吠える
零が【六根の幹部と接敵する少し前、いつになく式は焦っていた。
「ぜぇ、はぁ……ちっくしょう」
肉体の強度と俊敏さ、体力と破壊力に自信を持っていただけに、苦戦な状況に追い込まれるのは精神が削られる。
「ちっ、あの野郎ムカつくぜ」
一緒に行動していた夢有は一時離脱と言う名の気絶状態。
身体も、元の幼女体型に戻り、近くにいる。
目覚めれば、いずれ“半自動治癒”が発動して復帰となるが、勝算の低い戦いに身を置けるかというと微妙。
であれば、まだ意識ある自分が、まとめて二人相手するのが妥当というのが、式の見解、もとい野生味ある直感なのだが、その式の身体も傷だらけだった。
このような状態にも拘らず“半自動治癒”を使わないのは、秘匿性が高いと認識できているからである。
ジュンの言い付けが守られているのは忠犬らしいと言えばらしい。
しかし、戦況は劣勢。普通に考えて全快してから臨ぶべきなのだが、たとえ全回復したとしても、倒せるかは判断に迷うために行動できていない。
知能の低い獣が、本能的に相手を難敵と捉えているということ。
あまり使わない知能とやらを、式はフル回転させているのだ。
(重くなるやつと、大きくなるやつと、折ってくるやつ──か、他にはないよな……?一番面倒なのは重くなるやつだ!急に変わるし、なんであっちはひょいひょいって動けるんだ?わけわかんねー)
古城の鍛錬場には重力負荷のかかっている部屋もあるが、あれほどの比ではない。
ましてや重力反転の経験もなかった。
軽くなった身体は勢いがつき過ぎて制御が効かない。
(重くなるやつは慣れりゃあいい、大きくなるやつは的がデカくなるから問題ねぇ、折ってくるやつは耐えりゃあいい……まだ行ける、まずはちっこい奴から倒すとするか)
弱い者を狩り、数的不利を覆す常套手段だったが、これは思わぬ方向へと向かう。
◇◆◇◆◇◆
「──キリク」
「はい、なんでしょう?」
「そろそろ終わりにするぞ」
「遂に、死ねるのですかあぁ!?」
「いや──」
(ギルテ様申し訳ございません、我々は華々しく散ることができそうにありません。敵は脆弱でした。今から征服王に突撃死するのは可能かもしれませんが、仕掛けを発動させる役のネル殿の気配があやふやとなっています。おそらく交戦中なのでしょう。ですが、死軍は残り半数を切る勢いです。花火を上げるに必要な生贄は多い方が良いと思います──ゆえに、あの犬っころ討伐後、私がスイッチを押し、死は次回へ持ち越しと致します)
遠くの崇拝する主へ、深謝を述べるルゥ。
その心内は部下キリクにはしっかりと伝わっているようで───
「ええぇ〜、ここで死ねないんですかあぁ?折角、兄の遺影を持ってきたのにぃ」
遺影とは名ばかりのキリクお手製の似顔絵は、兄ダリィとは似つかない。
なのに、ケラケラと笑う。
「それも次回だな、今度は色塗りをするといい」
「センス無いの知ってるのに酷いっすよ」
「ふん、知ったことか──始めるぞ」
「アイアイサー」
ルゥは、4つ目の能力を発動する。
自分が起爆装置を押し、キリクに戦わせるためだ。
4つ目の能力は、“運次第の貸与”。
3つある能力を第三者に貸し与える能力で、その割合は博打、まさに運次第。
その間ルゥは能力を使用できない悪条件付きだが、装置までの距離はそう遠くない、目と鼻の先。
「ルーレット・オン」
「何が出るかなぁ、どうなるかなぁ」
数字は1〜10、出た目は5。
「ふむ、まぁ行けるだろう」
“重力操作”、“巨大化”、“枝折り”、写し度数8割の更に半分、つまり4割しか使えないが、能力が複数あることには変わりない。
それに、キリク本人の能力もある。
兄の能力“異物看破”は半径10m以内の異物を発見次第消滅させるものだった。
力量の差によって消滅できないものもあったが、優れた能力だった。
反して、弟の能力は“異物突破”と言い、半径1m以内の異物に反応迎撃する能力。
兄には劣るようにも見えるが、物理系能力者とは相性が良く、今回はルゥの貸与もあるため、押し負けることは無い。
「くふ、ふはははハハハ!死んじゃえ、死んじゃえ死んじゃえぇ!!」
手負いの獣には丁度よいと判断したルゥの読みは的中していた。
◇◆◇◆◇◆
(なんでだ……)
弾かれる斬撃。
回避される拳。
空を切る爪や尻尾。
(よえー奴が、急に強くなった。しかも、さっきの奴と同じ能力使えんのはどういう理屈だ?)
考えはまとまらない。
その暇もない。
挙げ句の果てに、最初の一人は何処かへ行こうとしている。
(はあ?フザケンじゃねー、待てよ!まだ勝負は──ぐふぅっ……ッ)
「よそ見厳禁なんだよ、ワンワン」
「オレはワンワンじゃねー!式だ!!」
「ふーん、シキワンワン、俺はキリクって言うんだよ──ロシク」
「あ゙ぁん?大概にしろよ!てめぇの次はあいつだ!」
「この程度で苦戦してる奴がルゥ様に勝てるわけねーじゃんよ」
「苦戦してねぇよ!」
「証明してみろよ!」
「してやるよ!!」
打ち合いを止めた式は、今日初めて能力を発動する。
能力“全我全俺”の通常技の1つに倍返しがあるが、これは重力の壁で軽減された上、巨大化による防御増で効果無しとなった。
「はっはー、弱いんだよ!ワンワンは大人しく寝てろや!」
「ちぃ………ッ」
だが、“全我全俺”の真骨頂は別物。
本来の能力効果は、超強化。
「オラァ!!」
───バキンッ
「なっ………」
これは、肉体の向上を意味するものではない。
成りたい自分を想像し、その状態に成ることを意味する。
「ラアアァ!!」
───ガキンッ
───ピシッ
「まさか……」
どんな困難な状況も、いつかは踏破することができる。
式に出来ないことはない───というのがこの能力の魅力であり、力そのものなのだが、本人は能力効果を知らない。
永遠に知り得ない。
そういう風に創られているからだ。
「ハハッ、隙ありだぜ!」
───バリンッ、ザシュッ!
「つッ……急成長しているってのか!?」
だから、重力に慣れればいいと思える。
だから、自分よりも大きな身体に立ち向かえる。
だから、骨が折れても耐えようと考える。
壁を越えようとする限り、式の成長は止まらない。
───ズバンッ!
「対ありだ」
「グハッ………ッ」
勢いそのままに駆ける猛獣は次の獲物に追いつく。
「おい、はぁ待てよ、まだ勝負ついてねぇだろが!」
「これはこれは、キリクを破ってくるとは……どえらい気配の変わりようだ」
「オレにできねぇことはねぇーんだよ」
「素晴らしい素材であるのは実に羨ましい───が、舐めすぎている」
「あ……?」
瞬間、式の身体は硬直する。
「私がお前の猛りに気づいてなかったと?」
重力波の壁は用意されていた。
ここは鳥籠───
更には───
後方からの羽交い締め。
「な!?テメェ、生きてたのかよ!?」
「おにぃ……の、かげだ……」
「オイ、離せ!」
4割効果だったものが一気に8割と戻れば、順応は難しい。
「キリク」
「俺ごと、ヤッちゃってください!!」
「良いだろう、華やかに死ね。お前の死は尊い」
「ありがとうございます!」
「ヌガアァァ!」
身動きとれない式が被るのは、重力と内部破壊の連続。
大技の連発。
ミシッという音が絶え間なく続く。
骨が折れているのか、空間が割れているのか、最早分からない。
理解っていることは、キリクがぐしゃぐしゃになったこと、それと溢れんばかりの血が大地を流れていることくらい。
「ガフッ………」
血は身体の至る所から吹き出ている。片膝付いても尚、意識あるのは奇跡としか言いようがない。
「しぶとい──が次で終わりだ」
(ヤバい!!無理だ、立ってられねぇ)
意識が遠のくのを実感した。
(もう使うしかねぇ!!)
言い付けを破るのは忍びなかったが負けるよりは断然いい。
「何?回復だと!?」
「おうよ!これで振り出しだな!」
しかし、傷は治ったが精神は困憊状態、要するに治ってない。
精神治療を拒んだのは、回復に魂魄を使うよりも、攻撃に使って倒した方がいいと判断したからだ。
今のままでは、現状を打破する友好的な攻撃手段はない。
8割への適応はまだ先であり、時間をかけるよりは一瞬の勝負に懸けることを決めたのだ。
(確か、これ使う時は……はぁ、えと主に伝えないとだな………どうすんだっけ??)
疲れがピークを迎え、思考は止まりつつある。
(めっせーじ………どうやるんだ?)
覚えが悪いと裏目に出る。
(伝わればいいか、オレが得意なのは……やっぱコレだな)
遠吠え───とまではいかないが、大声で式は叫んだ。
「主……ふぅ、使うぞ。オレは使うぞおぉーー!!」
無論、分散する声が届くはずも無い。
だが、気配は変わる。
異様に変わる。
誰の眼にもはっきりと、それが視える。
「今度は何だ?」
纏わりつく気配が赤黒く変化する。
ビリビリと大気も揺れる。
「あ……りえ、ん」
式の筋力が攻撃力が防御力が速度が2倍以上に増幅する。
「限界突破」
数分間の荒技、魂魄を全使用しての秘技。
使用後は数秒無防備となるが、戦況を覆す大きな一手。
「アアアァァァ!!オレは負けねぇ!!第3ラウンド行くぞオラァ!!」
赤き獣が咆哮する。
作品を読んでいただきありがとうございます。
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