焦げた花
古城の大広間には椅子に腰掛けるジュンと、横にはメイドの零が立っている。攻めの組み分けを決める際、古城の守り手は零が務めることとなったのだ。
勿論ジュンは強いし、控えにはぶっ壊れ能力の世理と最強格の翠がいる。零を残す必要もないほどに守備万全ではあるが、選抜した守護者達との情報共有や、その処理をする役目は必要になってくる。
それに適した人物となると零もしくは陰牢となるが、今回は零の自主性により彼女が役割を担っている。実際に判断は正しかったようで、戦場の情報は漏れなくジュンに伝わっている。
つまるところ、零は中間管理職に向いているということだ。
ジュンの中身である早乙女純は元女子高生のため、中間管理職の意味をしっかりとは把握しきれてはないが、生徒と校長に板挟みされながらも頑張っている新米教師程度には思っている。
(複数の情報を資料にするのホント早いわよねぇ。元の世界だったら、この才能だけで食べていけたでしょうに……まぁ、食べちゃうのは私の方だけどね…ふふ、ぐふふふ)
妄想が進んでいく中、大広間の扉がギィギィと音を立てながら開かれる。
入室したのは3人、南部攻めの紅蓮と紫燕、それと西部単騎攻めの式。勝利者達の帰還を盛大に祝うのは一考だが、寡黙設定のジュンでそれはできない───したがって、軽い声掛けに留まる。
「ご苦労」
「「おう!/はい!/只今、戻りました」」
三者三様。
式は言わずもがな、紫燕は少し緊張している様子で、紅蓮は冷静に答えている。
その紫燕と紅蓮の2人が普段の定位置に控え、主の次の言葉を待とうとする中、式はジュンの隣へと犬座り。
これは褒めてもらいたい時のポーズ。
理解したジュンも出来上がった資料、西部軍撃退の概要を読む。そこには一方的な戦闘記録が記されていた。
(なになに、えーっと、西部軍は脆弱で能力は使わずとも撃破。太刀による斬撃では大地を抉り大気を割った。圧倒的な暴力により撤退するしかなかった西部軍だったが、慈悲はなかった……え?え!?慈悲はなかったってえっ?全滅??平和的解決はどこにいったのよ!)
式の方を振り向き直すも、犬座りに舌を出し尻尾をフリフリとさせ、褒め言葉を今か今かと待ち望む体勢。
「この内容は真実か?」
戦闘記録には世理からの観測情報もあるのだ。真実である場合の方が多いが、世理が嘘の報告をしたのかもしれない。
守護者は誰一人として、主を裏切らない設定にはしていないのだ。この報告資料が虚実である可能性は十分にある。
「西部軍内には僅かに生き残った者達もいましたので式が連れ帰り、私の方で整合性の聴取を行いました──」
(あぁ良かった、生き残りがいたのね)
「──ですが、その者達は先程、出血多量で亡くなりました」
(その情報いる??また、心読んだでしょう!ねぇ、そうよね!?)
資料は真実で、ジュンの願いは惨敗。
零の淡々とした報告も終わり、大広間には式の犬のようなハッハッとした、息づかいだけが聴こえる。そこで漸く、式が待っていることを思い出したジュンは、額に手を置き頭を撫でる。
「見事だ」
『クゥーン』と鳴き声が聴こえてきそうな雰囲気にジュンも酔いしれる。
(はぁ~ん、ワイルドなのに巨乳なのになんでこんな愛らしい表情できるのよ。お〜よしよし、平和的解決はできなかったけどこの笑顔でチャラにしてあげましょう。まだ南部の紅蓮たちの報告もあるし、一度隣国を降伏させた手腕なら無慈悲ってことはないでしょうよ)
ジュンは南部軍撃退の報告資料も読むことにする。
そこには予想もしない内容が記されていた。
(えっ……はあ?どういうこと?これホントなの!?)
月華と紫燕が兵士を怪我をさせるだけで制圧したのは良い。紅蓮が炎弾で南部軍の主力を倒したのも問題ない。
しかし、南部軍と接敵前の紅蓮の行動に全く意味が理解できない。
「2人が南部軍と衝突するまで時間がありましたので、今後のことも考え、焼き払いました」
紅蓮の行為とは、南部軍ではなく南部地方を焼き払ったこと。退路を断つ意味なのか、それとも別の意味合いがあるのか、こればかりは本人に真意を聞く必要がある。
「王国との戦争は今後を含め完勝できるでしょう。ですが我々の目的は世界征服、次なる敵は王国に隣接する国々となります。同じように容易いと考えておりますが、それとは別にジュン様に説いていただいた平和的解決を模索するために必要な手段だと思いました。長くなりましたが、要するに見せしめということです。私の判断に間違いありましたでしょうか?」
「……いや、ない」
「安心しました、今後もジュン様のお力になれるよう精進致します」
「う、む」
とは言うものの、問題は大アリである。
何故なら、焼き払った場所は早乙女純が密かに考えていたデートスポットだからである。
(いやあああぁぁぁ〜!なんでえー!!ピンポイントで花畑燃やしちゃうのよお!!南部地方はこの国では観光スポットなんだからあぁ…うえーん。しかも境界線付近の森林も燃やしてるし、自然破壊よ、全くもう!!)
早乙女純の未来に見る夢が1つ絶たれる。
思惑通りには中々いかず最早、平和的解決は無理なのではと思ってしまう。
「残りの守護者は?」
「夢有と唯壊が北に、月華は東に向かっています。先に着いた陰牢とまもなく合流するでしょう」
「そうか」
(北は……無理ね、諦めましょう。東は、ワンチャンぐらいなら交渉の余地があるかも。陰牢に変なスイッチが入らなければ、きっと……)
残る守護者に託すしかないのだが、不安だらけ。
ジュンは久し振りに、居ない神に祈ったのだった。
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