自己犠牲
窓の無い部屋に雷鳴。
当然の如く、誰の眼にも光は視えやしない。
外の光は見えない、しかし───
室内の光は見える。
轟きと同一化したのは、メイドたちの身体。
発光し、炸裂する。
自爆。
紅蓮の『散開』合図で各々離脱、幼女ジュンは零に抱えられ難を逃れていた。
「この国は、爆破好きが多いわね!」
「ジュン様、恐れながら……外部の者もいるようです」
破壊された部屋の隣は本会場。そこに居たのは一般的なネルの知人や有識者ではない。変装して潜り込んでいたのか、いかにも暗殺向けの服装をした者達。
「他の部隊もいますね」
「わ、わ、わぁ」
「どうってことねぇ、オレが全部蹴散らす!」
暗殺者、装束部隊、そして───
「あれって民間人??」
ゾビィーの“腐蝕死群”ほどではないが、身体が一部腐蝕しており、尚且つ劇薬の赤眼、その上で統率がとれているような一個師団の動きを見せる。
その数、万を超える。もしかすれば十万人はいるかもしれない。
全国民を集結させたと思えるくらいの圧倒数は、ネルが本物の死軍を作ったことに他ならない。
「これまた面倒ね」
「ですが、我々の敵ではありません」
「あたしも準備万端だよ」
「援護は任せてください」
「まっ、それはそう──じゃ、皆各個撃破宜しくね」
「「了解!/はい!/畏まりました」」
雷鳴と雨音に気配掻き消される中、組織【S】の反撃が始まる。
◇◆◇◆◇◆
「始まった──わね」
ネルの豪邸は、それはもう私財が空になるほど手を掛けた家だった。本人の財は元より、周辺を束ねる名門家に蓄えが無いなど有り得ない。壊れ燃えつつあるが、売れば高値が付く物は山程あった。戦いに明け暮れた生活は無かったかもしれない。
しかし、ネルの血は闘争心にまみれている。回避型の能力を持って生まれたとしてもだ。負けず嫌いには変わりない。同時に陶酔者でもあるネルにとっては、自己犠牲は痛くも痒くもない。ギルテの為なら、身を捧げるのを厭わない。
「最後までお供しますぞ」
「ありがとうギーラ、コロッカス。貴方たちには迷惑掛けてばかりね。大分疲れたでしょう?」
「いいえまだまだ、老兵は不滅ですよ」
「ふふ、頼もしわね」
とは言っても、3人の力ではSランク以上の強者には勝てない。無駄死には目に見えている。死軍も付け焼き刃、肉壁にしかならないかもしれない。万を超える兵力でも勝てる見込みは無い。
但し、勝つ必要も無い。
場を温めるだけでいい。時間をかける事が、この戦いにおいて何よりも重要だからだ。
(四隊長と殺戮集団【六根】の増兵は渡りに船ね)
四隊長のマコトが参戦しなければ、本当の意味で死軍は完成しなかった。自爆も、ここまでの退避も彼等のおかげ。ネルの部下だけでは、到底できなかった役目。
「さぁ、私の可愛い国民よ、私のために死んで頂戴」
仮設邸に后の笑い声。
音に気付き目覚めたのは───
「んにゃ?」
屋根裏で寝ていた型、満腹猫。
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