく。
ジュンの新界を使用すれば、資材が無くなったとしても行き来は楽チン。
その、ジュンはというと───
「──っっはくしゅっ……っ!!」
(あれぇ風邪?自動治療だから病気にもならないはずなんだけど……。誰かに噂された?むぅ〜〜、零くらいしか思い当たらないけど、まぁ大丈夫でしょ!)
「大丈夫ですかな?」
「問題ない」
ジュンは村長宅でお茶に預かっている。関所作りを手伝いはしない。転生前の女子高生だった頃、大量の本を読み漁っているので、あらゆる分野の知識を持つが、自ら実践した経験は一度も無い。
自他ともに認める陰キャ属性だったのだ。
妄想に耽るくらいが取り柄の非力に、力仕事をする技量がある方がおかしい。肉体や能力は最強格と言って過言ではないにしても、精神と魂は一般女性。
この容姿は単なる偽物。多少筋肉があって、股下に突起物があるだけの紛い物なのだ。今回みたく男手が必要な時は、守護者の式に任せるのが一番良い。
尤も、式も女性なので男手と言うには些か変な話ではあるが、この話の要点は、主はドンと構えれば良い、ということなのである。
「教会の再建、誠に有り難く思います。村の者達に代わり感謝申し上げます」
「礼は──」
「不要ですかな?そうは申されましても、今はこれくらいしか出来ませぬゆえ、何卒我々の感謝を受け取ってもらえたらと思うのです」
「う……む」
(いやあぁ、ヨボヨボのお爺さんから感謝されてもねぇ。美女なら有り難く貰うけど、アリサちゃんでさえ、私の思う美少女にはならないからなぁ。そう考えてみれば、ウチは美形揃い。まぁ、私の好きを詰め込んだから当たり前だけどね)
「簡易関所を造り終えたら都市部に赴くのですかな?」
「うむ」
「それは寂しくなりますなぁ、ここには引き留めるほどの魅力はございませぬが、もう少し、そうもう少しだけ、長く居ていただいてもいいのですぞ」
ジュンは初日に比べ、村長の物腰が柔らかくなったのを感じていた。
(前はもっと丁寧語だらけだったよね?)
「この村は若い女性が少なくて、村人数は減ってきておるのですよ」
(あぁ、これダメだわ。完全にウチの娘達狙ってるじゃない。もしくは、私の彼女達と言うべきかしら?それとも嫁?妻?まぁこれは一旦置いといて、この村から出ないといけないわね。契約上、この村に訪れることは何度もありそうだけど、私や守護者が来ることは無いようにしましょう!)
都市部とは違い、農村区の人口が減るのは致し方ない。
これはどこの世界も同じ。だからといって女性を、種を増やすための手段として見るのは如何なものか。人間の生殖本能的に仕方ない部分もあるが、それを許すのはお門違い。
早乙女純の最も嫌う男の最低種と言えるだろう。
(まぁ、私含め守護者は年を取らないし、新たな生命を育むなんてこともできないけどね。一応変更は可能ではあるけれど、ハーレムを10年、いや100年するまでは、このままでいたいのよ)
村長ズイの面倒話を回避したジュンは、茶も飲み終え、関所造りの進捗を聞きに向かう。
現場では、陰牢監督のもと、急ピッチの突貫工事が行われている。
教会建築で技量アップを果たしたのか、倍の時間がかかると思われた関所造りは、想定の半分、つまりは教会同じく2日程度で完成が見込まれるとのこと。
最早、プロのなせる技である。この急成長と連携力には感嘆する他ない。守護者達も主からの褒め言葉には満足しているようで、工期はさらに短縮された。
◇◆◇◆◇◆
翌日の昼過ぎ、簡易的な関所が完成する。
山を切り開いたりするような自然破壊はせずに建築されており、職人と見間違うほどの出来栄えだ。
これで境界線は判別しやすくなった。近日中に征服する国の領土内に、関所の必要性があったかどうかについては議論ものだが、無いよりは見栄えは良く、形から入るというのもまた、征服者としての極みと言える。
これで、村落の価値も1つくらいは上がった。
守護者が疲れを見せない中、アリサと村人はクタクタ。その場に倒れ込み休み始めるも、ジュン達は出発の身支度を整え始める。
「もう出発ですか!?」
「ええ、貴方も支度は終わってるでしょう?零にはグラウスに引き合わせるよう伝えているから出立しなさいな」
陰牢の言葉は、アリサには強かったかもしれない。名残惜しむ時間もないが、これからはもっと大変になる。今回は体力的疲労で済んだが、今後は精神的疲労も抱えることになるだろう。
零の指示を仰ぎつつ、グラウスと連携して軍強を図るだけでなく、彼らの治療もしなければならない。
商国シンディと砂漠地帯のジルタフ国へは、征服のための行動を開始しているが、ネルフェールに関しては何も対処はしていない。
では誰が、国の東側を攻めてくるネルフェール軍に対して前線を張るかというと、大して強くもない南部軍。屈強だった東部軍は壊滅しているので、生き残ってしまった南部軍が侵攻の対応にあたるしかない。
だがそれはかなりキツい。前線を維持するだけでもだ。彼らには軍をまとめるだけの知者、もしくは信頼に足る人物の支えが必要であり、その人物になって欲しいと、陰牢含めジュンも期待している。
強い言葉は、ある意味激励。それに、村人達とは今生の別れでもない。前線の維持が不要になれば、次は将来征服する商国シンディの統治に関して頼るかもしれない。
それは政治的な仕事を任す場合もあるということ。この程度で挫けては、幸先が思いやられるのだ。シスターアリサは、前へ進むしかない。
「あの、1つ頼みたいことがあるのですが…」
「何だ?」
「都市部に行くのでしたら、出稼ぎに行った姉と母を探してもらえないでしょうか?」
アリサには、姉と母と父がいた。母は8年前に出稼ぎのため、村を出た。姉も、その後を追い5年前に都市部に行った。残る父とアリサで生活し、聖職者としての仕事を続けたが、父は過労で体調を崩し、この世を去ったようなのだ。
「会いたいというわけではないんです。どのような生活をしているかも興味はありません。ただ、父が亡くなったことだけは伝えてほしいのです」
『我儘を言って申し訳ありませんと、付け加えたアリサ。
大火事で家が燃えたことを含め、現時点でも波乱万丈な人生を送っていると言える彼女の起伏の激しい物語はこれからも続いていくが、それは本人も受け入れ始めている。
(辛い人生を歩んで来たのねアリサちゃん…。いいわ、任せなさい。家族くらい私が見つけてあげるわよ)
「いいだろう、特徴を言え」
アリサの家族について一通り聞き終えたあとは、ジュンの新界で南部までの門を開く。
亜空間を通るのはアリサだけ、ジュン達はここで別れ、都市部へと赴く。涙を拭い切れていないアリサを見送り、次いで村人に軽く挨拶をする。
村長ズイは相変わらず、やらしい目付き。
「もう少し熟してから刈り取るので、ご安心ください」
「あっ……」
(あーあ、やっぱり気付かれてる。式と紫燕は無理でも陰牢はちゃんと、ねぇ……。刈り取り方法は聞かないでおく方が賢明でしょうね。それと、私も気をつけないと、いや〜、女子って怖い。んまっ、私も女子だけど)
目は口ほどに物を言う、ということ。
明日は我が身かもしれないと思いつつも、早乙女純は村長ズイ同様に守護者の身体を目で追うのだった。
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