第176話 共和国③
月華は真面目な守護者だ。武芸を好み、美容も欠かさない、一般的かつ誠実な心の持ち主。そうあれと創り出されたのは間違いなく事実であり、これは創造主ジュンの性癖の一部なのだが、創造された本人は本質以上にツキカしている。
真面目さと誠実さ、これが月華の売りなわけだが、前回の戦いでは良い所がまるでなかった。結果的に倒したのは月華だが、式の連携が無ければ勝利は出来なかった。主の指示通りに2対1で応戦し、糸口掴むには“限界突破”を使用するしかなかった。
殺傷性低い能力を創り出したのも主であり、紅蓮らには劣る守護者であるのは分かりきっているのだが、これまでの戦いを振り返っても[圧勝]した経験はない。能力持たない一般人くらいしか、ワンパンで倒せていない。
月華は、これらの結果を重く受け止めている。他の守護者と比較し、不甲斐なく思っている。比較する必要性は全く持って皆無なのにだ。
だからか、管理者という職務だけは他よりも秀でたいという気持ちが強くある。共和国をルクツレムハ征服国にとっての1番にしたいと考えるまである。
真面目さと誠実さが仇になっている証拠と言えばそうなのだが、原動力でもあるために、温泉を満喫させたいという想いが誰よりもあるのだ。
「いっちにーさんし」
「ごぉーろく、しち、はち……」
柔軟体操、風呂に入らずとも月華は毎日やっている、健康的な身体を作るルーティンの1つ。“半自動治癒”では得られない達成感と堅実感。
(いつもより長めにしようかな。熱いお風呂に入るかもしれないし)
白い靄に落ちる雫。湯船に浸かる前から汗が噴き出る。まるで、サウナ室で柔軟しているかのようだが、ここは外、露天は目の前。
それだけ身体が熱くなってきたということ。月華のほぐしは完璧に近い。
「はい、反対いきまーす」
「ふはぁーい」
(うんうん、よしよし。ジュン様のお身体も十分柔らかくなった気がするし、もう大丈夫だよね。あっ、飛び込みだけはさせないようにしないとっ)
さながらプール監視員。とても似合っているし、月華に向いていると言えよう。
「気をつけてくださいね」
おかげでやっと、管理不十分の熱湯風呂に入れるのだから。
◇◆◇◆◇◆
(イタタタッ……幼女が柔軟て、いや普通はできるかもしれないけれど、元が陰キャ属性の私には無茶よ。身体痛いもの。けどこれで、ご褒美が待ってる。ウエットスーツの上からでも、あの豊満な身体に包まれたら昇天しちゃうわ。一応ほぐれたとは思うし、抱きしめられる準備はできてるっっ───)
「アッツー!!」
「大丈夫ですか、ジュン様?」
ジュンにとっては熱すぎる風呂も、月華は難無くと浸っている。熱衝撃により、“自動治癒”も発動したが。
「熱すぎないこれ?」
「そうですかねぇ?ボクには丁度いいですよ」
月華から『膝にお乗りください』と手招きされても躊躇する熱さ。一度膝に乗り抱きしめられでもしたら密室空間と変わりない。それは熱湯で満たされたサウナ室であり、普通なら殺人事件となるだろう。
痛覚を無くす、という手段も取れなくはない。だがそれは、期待した胸や肌の柔らかさを自ら消滅させる悪手にほかならない。
“自動治癒”連発も駄目だ。守護者は耐えられているのに、創造主が耐えられないというのは威厳を無くす。元よりそんなものは無いに等しいと本人も理解しているがやはり、機嫌を損ねるかもという観点から使用制限が必要。
だが、“自動治癒”は守護者が使う“半自動治癒”とは別物。完全なる自動発動。本人の意を解さず発動するため便利なものだと、本来であれば誰もが解釈するものの、相手に効果発動が視えてしまうがために、デートには不向きだというのが、今判明してしまった。
(“自動治癒”のオンオフ自体は可能なんだけど、それだとねー、お酒に溺れてしまった時の記憶が蘇っちゃう。記憶あんまりないけど………)
要するに詰みの状態。最強能力者でも太刀打ちできない現実が起こりえてしまったということ。
だがジュンに[諦め]の二文字はない。
それはこれまでだってそう。完全なる女体化を目指し止まない時点で、手に届く欲望を諦めるわけがない。
(別の湯に誘導すべき?いや一旦身体を洗う……そうだわっ!洗ってない。水着でプール感覚だから不思議に思わなかったけど、貸切風呂とはいえ常識を無視したらいけないわ。ウエットスーツを脱がすチャンスでもあるもの!)
「ねぇ、月華。身体洗っこしない?」
頷く守護者に内心ガッツポーズする創造主。
誘導成功と思ったも束の間────
「あっ、ダメでした」
「へ?」
捻っても水が出てこないのだ。
「水道代の節約だったと聞いたような気がするのですが、休業中なので元栓閉めてるはずですはい……今日は洗わず入りましょう。大丈夫です私は。早朝の鍛錬終わりに自室で入りましたから。ジュン様も問題ありませんよね?」
「えっと……」
ルクツレムハ征服国の古城から共和国へと二人して来ているわけだが、朝風呂に入る時間は確かに充分にあった。
だが敢えて言おう。
問題点はそこではない。
間接的に、『朝風呂入りましたよね?』と聞いているが、真の問題は別。水を止めてることこそが大問題なのだ。特に、ジュンにとっては。
「水を止めてるのはここのシャワー室だけなので、ご心配なく」
「いやそうじゃなくてね月華、営業してなくても国の管理者がこの場にいるなら、そのあたり融通効くんじゃない?」
「ですが、水道代は大事です。光熱費削減は温泉屋敷を運営するにあたっては必須とスズさんも言ってましたよ」
「まままままそうなんだけどね、そのなんていうか女将も国の関係者と知り合いなら節約とかも考えなくていいんじゃって思ったわけで……」
「・・・・・・」
「あっ、うん、今度聞いてみてっ……カンネが戻ってきてからでもいいから、うん急がない、し………」
「承知しました!では、今日はこのまま入りましょう、ご一緒します」
「あっはい、お手柔らかにお願いします」
日々の鍛錬で熱さをものともしない月華と一緒に熱湯風呂へとジュンは入っていく。
期待したシチュエーション、練ったデートプランとは全く違う我慢大会みたいな感じだが、終日抱かれたジュンは、一応の満喫はしたのだった。
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