覚悟を決めて
世理の情報では、王国中央部の能力者はCランク3人のみ、個々の基本値は守護者より圧倒的に弱い者達ばかりで構成されているとのことだった。
武力に物を言わせるのは簡単も、今日はそういう表向きで来訪しているわけではない。目的は会談。
平和的解決を実現させ、諸外国に破壊行動ばかりをする組織でないことを伝播させる意味を持たせる重要な話し合い。早乙女純の今後のハーレム生活を左右する大一番といって過言ではない。
何故なら、本当の意味で征服を始めてしまった場合、後に引けないからだ。この国だけならまだしも、世界全てとなると忙しくなってしまう。
ハーレムする余裕はない。
お花畑でランランとピクニックや、守護者をベロベロと舐め回し、チュッチュする願望も叶わなくなるかもしれない。そもそも、女の身体になる方法を模索するゆとりもないかもしれない。
それに、圧倒的な武力を保持しているからといって安泰とは言えない。
この世界は異世界。
早乙女純のいた世界とは違うのだ。
何が起きるか分からないし、超常現象に対応できない場合もあるかもしれない。
更には、魔王のようなレッテルを貼られる可能性も十分にある。
おちおちと外出も、ままならない。
ジュンが世界征服を一応の目的で掲げたことに間違いはない。
だがそれは、転生した際の興奮状態も相まった軽いノリがあったからだ。
本来の主目的はハーレムすること。
しかし、このままでは、その夢も消失しかねない。
つまるところそれは、早乙女純の精神的な死を意味し、危うい未来の阻止は必須。
この会談を良い方向に終わらせるのは、早乙女純にとって絶対条件なのである。
ただここで疑問が生じる。
城内に兵士がいないだけでなく、室内の人数も少ない。
王と王妃に護衛が1人。
その護衛が能力者の1人であることに間違いなさそうなのだが、その不自然さに戸惑いは隠せない。
(んんん?何で?どうして??他の人たちはどこに行ったのよ。気配はこの3人しかいないわよね?つまり、茶菓子も出ない会談ってことね)
その意を汲み取ったのは、いつも通り、零。
何処から取り出したのか簡易的な机を用意しては、保温ポットに入っていた紅茶を注ぐ。グラスには甘い菓子が付いている。用意周到のテキパキさに、早乙女純はジッーと睨むもジュンとしての表情は変えない。
対して零はニッコリ顔で、お辞儀さえしている。
(まぁ、良しとしましょう、今は……ね。まずはどう切り出すべきかが悩みどころよね。私に経験はないし、こうなったら、最初は零に任せましょ。寡黙設定には無理があるもの。うん、それがいいわ)
危機に守護者の存在は大助かり。
ジュンは零に目配せ。
待ってましたと言わんばかりに、意気揚々と前へ進んでいく。
(私の心を読んでるなら分かるよね。私の言いたいこと、最初の言葉、貴方に任せたわよ、零。その後は私の出番、私の交渉術見てなさい)
「皆様、ご機嫌麗しゅうございます」
(うんうん)
「此方におわしますのは、私達の主、ジュン様にございます」
(いいわね)
「私は守護者の零と申します」
(流石じゃない)
「今日お時間をいただきましたのは、事前に連絡しましたように、皆様にお伝えしたい話があるからでございます」
(完璧ね、ここからは私、さぁ交代よ)
「ですが、主様からお伝えするほどのことでもございませんので、私から述べさせていただきます」
(へ?……え?ちょっ、まっ!!)
「以後、この国は私達が貰い受けます──といってもあまりにも魅力に欠けた国ですので、好き勝手開拓し、私達に見合う国に仕上げたいと思います。皆様は由緒正しきお家柄でしょうが、今日をもってその血絶えさせていただきます。誠に申し訳ございません」
(は…はあ!?何言ってるのよ…え?読心術は??私の心内知ってるんじゃないの!?その達成顔も止めなさいよ!)
「ちがっ──」
「皆様方の返答は如何に?」
零は全くもって主の心根は理解していない。
それもその筈、読心術は使えない。
これまでのは単なる彼女の勘。
頭の回転が早く、勘が良すぎるために、心を読まれていると錯覚してしまったに過ぎない。
だから主の弁解行動も遮る形となってしまう。
「返答なぞ知っておろう」
「私達はここで命を絶ちます。その代わり、ネルフェールに亡命した子供達のことはお許しください」
王と王妃は順に答える。
ネルフェールとは王国東と隣接している。
バルブメント王国が長らく紛争する3つの国の1つ。
「それは、承諾しかねます」
「何故だ!」
「私達はこんなにも譲歩しているのよ!慈悲くらいあっていいでしょうに!」
「何故慈悲が必要なのでしょうか。嘘をつく輩を成敗するのは至極当然なことと私は思います」
「なっ…に!?」
すると突然、王と王妃の姿は消失し、その場には似せた人形だけが残る。
最初から零は何かに気づいており、気づかれたであろう護衛能力者は舌打ちをする。その汗量は尋常ではない。
(ああ!なるほど、そういうことね。魂がフワフワしているなぁとは薄っすら気づいていたけど、会談のことで頭いっぱいだったから確認を疎かにしていたわ。なんだ、最初から王様なんていなかったのね)
王国側は始めから会談する気はなく、敵前逃亡中。
平和的解決を望むのは1人だけという事実に、虚しさだけが残る。
嘘情報も真っ先に気づくべきだったが、会談を成功させることに集中していた早乙女純には無理だった。
だが問題はそれだけに留まらない。
残された者はポツリと一人呟く。
「幻影が人形へと戻ること、それ即ち、対象の死を意味する」
(え?どゆこと?ま、まさかさっきの、唯壊の行き先って……)
「王や王妃だけではない。他の王族や私の仲間達も殺したんだろう。この悪魔共め!」
能力者は激昂し、その場で涙する。
「貴様らも最初から会談なんてする気はなかったんだ!人間の皮を被ったモンスターめ!!」
「これ以上の暴言は容認しかねますので失礼します」
シュルッという音とともに、能力者の首は切断され、身体も切り刻まれる。あとに残ったのはバラバラ死体。
「これでこの国は綺麗になりました。唯壊も存分に仕事をしてくれたようです。これが他の守護者だった場合、逃げられたなんてこともあったかもしれません。ですが、流石はジュン様、運を味方につけるほどのジャンケン采配は見事というほかございません。感無量でございます」
「う……」
(うぎゃあぁぁー!!もう最悪!!最低の流れ!!なに王族全員殺害しちゃってるのよ!!ってことは重鎮とやらもいないんでしょう!?平和的解決はどこに行ったのよ!!)
早乙女純は一人悩むも、会談をする趣旨の名目を守護者の誰にも伝えていないことに、ハッと気づく。
彼女達には、『中央部に赴き王と会談する』としか伝えていない。それでは誰も分からないし、最初からこれは一人合戦。
読心術錯覚を皮切りに、ズブズブと問題が生じ、手のつけようもない事態へと追い込まれている。
最早、レッドカード1枚の一発退場状態。
大一番を成功させる夢は消える。
「ふっ……」
「?」
しかし、早乙女純に諦めるつもりは全くない。
「ふふふ」
暴力制圧をしてしまったことは理解した。
これから先、世界征服に時間が取られることも承認した。
「ははははは」
先程の『諦めない』とは、夢のこと、性欲のこと、ハーレムライフのこと。そして早乙女純は、転生直前の出来事を鮮明に思い出した。
「あぁ……(そうだったわ……)」
耐え難い苦しみ。
「そうだ……(忘れてた……)」
痛みと怒り。
「ならば……(私の願いは……)」
覚悟を決める。
「俺は(私は)、過去に奪われた(現代で搾取された)、醜き下郎に(汚い男共に)、それこそが魂(それこそが貞操)、今度は奪う側だ(これからは私が搾取する)、夢のために(欲望のために)、俺は(私は)、『世界を蹂躙する!!』」
ここに、世界征服&ハーレムライフを実現させる早乙女純の欲望物語は、本当の意味で始まったのだ。
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