例のアレ
北部・東部軍壊滅情報は古城の主、ジュンにも届く。期待していた平和的解決は、またしても夢に散る。
残るは王国中央部のみであり、武力攻撃による完全制圧は秒読み段階であるが、諦めの悪い早乙女純は、自らが手本となり王城へ乗り込むことを決意。
事前連絡も済まし、今日が出立日となっているのだが、連れ立っていく守護者が未だに決まっておらず、今も尚会議を続行中。
この話し合いは、連日行っているのにも拘らず、同行者が決まりそうな雰囲気は一向にない。
「──では、改めてお聞きします。ジュン様に同行したい者は挙手をお願いします」
「はい!」
「ボクが行きます!」
「私も!」
「ここはオレの出番だろ」
「会話に長けた者が必要でしょう?なら私が適任じゃない?」
「唯壊が行くに決まってるの!」
「仮にも敵の大将に会うのだから、それなりの見た目の者が適任だろう。ならばここは私が随行すべきでは?」
「はあ?それどういう意味?唯壊に喧嘩売ってる?」
といった感じに互いに譲る気は全くなく、喧嘩バチバチムード。王国中央部までは一瞬で到着できるも、このままでは遅刻も視野に入れる必要がある。
話を持ち掛けた者が遅刻とは如何なものか。
今でさえ印象は最悪なのだ。
その気がないのに交渉を持ち掛けたと思われてしまう。
そうなっては不本意。
交渉の余地なく、目を合わせたら最後、戦闘開始となるだろう。周辺諸国も同じ事を思うに違いない。それは早乙女純の言う、平和的解決が今後一切不可能になることを意味する。何としても早急に、連れる守護者を決めないといけないのだが、終わりそうな気配はない。
(ああぁぁ〜、美女と美少女たちが私を取り合ってるなんて最高じゃない。でも、これってどっちなの?男としての私を好いていたら困るのだけど…。主人と従者の関係だから積極的ってだけよね?そうよね!?私は異性行為は認めないわ!同性行為こそが至高なのよ!)
早乙女純の変態論は勿論誰にも伝わっていないし、守護者が恋心を抱いているかどうかも不明。
創造されたからといって、互いの心が接続しているなどはない。
成長できるよう創造されているのだ。
主に逐一、心を見透かされては成長の妨げとなる。
守護者と言えど、プライバシーはしっかり保護されているのだ。
今回に限ってはそれが裏目に出ており、守護者が恋心を抱いているかの判別がつかないのだが、対策を講じるつもりは早乙女純には無い。
最終的に女の身体を手に入れ、ハーレム出来さえすれば良く、主従の関係が立派に築けていれば、身体が女に変わろうと守護者は付き従うと思っているのである。
(そうなのよ。その為には女にならないとだけど、今日の本題はそこじゃないわ。早く決めないと本当に時間無い。挙手制はやめて、私が指名してもいいけど、それもまた喧嘩になりそうなのよねぇ。こうなった以上はやっぱり、アレしかないか……)
「提案がある」
ここで初めてジュンが声を発したことにより、室内は静寂となる。暴れていた者達は言い争いをやめ、定位置へと戻り、聞き耳を立て、言葉を待っている。
その状態が暫く続く。
誰か一人でも、『何でしょう?』とでも聞いてくればスムーズに答えることもできたのだが、それは叶いそうになく、考える素振りをワンクッション入れたあとに咳払いしてから伝える。
「ジャンケンだ」
「じゃんけんですか」
「う、うむ」
(ん?反応がいまいち……結構前に教えた、わよね?守護者同士でもやってたの見たことあるもの)
「この人数で行うとなると、確率的にどうでしょう。それこそ時間がかかるのではないでしょうか?」
(いやいやいやいや、なら早く決めておいてよね。というか、時間を気にしてるの知ってるってことは、また読心術使ったんでしょう!)
零に心を読む術は恐らくない。
そのような設定を創造時に施してはいない。
急成長という可能性を除いて。
「お前達だけでするのではない」
「つまり……?」
「俺に勝てた者を連れて行く」
直後、ジュンは静かに立ち上がり、拳を突き上げる。意味を理解される前に動いたつもりのジュンだったが、反応したのはなんと全員。誰かの掛け声も合わさり、正真正銘の一発勝負が始まる。
「ジャンケンポン!」
ジュンに勝利したのは、零と唯壊の2人。
笑顔なのに笑っていないと思われがちの2人。
「ほら、唯壊が1番じゃない」
「私もいますので2番かと思いますよ」
勝利者同士で火花が散る。
この喧嘩を止める者はいないが、そうも言っていられない。
これ以上の時間経過は論外だ。
「では、行く」
「「はい!」」
服を羽織り、技を発動。
「新界」
室内に亜空間が広がり、指定した場所へと移動できる扉が出現する。
ジュンの後に続く2人。
負けた守護者は潔く留守番。
勝負とは時の運、選ばれた人選もまた運。
これが吉と出るか凶と出るか。
交渉術の経験が無い元女子高生に運は味方するのか。
こればかりは誰にも分からないし、これこそぶっつけ本番の一発勝負といえるだろう。
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