作業開始⑤
守護者の夢有と唯壊が担当するのは様々なイベントを開催する会場造り、劇や歌唱といった文化的な内容を披露する計画だが、主体的に何をするかまでは決まっていない。
「んしょとっ」
額の汗を拭い、夢有は一生懸命作業している。兵士に教わり、組み立てる。積み木遊びの要領だ。
巨大化すれば重い荷を運べ役に立つが、夢有だって違うことをやりたいお年頃なのである。但し、巨大化をしないというのは能力を使用しないと同義になってしまうため非力、完成した会場となる一部は大人の兵士に持って行ってもらう。
「ありがとございます!」
「いえいえ、これくらい大したことじゃありませんよ」
響きの良い元気な挨拶は伝染する。兵士たちのニヤけ顔が表すのは、職場環境の良さ。間違っても、ここに幼女好きの変態はいない。ペータン教信者の加勢は無い───というのが通説だが、もしかすれば変している者はいるかもしれない。
「そこ、斜めなんだけど?見て分からないの?」
夢有と違って、手ではなく口を動かすのは唯壊。
「ホンット下手ね、あんたたち仕える気あるの?」
「申し訳ありません!すぐやり直します!!」
辛口口調だが、兵士たちの気が滅入ることはない。寧ろ、好調ではないかと思える。ドM精神とまではいかないが、弱々しい東部軍をここまで屈強にしたのは、同じように若いアリサやユージーンだ。唯壊の言葉も自分たちを思ってこそだと考え行動しているからだ。
ただ言うまでもないが、当の本人である唯壊は、全くもって兵士たちのことを考えていない。唯壊は自分ファースト。作業の遅滞は評価に影響するのが我慢ならないだけだ。
「しっかりしてよね、役立たずは……その、誰かと交代しなさいよ……ね」
創造主ジュンしか興味のない彼女にとって、有象無象の兵士はどうだっていい。仲間とすら思っていない。
そう考えるのは、あながち間違ってない。一般の兵士と守護者では、強さに差があり過ぎてしまっている。守護者の中でも上位の強さに君臨しているからこそ、他を顧みない、気にしない悪癖とでも言うべき性格だ。
兵士一人ひとりに名前はあるし、分隊で行動している関係上、彼らにも役職はある。
だが、唯壊はその名すら、言わない───いや、言えないし、知らない。
夢有でさえ、分隊程度の名前は覚え、呼べているのにだ。職場環境が良くても、作業が遅滞する理由は、ここにあると言っていい。
指示厨が気づかなければ、改善は難しい。
「もう最悪!博の所は、外観が出来たらしいじゃない。なんで唯壊の所は……あぁもう!!」
しかしそうあるようにと創られた以上、今直ぐの改善は難しい。だから、一緒にいる夢有が上手く間に入る必要がある。
「───なに?」
「唯壊ちゃん、外の空気吸ったら?元気でるよ」
「はぁ!?うっさいわね、そんな気使わないでいいわよ」
「でも……空気は美味しいよ、天気もいいよ」
「………はぁ、わかったわよ。じゃあ、一旦外に出るから」
「うん」
本物幼女にヘルプされる偽物幼女。
いつもとは真逆の構図。
「ごめんなさい」
ションボリする姿に、兵士も慌てて駆け寄る。
「違いますよ。あっしらも下手で迷惑かけてるんです!だから、ムウ様とユエ様が悪いんじゃないですよ」
「コンセプトが決まってないからかなぁ?」
「その思ってたんですけど、こんせぷとっていうのは何なんです?」
「うーん、よく分かんない。確かメインが何とか……他がちゃんとしたものを作るから負けないようにしないといけないって呟いてた……」
「そこまでも考えないといけないんですかね?」
「うーん、どうかなぁ」
すると、そこへ成人幼女が戻って来る。
それほど時間は経っていない。
「ユエ様……」
「うっさい……うるっさいわ外、天気が良くても空気が美味しくても作業音があっちゃあ気分転換なんてできないわよ」
「ごめん、なさい……」
「───まぁ、頭は冷えたけどね」
パアァッと、夢有の笑みが溢れる。兵士たちも安堵の表情。
「礼は言わないわよ」
「うん」
作業再開。
「コンセプト云々は唯壊が考えるから、気にしないでちょうだい」
「いいの?」
「いいわよ、それとも夢有、あんた考えれるの?」
「無理かなぁ」
「でしょ、適材適所よ。ジュン様が、唯壊とあんたを組ませたんだから、その意味も考えて働くわよ」
「うん、わかった」
大きな改善はなく、作業スピードは一緒。
されど、室内は外のように明るい。
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