写眼
“写眼”とは、四隊長の一人、ルゥの能力。
凶弾に倒れた姪のユルグが有した“写倒”とは破格の違いがある。
ユルグの場合は敵を己が手で倒す必要があったが、ルゥは能力者を眼で見れば良く、1つしか持てないユルグと違って、ルゥは4つの能力を保持できる。
能力者が能力を発動しなければ観る対象に含まれないが、保持する能力はいつでも変更を可能とするなど、上位互換が過ぎている。
また写した能力の威力は8割程度に留まるが、常に4つの能力を保持しているルゥは、かなりの強者であり脅威。
ランクがSS判定にならないのは、純粋な老いだ。ルゥの年齢は70に近い。全盛期でない今は長時間と戦えない。圧倒的な力を見せつける場は、ギルテの部下となった時点でなくなった。強者は他にも多くいたからだ。マコトもカイもシンも強く、ルゥより若い。各々の部下もやり手だった。
ゆえにルゥは牙を研ぐのみ。強い能力者を観察する毎日。正に隠れ伏兵。同じ老兵であるギーラやコロッカスでは、まるで相手にならない。
単体で、【聖なる九将】の位階付けされた者と同等に戦える存在と言える。
「──重力という力をご存知かな?」
クイッと上げた眼鏡が雨に濡れないのは場を制御しているから。
「知らねぇよ!全部オレ様が叩き斬ってやらあぁ!!」
「威勢の良い犬っころだ──な」
重力負荷と同時に狙いすました雷。
「なああぁぁにイィィ!?」
落雷と重力が大地に大穴を開ける。回避したとて意味は無い。犬っころは転げ落ちる。
「──ああぁぁ……」
足場の無い闇、これで暫く合流はできない。
「深く落ちましたね」
「そうだな──が、ああいう性格はすぐに這い上がってくる」
「犬でしたもんね、尻尾あったし……あっ、もしかして、クロウ様の天候変化やめちゃうんです?」
「ああ、流石に、この巨体相手、同格にならねばいかんだろうよ」
クロウの能力を捨て、得た力は巨大化。戦場に巨人が2体出現する。
「式の仇討つ!」
「お仲間はまだ死んじゃいないとは思うが、お子様に言っても無駄か……プロレスなんぞ久しぶりだ──」
◇◆◇◆◇◆
捨てた能力は戻ってこない。脳が記憶していても発動できない。
しかし、雨は降る。
雷も依然鳴り、勢力は増す。
視界を遮り、足場を緩くする。
天上を思い通りに出来なくなったが、戦場は有利に運ぶことが出来る。
「所詮は子供」
「いたっ……ッ」
巨人が倒れる毎に地面が揺れ、大地は軋む。
「まだまだあぁ!」
「無駄だ」
「ぎゃっ……ッ」
とりわけ、知能の低い相手なら尚更効果はある。戦いは力の強い者が勝つのではない、智力の高さが物を言う。8割だったとしても、能力と能力を複合すれば対等以上に戦える。
重力負荷は、それを体現する。敵を重くし、自分を軽くする。
(ワンパターンの攻撃方法しかなさそうだしな。これならば勝利は……余裕だな)
脅威存在と認知していた征服王の一派を手玉に取れるのは、ルゥにとって嬉しいこと。
ただ一点───
(解せんな……)
であれば、カイが負ける道理がない。戦った相手が違う可能性は十分にあり、弱い相手とぶつかったと推測するしかない。
(このままでは死の華は咲かせないかもしれんな……自害というのは意味は無いし、さてどうしたものか……)
体型を戻し、ブツブツと思考する。
隙を見せていた背に獲物はかかる。
「──よくも落としてくれたな!!」
(直情的だ)
太刀の一撃は当たらない。重力負荷をかけなくても、予想できるほどに単純。
(この女もパワー系能力者、ほら回避簡単だぞ)
破壊力は凄いが、当たらなければどうという事はない。
「すました顔すんじゃねぇよ!!」
───ガキイィィン!!
太刀が空中、ルゥの首既で止まったのは重力の壁を形成していたから。
「応用が幅広い技は偉大だ、そして──」
「ガハッッ!」
バキッと骨が折れたような音とともに空間が割れたのは───
“枝折り”、
ルゥの3つ目の能力。
重力負荷により枝折りも本物同等の力を有する。図体の大きい相手が悶える姿は快感としか言いようがない。
(4つ目は使わずとも良さげだな)
一時の愉悦に浸るは老兵。
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