山を越えて
次なる征服先を決めたジュン達は、自らの足で国境を越えていた。ジュンの空間移動技“新界”は使用しない、勿論それは紅蓮たちも同じ。
技を使わず、徒歩で踏破するには色々な意味がある。
1つは鍛錬、足腰を鍛えるため。古城内の鍛錬場で毎日汗を流す守護者もいるので意味を成さないと思うかもしれないが、砂漠地帯に対応できる鍛錬場は造っていなかった。
また、山越えは守護者の誰も経験したことがない。
経験を積ませるには丁度よい機会なのだ。
もう1つは、生き物や街並みを自分達の目で見ることで、新たな発見があるかもしれないからだ。その土地の現地人しか知らない秘密の場所を知れば、征服で不利に働くことはない。
世理の世界観測では、その土地の細かい情報までは読み取ることができない。あくまでも上空から見た景色と強者の分布くらいである。
それでも世界を知るにはかなり役立つので、世理の仕事は欠かすことのできない重要さを帯び、彼女は中に籠もってしまうのだ。
話は逸れたが、この新発見探しは、早乙女純の言うデートスポット探しにもなる。転生初期に見つけた花畑は焼けたのだ、新候補を見つけるのは必須。
そのため守護者には、何かあれば逐一報告するよう伝えられている。
砂漠地帯の紅蓮たちでは可能性は薄いが、この地域には砂漠に比べて緑がある。可能性は十分にある、と早乙女純は思っているのだ。
「──にしても、ジュン様が同行してくれるとは思いませんでした」
式を先頭に、陰牢が右、紫燕がジュンの左を歩く。現在は頂上を抜け下る途中。焦げ臭さの残る山には生物一匹いない。
陰牢と紫燕はそれなりに周りを警戒し、報告をしようと努力さが伝わるが、これといって何も無い。
式に至っては無警戒にズンズンと進んでいく。
新たな発見はない。稀に何かの死骸があったりするが、生物としての形を成していない物が多く種類の判別もできない。
「おっ!!」
暫く歩いた所で、式が何かを見つけ駆け寄っていく。また死骸か何かと思った一行は、ゆっくりと後をつけた。
「主!!」
式の尻尾は、犬が何かを見つけた時のようにブンブンと振っている。
「これ──は……?」
倒れていたのは人。推定14〜15歳ほどの白い服を着ている痩せた女の子。
「まだ息があります」
「そのようね、どうしますか?」
「食っていいか!?」
「くっ……」
(食うですって?どういう?食べ物なわけないじゃない。式は……お腹すいてるの?いや、まさか私の考えてることと同じ?少女を別の意味で食べる、ぐふっ、ふふ、ふふふふ…)
「食べられるわけないでしょう、よく見なさい。式、これは人間よ」
「なんだと!?」
「この辺はまだ焦げ臭いから、匂いじゃなくて眼で確認した方がいいですよ」
「あ、ホントだ、こいつ人間じゃねーか、どうする主?」
(人とすら認識してなかってのね、残念。ワンチャン3Pかもって思ったけど、その可能性はないか。そもそもこの身体じゃ、私の求める究極3Pは出来ないわ。ふぅ、意識を戻しなさいジュン、いえ早乙女純、今は男よ)
「もしかしたら近くに町や村があるかもしれません」
「襲うのか?」
「違うわね、見なさい彼女、かなり衰弱してるわ」
「だから?」
「私達が襲う必要はないわ。反対に救えば感謝され借りを作ることができる。借りなんてあってないようなものだけど、誰かの救世主になるのは悪いことじゃないのよ。たとえそれが、身内の火始末と知っていてもね。ああ、不始末じゃないのよ。要は、私達の良いようにしましょうってこと」
「ふーん、わかった」
「そうですよね、ジュン様?」
ジュンは静かに頷く。式に関しては理解したフリをしているが、つまるところ、少女の住む地域まで運んで食糧を与え治療をするということ。
それが大勢なら感謝も倍増。
紅蓮の炎が生み出した可能性。燃えて灰となるばかりではない。
そして会話の中、少女も目を覚ます。
「ぅ…」
瞳にはジュンが映る。
「ありがとぅ、神様…」
少女の頬を伝う水でさえ、今は山の恵みとなる。
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