第一次侵攻
古城内には皆が一同に集まる場所がいくつかある。
その1つ大広間に、主を含め守護者達が集まっている。
艶のある机と豪華な椅子に座るのはジュン1人、その横に零が立ち、他の守護者はジュンを囲むよう前方に立つ。
大人数を収容できる広さであるが、現状は有り余っており、ジュンの声を届かせる意味合いもあって近くに来てもらっている。寡黙な男を演じているがために声を張り上げることができないのだ。
但し守護者も、全員が集まっているわけではない。
「世理と翠を除いた8名、全員集合しました」
報告担当は零。
世理は観測のため、翠は鍛錬のため。翠の場合、招集に応じない理由としては些か弱いが、それは予め了承を得ている。
特別待遇というやつだ。
守護者最強の称号に近い者が、表に簡単に出てくる必要はない。
報告を受けたジュンは、一度頷き話を進めさせる。
今日の本題は世界征服のための作戦会議。その足掛かりと言うべきか、紅蓮の独断専行による影響も含めた話し合いをする。
「この世界には12の国々がございます。大国9・小国3、それともう1つ、どこの国にも支配されていない無人の地域がございます。先日、紅蓮が赴いたのは“小国レジデント”、島国で表向きは漁業が盛んな国ということでしたが、実際は医学分野の技術発展が目覚ましい国というのが最近の調査で分かったことです。私達にとっては、不要な追加情報となりましたが、一応お伝えしております。この国との詳しい契約云々は今後また提案書をお持ちします」
(ふ〜ん、なるほどねぇ。それよりもどこの国にも属さない地域って、元の世界でいうところの南極圏みたいな所かしら?)
ジュンが話に割って入って来ない場合、続きを話すことの了承と捉えている零は、机の上に地図を広げる。
「私達が現在住んでいる街は“レムハ”と言います。ここは、“バルブメント王国”の領土内で西部の端に位置します。“西部都市シークス”と“南部都市カイーシャ”からはすでに軍が派遣されており、近くにまで迫っています。北も場合によっては侵攻するという情報もございます」
(!!??初耳が過ぎるんですけどおぉ!!どういうことよそれ!?私の認知しないところで害悪認定されてるってことよね??軍を派遣って早すぎない??)
「軍つっても、ザコの寄せ集めだろ?オレらならワンパンで仕留められるだろ」
「世理の報告でも、この国の強者──つまり能力者は各都市に数人と中央にしかいないと聞いている。他の国に比べても圧倒的に突出した能力者は少ない。大人数を派遣するのも昔ながらの戦争が抜けきれていないからかもな」
「同感、ちゃちゃっと終わらせましょ」
紅蓮の言う能力者は世界に多数存在する。
その殆どがF〜Cの低ランク、Bでも有名人扱いされ、B以上で国に属していれば優遇されるとの噂。現在派遣されている軍の中には低ランクの者もいれば、ランク外の一般人もいる。
もしかすれば全員が一般人である可能性だってある。それを撃滅させることは悪虐非道にならないかと思ってしまうが、論点はそこではない。
ジュンが聞きたいのは行為の善悪ではない。
何故そこまで侵攻されているか、軍を派遣される状態になっているかだ。
(まだ宣戦布告ってしてないよね…?寝ている隙に誰かが私の拇印押させたとか?そうなると、どうしようもないよね。私が意識下で押すのって婚姻届だけだもの。戦争関連の重要な書類にサインって女子高生の私ができるはずないって…)
ゆえに問うしかない。
聞かぬは恥。
知らないままでは話を進めようがない。
「何故、ここまで侵攻を……?」
「申し訳ございません!!管理不足でございました!何卒、私に罰をお与えください!」
他の守護者も一同に土下座する。
美女達が主人に対して頭を垂れる様は、胸元が見えることもあり、早乙女純としてはある意味オッホウ!!な光景だが、いま考えるべき事案ではない。
今は土下座の意味に気づく必要がある。
少し考え辿り着いたのは、先程の質問が、“ここまで侵攻を許したのはどうしてか理由を述べよ”という風にも捉えられるということ。
今日は、組織の今後における重要な会議をしているのだ。
全員が真剣な眼差しをしているため、言葉はいつも以上に慎重に選ばなければならない、でないとまた二の舞を演じる結果となる。
(おっぱい……は見納めね。でも何て言うべきかしら?回りくどく言うとまた変な雰囲気になっちゃいそうだし、まぁ眼福だからもう一度くらいはありなんだろうけど、ん~~どうしよう)
「……そうではない」
「と、申しますと?」
(察してえぇ〜、頭脳トップ3の零ちゃんなら分かるでしょう?もしかしてそういうプレイを所望してるってこと!?やっぱり読心術会得してるでしょ!)
「奴らは何故進軍すると思う?」
『どうして〜』、『何故〜』とだけで伝えると無知をさらけ出す恐れがある。恰も把握している感を演出するために、どう思うかを相手に答えさせるのは非常に効率の良い一手。
無駄な会話も避けることもでき、一石二鳥。
「脅威と思っているからでしょう。小国レジデントを1日で落とすだけに留まらず、各国に宣戦布告を意味する文を送りつける手腕、対応力や判断力に、この国の王は恐れを為しているのです」
「ふ、み?」
「はい、あっ…そういえば、ジュン様に組織のロゴをチェックしてもらってなかったですね。申し訳ございません。こちらがロゴと一緒に送りつけた文でございます」
(ふむふむ、へぇー、丸円の中に大きくSの文字に色も付けちゃって格好いいわね。円の端には左右に伸びている線もあるから見方を変えると瞳のようにも見える。センスのあるロゴねーー…ってちっがああぁーううぅ!!そっちじゃない!!勝手に征服宣言しちゃってるじゃない!!もう確信犯よ!零は確信犯決定!)
「如何でしたでしょうか?」
「あ……うむ、悪くない」
「良かったです。不採用の場合、宣言状も書き直しかとビクビクしておりました」
「……」
(世理の事象改変使っちゃダメかしら?いや、ダメね。他者への干渉対象になるから年2回の内1つをここで使うのは勿体ない──とすると、征服宣言してる以上は迎え撃つしかないのかしら…?この世界について、まだ未知数なことが多いから後手後手なのよねー。まぁ、任せたのは私だし、仕方ないけど、まだ何とかなるはず。皆には、深追いし過ぎないよう、平和的解決も視野に入れるよう伝えておかないとね)
西部軍、南部軍、北部軍への対応と古城の守り手役を順に決めていく。
主が現場に赴かないで平和的解決が可能なのか。
誰一人として絶対悪に創造していないこともあり、ジュンは非常に楽観視をしている。だが現実はそう甘くなく、事態は思わない方向へと進んでいく。
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