ゴロウ&シギン VS ヤン&ミズキ&紅蓮
ヤンとミズキが交戦していたのは、【六根】のシギン。
「おおっとぉ!危ない危ない」
ヤンが主力的に戦い、ミズキが補助という形も、見慣れない大手裏剣に手間取っている。
「ふむふむ、なるほど。今増えたのは、あんたの能力ってわけかい?」
「………」
「ヤン……手の内言う人なんていないと思いますよ」
「それもそうだね、黙秘上等だよ──“砂の飛刀”」
ヒュイッと、シギンは避ける。
等身大の武器を持ちながら、身のこなしは軽やか。
「やるねぇ」
ヤンの実力ならシギンと対等に渡り合える───寧ろ、その上を行くはずなのに補助を必要とするのは、死軍が群がるから。
「“水流波”!」
「よっ、ほっ、とっ……」
「ヤン、呆けないで下さい。援護にも限界がありますよ」
「分かってるって」
死軍が襲うのは生者だ。狙われるヤンとミズキ、統率がある程度取れているため、シギンは狙われない。
「“三重の首取り手裏剣”」
「うわっ、3つに増えた!ミズキ退避だよ!」
「急に押さないで下さい」
ギュンッと迫りくる手裏剣、追尾してくるのは更に厄介。
「これならどうだ──あっ……」
退避したと見せかけて、シギンに近寄り手裏剣を当てるという誰でも考えれそうな作戦は、案の定空振りとなる。
「読まれてましたね」
「いい作戦と思ったんだけどな」
「………“四重の首取り手裏剣”」
「いっ!まだ増えるの!?」
回避はそう難しくないが追尾は面倒。距離を離しても弾いても追ってくる。
「あの武器が能力か……増やすのが能力か……」
「どっちでも良くないですか?」
「大アリだよ!あたしは、こう見えて智将だからね」
「へぇ、そう……」
「ちょっとミズキ!身内なんだから、頷いてくれてもいいじゃないか!」
「あっ、はい」
「“五重の首取り手裏剣”」
「というかさぁ、もっとミズキも大技連発してくれていいんだよ?」
「私はそんな……来てます!」
「いやさぁ、あたしってさぁ、ほら……」
───ズバンッ!!
ヤンの胴体は真っ二つになる───
手足も首も斬れる───
そう思ったのは一人だけ、シギンのみ───
「!?」
「智将って言ったばかりだよ」
近距離の“砂の飛刀”は見事に当たる。
「な……ぜ……?」
「砂嵐に囲まれてたのは気づいてなかったようだね」
シギンが斬ったのは、砂と水で作り上げた造形、偽物、まやかし。
「砂の魔物に謀れたって思ってくれていいよ──あぁ、もう気絶しちゃってるか」
「……どうします、それ?」
「さぁ、あたしらに権限はないからね。それにしても、これで面目は立ったかな」
「ですね、紅蓮様は戦いを高みの見物するって言ってましたから、十分な評価はもらえたんじゃないですか?」
「でも、その紅蓮の方に一人行っちゃたんだけど大丈夫と思う?」
「私たちより強い御方ですよ!」
「そうじゃないよ、向かわせたことを怒らないかって話さ」
「あぁ、そういう……」
「まっ、これは神頼みだね。敵さんの命も……」
「それは無理じゃないですか?」
「………かも」
〘 勝者 ヤン&ミズキ 〙
◇◆◇◆◇◆
シギンと別れたゴロウは焦っていた。無口なシギンが何か言いかけた事をちゃんと聞くべきだったと後悔しているまである。
「くっそ……なんでこんなことに……」
殺戮集団とは殺しの専門家で間違いない。所属している者は全員、それなりの意識もってやっている。
矜持があるから、勝負を放棄しないのではない。
抜け出せないのだ。
(何なのだ、ここは……?)
急に別空間へと転送された───そう思うのは、先ほどまでとは違う景色だからだ。
加えて暑い、物凄く熱い。立ってるだけで皮膚が焼けるようだ。
逃げれるなら逃げたい、謝って済むなら土下座したい───なのに、許しを請える状況下でもない。
(どうすればいい?)
確かに、1対1の勝負を申し込んだのはゴロウだ。
逃げるように後ろへ下がろうとする獲物を弱者と決め込んだのもゴロウ本人だ。
だが、ここまでの強さとは考えてなかった。
(長クラス……いや、ギルテ殿と同等?)
犇々と感じるのは熱量だけではない、恐怖だ。
寒くないのに、感じてしまうほどの悪寒。
とりわけ、この空間についても意味が分からない。構造も、範囲も、効果も。
空中に浮かぶ、紅蓮とやらの敵に問うかどうかも不明。
言葉を誤れば即死刑執行なまでの気配すらある。
「この空間は、私のみが使用できる固有領域だ」
(結界みたいなものか!)
「本来、これは侮れない相手に対して使用するのが効果的だが、貴様は……はんっ、雑魚だから使用するまでも無いのだが、こうも有象無象が多いと集中しにくいからな」
「ぐぬ……」
(鼻で笑いやがって)
「私が全て焼き払うのは簡単だ──が、それではヤンやミズキのためにならない。それに、誰が観ているとも限らない戦場だ。空間を一時的に切り離すのは当然だろう?」
「ちっ……」
(完璧が過ぎる。大声上げても、技を出しても、誰にも気付かれないなんてあんまりじゃないか!)
「さてと、そろそろ終わりにしようか。先ほど放った豆鉄砲のような技以外になにかあるか?」
(クソッタレ!!だが、自在に空中闊歩する相手に俺の技は意味ないか、ならば一か八か、どげ──)
「”火山流星群”」
「え?」
無数の火山弾がゴロウを襲った。
「アッツ、あっつ、圧痛、アバババッ……」
「そういえば伝え忘れたが、空間内の攻撃は必ず当たる」
逃げる余地無し。
「展開中は、魂魄値の消費が激しいが、まぁこのくらいは無問題だろう。業火に焼かれて死ぬがいい」
肉片飛び散り、跡形は無い。
【六根】のゴロウは誰にも看取られることなく絶命する。
〘 勝者 紅蓮 〙
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