バーストモード
“限界突破”は、守護者が使用できる能力とは別の秘技である。
魂魄値の消費量が激しく、半自動治癒の最大消費量が100なのに対して、限界突破には制限がない。
幾ら残量があったとしても全て使い果たす。
魂魄を使い果たしたあとは、何ら普通の能力者と変わりない。自己再生は不可。次いでに数秒間、反動により身体は硬直して無防備を晒すことになる。
まさに、諸刃の剣。
盤上を覆す手立てであるのは変わりないが、一歩間違えれば、死への一直線。
つまり、秘技を使用した時点で眼前の敵を倒さなければならないのだ。
使い処の見極めは特に重要で、使用する時は創造主への連絡を絶対条件としていた。
勿論これは、発動条件という意味合いを含まない。連絡の有無は単なる報告でしかない。信頼が無くなるかどうかの問題。
そもそもの話、物理的に距離が離れ過ぎていた場合、守護者から創造主への念話は届かない仕組みになっている。
創造主から守護者への念話は距離を必要としないのにだ。
つまり事前連絡、もしくは創造主ジュンがそう離れていない距離に居ることが必要になる。
このような面倒くさい仕組みになっているのは、極力秘技を使用させないためである。
敵を簡単に屠る能力でない者には、他にない特殊的な効果を持つ個性の強い能力で創っている。
傷を負えば、“半自動治癒”で治療できる。
万が一、絶命したとしても魂魄値の残量があれば、無意識下で魂魄が100利用され復活できる。
ジュンの与えた魂魄さえあれば負けることも無残な死を遂げることも、そうはない。
《勝つ》ということを目的とするなら別だが、要するに本来秘技は使用しなくて良い。
面倒くさい連絡事項があるのも、念話機能に制限があるのも使わせないため。
だが、全ての守護者が《勝ち》を放棄できるほど、従順ではない。
性格は皆違う。
とりわけ、式は負けず嫌い。
守護者の中では中堅クラスの強さというのもあった。
力は上位に張り合える程度だが、打ち勝てる能力を有していない。
自分の能力効果も分からない。
加えて頭も悪い。
但し、組織への貢献度や自身の立ち位置は本能的に理解していた。
また代わりが利く守護者を挙げれば、能力的に鑑みても式が一番となるは容易であったが、そのことを薄っすらと自覚していたまである。
そういった状況下に身を置いているために、《負け》だけは許されないのだ。
負けてしまえば、評価は下がる。他の守護者と差がつく。
ジュンの隣は自分こそが相応しいと、他の守護者と同じように思っているからこそ、絶対に負けられない。
何者にも打ち勝つ必要があるのだ。
忠犬が忠犬であるために。
「気分がいいぜ」
“限界突破”使用中は、基本的に全体の基本値が2倍以上に上昇する。
五感でさえも、それに該当する。
(確か……紅蓮や零はもっと上手く使えるんだったよな?)
強者ほど、秘技を上手く扱える。守護者の中で秘技を一番器用に扱えるのは翠。
(この感覚、久し振りだぜ。今なら誰にでも勝てるって感じだ)
赤黒い気配を纏いし獣が、鞘に収めた太刀に手を掛ける。
◇◆◇◆◇◆
───バギャンッ!!
「つっ………ッ」
防御で張った重力壁が両断される。衝撃で手の痺れを感じたルゥは鼻から血を流していた。
(もう限界が来たか……)
老いて活動時間は大幅に減った。大技の連発が負担になったのもある。
“写眼”という能力は使い手を強者と妄想させる毒だ。
他者が鍛錬で会得した技を一瞬で使えるようになるからだ。
新しい技は覚えられないが、技自体を見た経験がなくとも発動できるのはかなりの優れもの。
よって先ほど使ったのは、ニシミヤライトの技。
崩壊世界、我が君の掌、我が君の戯れ、我が君のいない世界、我が君のいる世界、我が君の怒りなど、全て8割に留まるが連発した。
倒しきれなかったのは耐久力が高かった所為もあるが、老化も1つの要因。
若ければ、もっと簡単に圧倒していた。
「ゴホオッ!」
回復方法がない以上、倒させねばならない。
それに───
(死ぬのは怖くない、だがこのままでは消化不良だ。老いて死ぬのは……あの御方のためにならない!)
今ここで戦わずして死ぬのは無意味。
であれば、意味ある死を望む。
血は、騒ぐ。
「一か八かだ」
取り出したのは1本の注射器。劇薬は錠剤が基本だが、これはより効力を高めた専用器。
───ドクンッ
脈が打ち、赤眼が開く。
「存分に死合おうぞ!犬っころオォォ!!」
◇◆◇◆◇◆
2つの赤が交差する。
戦場に響くのは斬撃と打撃の嵐────とはならない。
───ズガン!
ブシュゥっと、吹き出した血はルゥのもの。
重力壁を捻じ斬り、左腕を切断。
「オォォォォ、“崩壊世界”!!」
「ヌガアァァァ、“暴れ犬”!!」
上からの圧縮を下からの突き上げ斬りによって返す。
失われたのはまたもやルゥ、その右眼。
「まだまだ、終わらせんぞおぉ!!」
1本の劇薬程度では秘技効果を上回れない。そう理解したことで、追加の2本を首に打つ。
脈打つものは生ではない、死へと誘う。
「この程度で勝った気になっちゃあ困る」
「はん、意外としつけぇ爺さんだな──が、オレは嫌いじゃないぜ」
「ふん……名前くらいは聞いてやろう」
「オレか?式だ」
「シキか……悪くない」
「爺さんは何つぅんだ?」
「私は………」
「?」
「いや、何でもない。弱き者に言う必要もない」
「ムカァ!今どう見てもオレが勝ってんだろうが!」
───ドクンッ!
「あぁ………そうだな」
───ドクンッ!!
「言わばこれは………」
───ドクンッ!!!
「生前葬だ!!」
片腕無くしたルゥが選択した能力は“枝折り”。
武器破壊した後、首を口で掻っ切るものだったが───
───バチン!
ルゥの右手を弾いたのは、式の尻尾。
「なっ……」
「視えてるぜ!」
そのまま一回転した太刀の切っ先が───
───キュンッ!!
ルゥの首もとを捉える。
「ガッ………あぁ……いぃ……」
濡れた大地に倒れ行く身体。
式には何故か、その瞳が安らかに見えた。
「………うし!一件落着だな!!」
これは、“限界突破”を使用して数分の出来事である。
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