作業開始④
今回のエピソードより、書き方(会話、段落、心情描写など)を少し変えました。以前も少し修正したのですが、今回の修正で、またぐっと読みやすくなったのではと思います。他のエピソードも修正予定ですが、今暫く時間かかると思います。気長に、お待ち下さいませ。
右手に人形、左手に遊戯盤を持って入り口に佇むゴスロリ服の守護者、籠畏は外観が出来つつある屋敷へと足を運ぶ。
内観はまだこれからといったところで、所々で作業音、足の踏み場もないような場所もチラホラとある。
軽快に動く性格ではないため、上手く避けながら、且つ無言で作業する兵士の横を通る。
床や壁は木製で、全体の内装は暗く、黒を基調にしている。何処となくひんやりとした感覚に陥るのは、屋敷の趣旨を体現しているからであり、作業が概ね順調である証。
籠畏の担当はそう、お化け屋敷。
おどろおどろしい衣装に身を扮する者、仕掛け作りに試行錯誤する者など様々な者達がいる中、兵士の一人から声が掛かる。
「ルイ様」
表情変えずに歩く様は本物の人形のようで、兵士が身震いするのも致し方ない。綺麗顔でも、怖いものは怖い。
「何?」っと、少しでも返事すればいいものを、無反応に近い表情の所為で印象悪さを植え付けてしまっている。
意思疎通が図れなければ、作業に悪影響を及ぼす。
これは、誰でも分かることだ。
転生前の早乙女純(現創造主ジュン)のような陰キャでもなければ、影が薄いでもない。口数が少ないだけで、会話は可能。
尋ねた兵士の問いも、難しい内容ではない。
演出に使う効果音の聴き比べは、守護者であれば誰でも答え得る。戦闘経験が豊富であるからだ。
確かに、籠畏は新しく創造された守護者であるため、他の者と比べれば劣るかもしれない────がしかし、一般の兵士よりは詳しい。戦闘音や断末魔は聞き慣れている、というのが兵士の普通の見解だ。
ゆえに、答えなければならないのだが────
「悪くない」
「そう、ですか……」
「良い」と答えないのは悪手だ。これではまた作業に時間をかけてしまうというもの。兵士を成長させたい一心で受け答えしているならまだいいが、あいにく籠畏にそんな気持ちは毛頭ない。
「では、こちらは?」
「任せる」
「は、はぁ……」
籠畏としては、効果音の選定など何方でも良い。
というか、判断できない。
なぜなら、籠畏の担当領分は屋敷の外観及び内観だからだ。演出は別担当。その者は今、大忙しに現場を回している。
兵士が問うたのも、その者を配慮してこそ。
「──そこの壁は吹き抜けにしてちょうだい。血はべっとりで構わないわ。だけど、これ見よがしはダメね。尺度が分からない人は聞いて、勝手に判断しないで、演出面は全て私に聞きなさい───あら籠畏、戻ってたの?」
「陰牢」
お化け屋敷の担当は、陰牢と籠畏。どちらとも黒が似合い、客に恐怖を与えるに相応しい人材だ。零や紅蓮のように威圧混じりの怖さでないのがまた良い。
ここでもまた、ジュンの采配は的中していると言える。
「忙しそう」
「まぁね、でもこれくらい大したことないわ。寧ろ、楽しいくらいよ」
微笑み返す陰牢の頬には赤い液体が付いている。
本物か作り物かの判別は出来ないが、ペロッと舐めるのを籠畏は見逃さなかった。勿論、近くの兵士もそう。血の気が引いたのか、元から青褪めた顔立ちなのかは籠畏には分からない。興味もない。
「襲われそうになる時の効果音かしら?」
「あっ!はい!です!」
「だったら私の部屋に、サンプル………じゃなくて似たような物があるから、参考にしてみて。私の普段使いのを使ってもいいけど、それじゃあねぇ、面白くないわ。たがら、それと照らし合わせて、良いものを作ってちょうだい」
「しょっ、承知しました!」
流石に、普段使いとは何かについて触れない。深掘りが適さないことは、この場の誰もが理解している。
走り出す兵士を確認した籠畏は、肩の荷が降りたのか、1つ息を吐いた。
「責任でも感じてる?」
「違う」
「面倒事が減ったことへの安堵?」
「そう、凄い!」
「ふーん、籠畏の担当分もしてあげましょうか?」
「それはいい、自分でやる」
「そっ、残念。ジュン様に褒めてもらえる機会増やせなかったわ」
「大丈夫、陰牢は完璧」
「ふふ、ありがとう」
会話が終われば作業へ戻る。手を動かすのではなく、指示のみだが、それが彼女たち二人の仕事、式のように力持ちでなければ紫燕のような技術者でもない。
「それ、もう少し右に置いて」
「はい!」
入り口の門にも趣向を凝らす。気味の悪さは一級品だが、改善の余地はまだまだあり。この現場も、完成にはまだ幾分か時を要する。
冷ややかな屋敷に、熱が籠もる。
作品を読んでいただきありがとうございます。
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