雨上がって
「──っと、時間だっけか」
赤黒い気配が消失する。
(くっ………)
反動の無防備状態とは痛みではない。ただ、身体が硬直するだけ。
「こればっかりは、ホント面倒だぜ」
硬直度合いには個人差がある。
勿論、どのように“限界突破”を使用したかでも変化する。
今回、式が使用したのは基本的な全数値増幅のため、10秒程度の硬直。
周りに敵がいればズドンだが、そのような猛者はいない。
「──うはぁ、よく寝たぁ」
「夢有」
「あっ、式だ………何でぼぉーと立ってるの?」
「別に、いいだろ」
「ふぅーん、まぁいいか」
”半自動治癒”を使用することで、傷以外に着ている衣服も元通りとなる。
“守護者創造”で創造されるのは能力や体型だけではない。衣服までもそれに該当するため、ほつれがあっても問題ない。
無償で新調。
但し、創造の過程にない購入などの場合は直らない。
あくまでも、ジュンの想像が前提となっている。
「もしかして、両方倒したの?すごーい!」
「まぁな、オレにかかればお茶の子さいさいだぜ」
気絶していた夢有は“限界突破”の使用を知らない。
「よし、主のとこ行くぞ」
「うん!」
天狗になった猛犬も敢えて触れなかった。
◇◆◇◆◇◆
幹部との戦いを終えた守護者たちが中央へと集結する。残る敵は死軍のみ。
紅蓮の炎が、ヤンの砂が、ミズキの水が、博の煙が、夢有の巨腕が、式の太刀が、零の鋼糸が一掃する。
「脆い」
「一般人に止めさすのは気が引けるねぇ」
「楽にさせるべきです」
「幾人かサンプルとして持ち帰っていいですか?」
「ちょわっ!」
「オラアァ!」
「どうしますか、ジュン様?」
「そうねぇ……」
(ムホ♡これは──)
未だ僅かに降る小雨の恩恵で下着が透けて視える。全員とは言わないが、ここが天国に変わりない。
それに───
(えっ……そうだわ。スク水と和服って……)
下着を履かないことが多い。
ゆえに、エロの全てが丸見えと化しているのだ。
(最高だわ。キャメラに収めておきたかったわね)
この世界に映像機の類は一般に出回っていない。ジュンの知識と能力をもってすれば造れなくもないのだが、文明補完の観点から製作するかは迷う。
そうは言っても、目先のエロは勝ってしまう───が、質問にも答えなくてはならない。
「──なら、私がやるわ」
ズオォッと、触手が増え、黒の捕食者が顔を出す。
(搦めたいのは、こいつらじゃないけど)
何よりも大きく長く、戦場を大地を覆い尽くす。
ネルフェールという国は、夥しい触手に呑まれた。
バリボリムシャッと喰らう様は、獰猛な化け物。
黒の捕食者の口の中は異空間にもなっているため、喰い殺してない民は、博の要望通りに捕らえ、研究品として実験される。
「さぁ、終わりよ」
有象無象を殲滅する。
大地を覆う闇が晴れると同時に、空の曇りも晴れた。
「あっ!」
夢有の指差す先に虹。
「キレイ」
「さすがはジュン様です!」
博の『化学反応ですね』という言葉に零が怒鳴る中、プラプラと猫が立ち寄る。
「ちょっと型、貴方は何してたのですか?」
「仕事ですニャン」
いかにも、ぐうたらしていたような感じでやって来たが、その手からは首謀者が顔を出していた。
その顔は遊ばれたようで、ズタボロ。
一国の代表者とは、あるまじき風体をしていた。
「まだ生きてるニャンよ、それと──」
更に取り出したのは起爆装置。これも、この世界基準で言えば、有り得ない機器。
「色々な所に設置してたみたいニャ。聞き出して、全て取り除き済みニャよ」
「やるぅ〜」
「お手柄ですね」
あとは、ほぼ気絶状態のネルをどう処理するかという問題。
だが、その前に───
「式……連絡無しに“限界突破”使用したでしょ」
「えっ!いや……」
「そうなの!?」
「懲罰ものだな」
「遠目からも視えたニャン」
「お…オレは言ったぞ、聞こえなかったのか、主?」
「念話は何故使用しなかったんですか?」
「大方、使い方が思い出せなかったということでは?」
「……そうとも言う」
「それはダメよ、決め事の意味がないじゃない。今度教えてあげて」
「承知しました」
「ばーすともーどって何だ?」
「“半自動治癒”とは別の技ですよね?私たちでは出来なかったはずです」
「魂魄値が少なすぎるからな──が、貴様たちもいずれは使用できよう。ジュン様の信頼を勝ち得ればな。それまで精進するといい」
謎は少しばかり残る。
絶賛気絶中のネルに問い質すのは優先事項だが、拷問官は陰牢。
だがその陰牢も、“有実の誓約”の影響で、魂魄値が底をついている。
各地の状況もきな臭くなってきた。
ただ全てに於いて、【聖なる九将】が関係していることくらい、ジュンにも理解できる。
クロウの言葉が現実を帯びつつあるということ。
つまり、まだ終わりではない。
仕掛けは既に始まっているかもしれない───が、休息もまた必要。
期待していた茶会も無くなったのだ。
今日のところは優雅に休むと心に決めたジュンは、古城までの“新界”を開く。
作品を読んでいただきありがとうございます。
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