作業開始③
DS計画の要、象徴とも呼ぶべき柱は、見せ物だ。
その内、絶叫系を担当するのが、建築に腕に覚えのある二人、式と紫燕。
絶叫系とは即ち、ジェットコースター。
「すんっっげ」
式が驚くのも無理はない。客寄せのためもあってか、コースは長く、頂点からの落差も大きい。
「これを造るのか……」
にわか知識の守護者が造り上げるというのも驚きである。
彼女たち二人の才が秀逸なのもあるが、ジュンの読んで集めただけの知識が大いに役立っていると言える。
「今更、怖気付いたんですか?」
「オレが?ビビるわけねーだろ」
綿密な設計図をもとに作業開始。大雑把な式が土台を造り、紫燕が丁寧に補強していく。
一糸乱れぬ連携技のおかげで、効率良く進む。
当然、手の止まる箇所はいくつかある。
家や城を建築するのであれば経験しているが、乗り物というのは初めて、無論この世界に似たような物すら存在し得ないのだから参考資料は無い。
「この……トンネルって何だ?何のために造るんだこれ?」
「明暗があった方が、面白いから───って、ジュン様が言ってましたよ」
「ふーーん」
「理解、できてます?」
「──ったりめぇよ!!モチのロンだぜ!!」
この設計図の作成には、ジュンも携わっている。
失敗があってはいけない────というよりは、演出にこだわっている感じ。
熱風や水を浴びる要素を当たり前のように取り入れるのは、現代知識のある異世界人(転生者)だけ、創造された守護者であっても、パッとは思い付かない。
DS計画を完全なものにするため、創造主のテコ入れは必須なのだ。
「なぁ、これ……動力は何で動くんだ?」
「えっ………?」
予想外の質問に、紫燕の思考も一瞬固まる。
式の口から、動力という単語が出たことも驚きではあるが、職人魂という観点であれば妥当ではある。
「電気……じゃないですかね?」
「どこから電力を持ってくるんだ?」
またもや突拍子もないが、実に的を得ている返し。
それ故に答えられず、暫し無言の時間が続く。
「うっ………違うかもしれませんね。今度、ジュン様に聞いてみます」
「可動テストだってするんだろ?頼むぜ、全くよぉ」
「うっ………何で急に本物の職人さんみたく専門用語て喋るんですか!気持ち悪いですよ」
「いやー、オレもよく分かんねぇんだなこれが……時々、ヒュッと何かが降りてくる感じがするんだよ。そういうことないか?」
「私は無いですね」
「そっか、なら良くね?あんま変わらんだろ」
「リズムが崩れるんで勘弁してください」
原因不明の症状であるかどうかは不明も、“半自動治癒”の発動が無効果である以上は怪我でも病気でも、ましてや精神損傷でもない。
「ジュン様に聞いてみます?」
「いやいい、どうせまた忘れる気がするんだ」
「そうですか」
あまり納得していない紫燕だったが、リズムが平常に戻るなら、それに越したことはない。
手を止めていた作業も、漸く再開。
完成には、まだ時間を要するのだ。
急ぐ必要はないが、期間は指定されているし、主に褒めてもらうためには、出来の良い物を造らなければならない。
式も紫燕も、自分が褒められる姿を想像しつつ、手を早めるのだった。
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