各地の情勢③ 東部基地編
ユージーンはアリサの心情を知っている。落ち込んでいた理由も、今奮起している理由も。
だがそれは、歯痒い。
早々に切り替え、他を探す行為に走れば楽であるのに、諦め切れてない。
(2番手に落ち着くのは癪だけど……)
『僕ならそんな思いさせない』、などの常套句は言えない。格好いい台詞は今じゃない。
(揺らいでる間は、あしらわれる気がするんだよね)
それを理由に眼中に無くなれば、元も子もない。
言葉選びは至極当然。
(僕も、今はこの戦いに集中しないと──ね!)
「持続する剣」
活躍が続けば、信頼は重なる。
いつも隣にいると理解ってもらえる。
「──悪いけど、君にはその糧になってもらう」
「五月蝿い!姉さんの仇!!」
「双剣斬撃」
───ザンッ!!
「なっ……にぃ!?」
倒れ行く鳥人間。イリムの再度の捕縛に成功する。
「弱いと思ったかい?僕だって成長してるんだよ」
(父さんには追いつけないけ……ど───っと、次なる敵は彼か……厄介だな)
化け物に超変異した個体は、並の兵士を圧倒している。薬の重複効果であることは確認済みでも、倒せるかは別。
(ふぅ。能力のおかげで体力に余力はあるんだけど、僕のパワーであの巨体を崩せるかどうか……)
肉に剣が入るか、斬り切れるかという問題。
人間から化け物へと姿形を変えたクルシュアという存在は、今のユージーンにとって脅威でしかない。
(こんな時に父さんか居て──いや、甘えちゃダメだ。格好いい所、魅せないと!アリサは僕を、見てくれないっ!)
化け物の爪と剣とが交わる。
力負けすると思われた剣は折り重なる。
敵の攻撃を受け止められたのは、もう一つの剣。
同じ双剣。
「父さ……ん??」
「違う、ウチ」
加勢に来たのは、ユージーンの義妹エリカ。
「エリカぁ??どうして!父さんは??」
「本国に残ってる。ここに来たのはウチと護衛兵だけ」
(はは……本当に凄いや……)
化け物の攻撃は弱まる。
少し、退化したようにも見える。
(この可能性を読んでいたとしたら……いいや、これこそ国を治めるに必要ってことだよね。父さん、ありがとう、僕はまた一つ勉強したよ)
“解呪する剣”は、エリカの能力。
剣で斬った相手の呪いを解く力。今回は、呪いではないために退化という判定に留まるも、攻略の術は成る。
「行くよ、エリカ」
「うん」
後は息を合わせるだけ───
「「双剣斬撃!!」」
───ザザンッ!!!
「ギュアオエェェェ!!」
悲鳴か、雄叫びか、判別つかない鳴き声を発した化け物は倒れる。
ここに、ユージーンの勝負は決する。
あとは────
敵首魁と戦う本隊のみ。
◇◆◇◆◇◆
アリサは東部軍を指揮する。ノートンは反乱軍を指揮する。両軍の指揮官は兵士を鼓舞する。
声が絶えないのは、勢いある証。
だがアリサは回復行動ができる、そこに明確な差が生まれる……はず、なのに───
(敵の侵攻が衰えないのは何故でしょうか?)
ユージーンが敵の主力を倒した一報は届いている。エリカの加勢も視認している。
(まだ化け物になれる人がいる……とか?)
見落としが何かは分からないが、心配する兵士も出る始末。
「軍隊長も、敵勢力が衰えないのを危惧しているので?」
声を掛けてきたのは先ほどの伝令。
「──そうですね」
「心配は無用ですよ。我々の方が兵力は上です。仲間には私の方からも伝えておきます」
「宜しくお願いします」
「そういえば軍隊長、もう一つお耳に入れてほしいことが……」
「ん?ちょっと待ってください」
そこで、アリサは気づいた。
「あなた……今とさっき、軍隊長って言いましたか?」
アリサは軍の指揮官であり、軍隊長という階級に間違いはない。正式には、東部・南部軍大隊長という称号になり、伝令の言うように軍隊長という言い方に問題があるわけでもない。
しかし、アリサはその堅苦しい称号を煩わしく思っている。
だから誰も、正式名称では呼ばない。
兵士も上司にも、自分の名で呼んでほしいと伝えているからだ。
つまり、この伝令は命令違反。足並み揃う軍には異物。
「はっ、そうかい。バレちまったら仕方ねぇ──な!」
「いつっ………」
心臓部に襲いかかる刃物を完全に避け切れなかったのは、後衛専門だから。致命傷ではないが傷は深く、白い服が赤く染まる。呼吸もきつい。
「俺の変身を見破ったのは流石だが、も少し周りを見ろよ」
護衛兵がいないのは、ノートンが何らかの手を打ったからだ。
ただ戦闘音が無いため、倒したとは考えにくい。
(内密の話をするから、とでも言ったんですかね)
「お前が、自分は回復できない、よわよわヒーラーってのは知ってる。情報は戦いにおいて重要だぞ」
「……ですね」
「恨むなら自分の不出来を呪え」
首を狙う一撃───
「何だと!?」
それをアリサが避け切れたのは、回復しているから。
「甘いですね、情報が古いですよ。戦いにおける情報の有能性って知ってますか?」
「糞が!うるせぇんだよ!!」
突きを払えたのは、訓練の成果。
「私も、いつまでも後衛支援ばかりじゃダメなんです」
「うるせぇアマ!死ねっ!!」
「今まで通りじゃダメ、変わらなきゃいけないんです!」
渾身の打撃がノートンの顎に入る。
「ぐはっ……」
「だから、乙女のパンチ味わってください!私はまだ失恋なんてしていませんから!!」
「知らね──ゴホッ!」
回復と打撃。殴った痛みは回復で取り除く。
「ちょっ、やめ……やめて……」
「やめません!!諦めません!!私の恋は成就させるんです!!」
この場に、他の兵士がいなかったのは正解だったかもしれない。
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