エピソード 夢有①
城の中をテトテトと走る女の子が一人。
目的の場所に着くまで走るのを止めず、仲間に声を掛けられても手を振るだけに留めている。
足を止め、部屋の大扉を開けて、そのまま椅子に座る人物へと飛び乗る。
「ジュンさま、おはよう!」
「ああ」
大部屋に居たのは、この古城の主『ジュン』、寡黙な男であり、彼女達の創造主でもある。
今胸に飛び込んだのは、ジュンの創造した守護者の1人、名を夢有と言う。
夢有の容姿は10人の守護者の中で一番幼く、外見は小学生。
知能も齢とさほど変わらず、青髪ツイン三つ編みで服装はスク水が基本。
彼女の能力は“巨大化”。
自身の体を山ほどの大きさまで巨大にすることができる。
それならば“クラッシャー”でなく“ジャイアント”が適しているかもしれないが、前者が選ばれているのは彼女の戦い方に由来している。
巨大化により動作が遅くなるなどのデメリットは無いが、知能は小学生レベルのため、技術面は弱い。
繰り出す打撃は質量の倍増により増加、大抵の場合、相手はぺしゃんこになるが、傍から見れば戦い方はプロレスごっこに近い。
攻撃手段は一定で、技に名前があるわけでもなく、攻撃モーション時に周りの建物を無意識に破壊することもある。
古城周辺の雑木林や大岩の整理では無駄な破壊行動もあったが、役立ったことには変わりない。
勿論、他の守護者でも可能なのだが、役割を与えるのは成長のため、創造された守護者と言えども、経験により成長はできるのだ。
「どうかした?」
首を傾げる夢有。
主の反応が、いつも通り無に近いことは承知の上だが、構ってほしいお年頃。
他の守護者と比べて、自分には魅力が薄いと思っているのだ。
だから無意識にも自身の身体を触ってしまう。
「何を……しているのだ?」
「え!?」
主からの急な問いかけに、夢有は吃驚している。
「ななな、なんでもないでしゅ…」
「そ、そうか」
寡黙なジュンも、もう少し分かりやすいようにすべきなのだが、ところがどっこい、ジュンの本体[中身の早乙女純]は変態的な事しか考えていなかった。
(あ〜〜!!可愛い!!かわゆすぎりゅぅ〜!!なんで夢有ちゃんはこんなに可愛いのおぉぉ!!ペロペロしたい、ナメナメしたい、ナデナデしたい、スリスリしたい!!このモチモチ肌触りたいぃぃ!!あぁん気絶しそう!!)
早乙女純の女好きは炸裂していく。
(本当は抱きしめたいのに出来ないって最悪ね。ホントにもう何で私ったら男なのよ!何で私は容姿変えれないわけ!?神様ってホント不公平!!くぅ~度し難いわ!!)
この気持ち悪いのが彼女達の主、ジュン(♂)[早乙女純(♀)]である。
異性との恋愛を不純と考え、同性との恋愛を至高と考える人物。
早乙女純の願望通り、転生前の女性の姿だったならば、この場は乱れていたことだろう。
男性同士もイケる口なのだが、それは基本視聴のみ。
守護者を男にすれば、早乙女純の願いに可能性は見出せるのだが、どちらかといえば女性同士の方が好みであるために現状維持。
自身のスキルアップにより、いつかは自分の容姿も変えられると思っているのである。
それを為す日までは、寡黙なジュン(♂)を演じる早乙女純(♀)ということ。
暫く早乙女純が妄想を膨らませていると、不思議に思った夢有が顔を覗き込む。
「ジュンさま、考え事?」
「──ん?そうだな、すまない」
「お邪魔だった?」
ジュンは彼女達を創造した際に、一応の名目として世界征服を掲げている。
一人一人をそれなりの強者として創造したのだ。
世界征服程度はしてみたいが、メインはハーレムライフ。
ジュンの脳内の9割は性欲、変態的な性癖で埋め尽くされており、征服に関する大部分は他の守護者に任せている。
夢有は、世界征服計画を思案している最中に訪問してしまったと思い込んでいるわけだが、それは大きな間違い。
悲しそうな表情をする必要はない。
ジュンも慌てて首を振る。
「よかったぁ」
「──で、今日は何用だ?」
「あっ!えっと、これ…」
夢有がスク水のポケットスペースから取り出したのは、黒く焦げた物だった。
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