各地の情勢③ 商国・帝国編
商国で、シズクが五連星ライジンに襲われ、滅多刺しに何回も何回も殺されているのを知る者はいない。
ライジンの気が一ヶ所に向いていたのもあるが、一人残り、身を挺しているシズクの甲斐もある。
護衛という任務をそのままに守っていたら、フィを含めた城の者は、雷に触れただけで命落としていたに違いない。
助かる見込み無い者達と一緒に行動しなかった判断は間違いでなかった。
シズクは立派に仕事を全うした。
結果、痛みを知る者はいない───いや居る。
城の者ではない外部。
そう、“有実の誓約”使用者。
守護者の陰牢は、商国の事態を遠く離れた帝国の地で感知していた。
────ズキン!!
「ガフッッ………」
「えっ?」
「なっ、大丈夫ですか!??」
帝王ドラゴが去った後の出来事。
館には、陰牢と紫燕それとルドルフしかいない。
「ゲホッ……コホッ」
指や手足、身体の至る所は斬り刻まれる。焼け、爛れたりと効果は様々。
“有実の誓約”の代償は絶え間なく続く。
「ぐっ……いッツウゥ……」
滴る血は終わる気配なく、仕舞いには膝をつく陰牢。心配する紫燕には、近寄らないよう手で制止。
「大丈……夫だから……ッ」
「そんな事ないですよ!!」
血が噴き出す度に“半自動治癒”が発動するものの、このままではその魂魄でさえも無くなる勢い。
(痛いっわね、もうっ)
創造主ジュンより与えられた魂魄値は守護者によって違う。
陰牢は標準の500。
以前、商国でカイとやりあった時、その内の50を減らし、450という数値を保ってきた。
(彼女が死を繰り返すとはね……相手はっ!!………それだけの手練れ、ということね……)
自身の残量は目視でき、魂魄値は残り300を切る。
(彼女が死ぬ度に“半自動治癒”は別にいい、数値は………10ずつ減ってるわね。つまり45回死んでもらって大丈夫なわけだけど、すでに15回分失ってるわ。残り30で足りるかしらね……?)
痛みは慣れる。拷問官なら余裕。
(ふふ、久し振りの痛み……ツゥ!!悪くないわ)
悪女根性は見事だが、数値はみるみる減っていく。
魂魄が0になってしまえば、普通の能力者と変わらない。生身で耐え抜くしかない。
(さて、あと10回分。おそらくジュン様には……気付かれてるわね。紫燕が減ってないから、“有実の誓約”の代償なのは理解されてるはず、連絡して来ないのが証拠……ね)
念話は無い、つまり救援も無い。
(寧ろ、それくらいがいい!根性論も無限の体力も精神も無いけど耐えてみせるわ!)
枷は重いが、死ぬつもりは毛頭ない。
商国までの転移術があれば、別の方法があったかもしれないが、それができるのは創造主だけ。
この距離では守護者の脚力をもってしても、到着時には事が終わり、元凶には会えない。
「ふうぅ!!」
血管が一つブチッと切れる。想像以上の痛みだが、快楽者は笑みを見せる。
紫燕もその姿を応援するしかなかった。
結局代償が止んだのは、シズクが50回分の死を経験してから───魂魄値は0になり、5回分の代償を回復無しに受ける。
宣言通り耐え抜いた───が、損傷を酷い。
館内の救急道具で応急処置し、事なきを得るが、流石に気絶する。
外野のルドルフは責任を感じ、いつもの如く失禁しそうになるほど、汗ダラダラだった。
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