作業開始⑦
DS計画に先がけて、現地に真っ先に建設された簡易宿舎はとても広い。使用人はいないため、衣食住は各自で行う流れ。個室は各守護者用に、大部屋は兵士たち用に区分けされていることで、守護者と兵士たちが一緒くたに集団生活している形とは少し違う。
尤も守護者の場合、自分たちの創造主であるジュンに願い出れば、“新界”を発動して古城へと戻ることができるのだが、建設作業が始まってからは誰一人として頼み込んでいる様子はない。要するに気を使っている結果なのだが、時折往来しているジュン本人を除けば、古城にいるのは守護者の世理のみ。ただ、その世理は自身の仕事場である観測部屋から持ち場を離れない性格で、生活の補助を必要としてしまうために、毎度のことながら食事を運ぶ零は、自身の能力を利用して古城へと戻っているのだ。誰よりも朝早くに簡易宿舎を出立するのは、そういうこと。
「───っと、今日はどの辺りから取り掛かるべきでしょうか」
当然、零にもDS計画の作業の一部が割り振られている。食事配達が終われば事務作業にはならない。力仕事が兵士たちなのは変わりないが、零に任された仕事もかなり重要性を帯びる。
零の担当は、来客をもてなす際に必須となる、宿屋の建設だ。共和国の温泉屋敷女将スズの知恵も借り、建物はほぼ完成と言って支障ない。
しかし、問題は山積み。
このDS計画が、事業の一環であるのも難しさを増す要因になっている。
「外観は概ね、内装も及第点と申し分ありません。考えるべきは、おもてなしの統一性と従業員の教育ですが、上手くいくのでしょうか?アドバイスをいただきましたが心配でなりません」
零の不安は当然だ。
DS計画とは、つまるところ遊園地とそれに付随する施設造りであり、運営する従業員や技術者がいなければ成り立たない。定期的な開催であればまだ良いが、ジュンの目指す所は一般的な遊園地。長期的な休館は、以ての外なのである。
更に当てにしている従業員はというと、これまた素人の東部軍が半分以上を占める予定。他国や国内から募る計画はあるも、それはまだ先の話。一旦、東部軍から人材を拝借するのは、周辺諸国が属国になったことと、ネルフェール方面に検問を張る必要性が希薄になってきているからだ。
但し、この運用について、当人である東部軍とその指揮官は知らない。グラウスは既知だが、情報漏洩を防ぐ意味合いも含め、その下につく者達には表立った説明会はされていない。
何も知らないド素人に、人をもてなす術を教えるのが、零は億劫なのだ。スーパーメイドならば、その程度造作も無いように思えるかもしれないが、失敗は厳禁。拝借している以上、怒りに任せて処断することもできない。それならば、自分ひとりで回した方が楽なのだが、ジュンの執務補佐をする身なのもあって、流石に無理があるというもの。つまり、絶対に、完璧に、彼らを一人前に仕上げなければならないのだ。
「幸先不安ですが、やるしかありません」
そう、音を上げることはできない。だから、口で発して気合を入れる。誰かに聞かれていようが関係ない。
宿屋担当の守護者は零だけなのだ。
同じように孤軍奮闘する博には負けていられない。守護者No.1(創造された順番)の腕の見せ所というやつだ。
敬愛する創造主ジュンに褒めてもらうためにも、役割は全うしなければならない。
零は、誰にも視えないように小さくガッツポーズし、闘志を燃やすのだった。
作品を読んでいただきありがとうございます。
作者と癖が一緒でしたら、是非とも評価やブクマお願いします。




