各地の情勢①
ジュンが至福に浸っていた頃、各地の情勢も慌ただしくなる。
衝突は4ヶ所にも達する。
だかしかし、全て国の代表者を狙ったものではない。狙いはジュン、征服王関連。組織【S】もしくはその一派の力を削ぐという目的でもあれば、ネルフェールで起きている戦いに介入させない意味もあった。
狙われた1つは、ルクツレムハ征服国東部基地。ここには、アリサとユージーン率いる軍が駐留している。普段は南部に滞在するアリサが、早馬走らせてまで東部基地に出向いたのには理由がある。
昨夜未明、取り調べで幽閉していたイリムが姿を消したからだ。門番を倒したのは、赤眼の劇薬を服用した者複数人。立ち去る際に言い残したのは、東部基地襲撃という言葉。
失態と宣戦布告。
本来であれば、直属の上司グラウスに報告後、管理者の零に伝達する流れだが、アリサはそれをしなかった。
真面目な彼女がだ。
いずれ、グラウスや零の耳に入るのは百も承知であるのに、報告を怠ったのはアリサの情緒が不安定だったから。
起因するのは、ジュンの幼女化。
規定通りに職務を遂行しても、還元される評価が以前のものとは異なり、自身の望む未来を築くものにならないのではと思ってしまっているのだ。努力の必要性に不信感を抱いているという感じ。
結果、報告を放棄───正しく言えば躊躇う時間が長く報告する暇がなかった。更にはジュンたちが、お茶会への参加で不在にすることも聞いており、対応が後手に回っているのだ。
(はあぁぁ、私何してるんだろう?)
選択を間違えているのは理解している───が、もう後戻りはできない。襲撃が有るにしろ無いにしろ、評価は下がる。だからというわけではないが、襲撃される未来を望む。その方が、このどうにもならない気持ちをぶつけられる。
「すううぅぅぅ、はああぁぁぁ……」
(落ち着いて……)
「大丈夫?」
(………)
「ふうぅぅ……」
ユージーンを無視してるのではない。
精神を統一させている感覚に近い。
そうさせるのは───
『敵襲!!』
敵が現れると察知したから。
「つっ……アリサ!」
「うん!」
(今は忘れる!職務を全うするの!)
「全隊──迎撃開始!」
東部基地を襲撃しにやって来たのは、宣言通りにイリムたち。
またもや、この地に戦いが迷い込む。
◇◆◇◆◇◆
2ヶ所目は本拠地古城、ジュンの居。襲撃とは名ばかりの1人突撃。敵を感知したのは世理だが、個人で戦えない以上は他の守り手に出撃してもらう。
物理的な距離が近ければ、守護者間でも念話が使える。
『障壁を突破されました。唯壊か籠畏、どちらか対処頼みます』
『──そんなに強い気は感じないけど?』
古城の障壁は、ジュンが許可した者以外は通過できない仕組みになっている。だがこれは無事にという意味を含む。強引に抗い痛みを伴えば通れなくもない───がしかし、変人ですら心折れるくらいである。
『障壁攻撃に知識ある者か我慢強い者である可能性はあります。いずれにしろ、まだ城内に入ってはいませんが、時間の問題でしょう』
『敵の詳細は?』
『1人……今現在、ジュン様が闘っている一味、【六根】と呼ばれる集団の服装と酷似しています』
『!?』
『はぁ?お茶会じゃなかったの?』
『何かの理由で頓挫した、もしくは仕組まれていたかでしょう』
『ジャン負けして問題なかった』
『うっっさいわね、それはもぅいぃでしょ!』
世界観測では、詳しい内容までは把握できない。
それに、世理が【六根】を知っているのは、数分前に創造主であるジュン本人から念話を受信したからである。
創造主からは、襲撃されたこと、複数の勢力と闘っていること、敵の姿を聞かされている。こちらまで連絡が入ったのは突発的な戦闘だったからだ。他地域でも起きている可能性を考慮して伝えられたのだ。
『その結果は?』
『幾つかの国で起きているとしか、現状は言えません』
『そっ、まぁ唯壊はやんないから。籠畏、あんたがやりなさいよね』
『分かってる、さっき決めたこと』
『あんたの能力面白そうだから見ててあげるわよ』
『うん、どうぞ』
城に紛れ込んだ敵と相対するのは籠畏。
これより、盤上試合が開始される。
◇◆◇◆◇◆
狙われた3ヶ所目は、共和国の温泉屋敷。最近言い争いとなった土地問題を持ち込んだ提唱者たちが、今度は武器を持って殴り込んできたのだ。客がいない時間だったのは幸運だった。万が一にも、怪我人でもいたら風評被害は免れない。困るのは経営しているスズやムギだけではない。管理者となった月華もだ。
「ちょっと君たち、筋違いじゃない?」
「ぁ゙ぁん、やんのか?」
十数人相手するぐらい簡単ではあったが、それすらも風評被害になるのではと、管理者に成り立ての月華は迷う。
「ええどすよ」
それを後押ししたのは女将スズ、それに───
「見てみぃ、赤眼やで」
「わっ、ホントだ」
「ここは共同戦線しまひょか」
「了解!背中は預けたよ」
武術家同士、意気合う二人。
◇◆◇◆◇◆
4ヶ所目は商国。城内にいるのはシズクとフィに新人メイド3人、それと普段通りに職務を熟すルドルフの兄ルドロブなど数十人の城勤めの者達。
ここにルドルフは居ない。帝王ドラゴど密会するため、陰牢たちと一緒に出掛けているからだ。
侵入───もとい、修復した天井を破壊してやってきた敵に、いち早く気づいたのは仕事人であり、城唯一の守り手であるシズク。
(やばいやばいやばいやばい)
感情を余り表に出さないシズクが恐怖心を露わにするのは、眼前の侵入者に勝ち目薄と感じているからだ。それくらいに鳥肌が立っている。
(くっ、せめてフィ様や皆だけでも──)
だが幸いにも、侵入者の狙いが自分だと気づく。
(フィ様たちへの攻撃はない?)
逃げる者を追おうとせず、シズクを呆然と観ている。
(分からない、今は時間を稼ぐだけを考える……でも、たぶん無理かも……)
侵入者は異様な面をしている。それこそ、獣に近い形。そして、絶えずゴロゴロと鳴るのは侵入者から発する音。
帯電──雷を纏う能力者。
「目的は何だ?」
「変な紋様が視えた気がしたが、気の所為か?」
(紋様?何のこと?もしかして、私の首元の……?)
「まぁいいや、久し振りにこっちの世界に来たんだ。少しは楽しませてくれよ」
「ちっ……」
雨が止もうとしていた地に、再び雷鳴が轟く。
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