スーパーメイド
零はスーパーメイドの座に君臨している。
普段の家事・洗濯は勿論のこと、ジュンの執務における業務補助、ならびに管理業務、各国への通達など多岐に渡る。
明確な呼称は無いが、守護者たちのまとめ役を担う存在だ。
これらは創造された順番が最初であるのも大いに起因している。
万能型であり、出来ないことの方が少ない───というのが全員の共通認識。
(さて──)
能力者としての器も高い。武器の鋼糸は鋭く、伸縮自在、自分の身体のように柔軟に動かすことができる。時には盾となり、時には剣となる。一本一本は微小に振動しており、触れたものを斬り刻む。防ぐも避けるも簡単にはできない仕様だ。
(かなり減ってきましたね)
長距離跳躍も何のその。軽快に戦場を舞う姿は蝶の様。
加えて、性格が他人に対して冷たいのは戦場に於いては功を奏しており、死体の山を築き上げても何とも思っていない。
今回の相手が死軍なのもあるためか、いつも以上に冷ややか、民の風体をしていても慈悲はない。
(そろそろでしょうか)
たがこれまで、戦闘時に能力を使用したことはない。
“次元殺法”が必殺技に近い要素を含むのもあるが、強い相手に恵まれないというのもあった。
全て雑魚処理。
非能力者狩りが殆ど。
敵対の能力者を相手するのは他の守護者ばかり。
仲間が増えたことで日々の業務分散は叶ったが、戦いの見せ場は未だ来ず。
でも、それで良いと本人は思っている。
影の立役者・苦労人と呼ばれてもいい。
零の本分はジュンの隣にいること。容姿性別が変わってもだ。
想いが伝わっているかは定かではないが、少なくとも零は現状を憂いていない。
寧ろ、悦びが勝る。
創造主を背に乗せて運ぶなど、他の誰もができる所業ではないからだ。
密着するほどに、傍にお仕えしていることを実感できる。
(ジュン様、見ていて下さい。この私が全て倒して見せます)
蝶は、より華麗に舞う。
◇◆◇◆◇◆
零の背に乗っているジュンは依然としてスーハーしていた。
黒の捕食者による攻撃補助は抜け目ないが、本人の欲求も貪欲で、メイド服に顔を埋め香りを嗅いでいた。
(ああぁいいぃ……サイコー)
惜しむらくは雨。
鋼糸が傘のような役割も担っているため、全く濡れていないのだ。
これでは、下着が透けるなんてことは夢のまた夢。
(運が悪いわね──っと?)
もう暫くこの時間を堪能したい所だったが、零の足が止まる。
「ジュン様」
「おいでなすったようね」
現れたのは、【六根】の幹部。
死軍同様に殺戮集団もミンチにしていたことで、漸く幹部のお出まし。
「我らの同胞の仇、取らせてもらう」
「サブロー、注意した方がいいわ。あの糸は少々厄介よ」
「知っている。フタバの方こそ、もう一つの触手に気をつけるべきだ」
「確かにあれはグロい。征服王も私たちと何ら変わらない。ただの殺人鬼ね」
「サブロー、フタバ、お喋りはその辺に───行くぞ!」
「了解!イチレンのあとに続くわ」
「十分に動きは理解した!我らの勝利は揺るぎな──」
───ズババンッ!!
「い……エッ……?」
首をチョンパされたのに喋れるのは、死を把握していないから───
───ドシュッ!!
「つっ……あっ?」
予想が簡単に覆ると誰もが反応を鈍らせる。
(うわっ……一瞬ね)
ドサッと崩れ落ちる2体。サブローは死軍と同じようにバラバラに、フタバは槍状の糸で心臓を貫かれた。
「ひっ……フタバ!サブロー!!」
「どうして動きが理解できたなどと吠えることができたのでしょう?私の初速がこの程度と思った報いですね」
「あ……あの、お助け………」
「何故?」
「あっ、あぁ……アアアァァァ!!」
無我夢中に突っ込んでくる輩には、剣状にした糸で一刀両断。
「アバッ………」
「弱い」
(零が強すぎるのよ───って、え?)
「ちょっと!?」
「どうかしましたか、ジュン様?」
「違うわ!零じゃなくて、これは、えと……式!」
「………死んだのですか?」
「それも違う!魂が、魂魄値が少なくなってたのは知ってたけど、まさか勝手に使うなんて………」
「え!?それはもしや、アレですか?」
「そう、ね。まぁ切羽詰まってたんでしょうけど、アレを使う時は連絡寄越すよう決めてたのに………」
(余程の距離の場合は連絡できないけど……)
「少し離れてますが、この距離なら念話は届きますから、これは完全に式の失態ですね。あとで灸を据えておきます」
「う、うん、よろしく……お願いするわ」
死軍を壊滅させるため、助太刀には行けない。
否、行ってもいいのだが、最早手遅れ。
アレを無断で使った以上は、勝ってもらわなければ困る。
ジュンの目線の先は、激しい魂と力のぶつかり合いで空間が揺らめいていた。
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