式の休日
征服王の二つ名は創造主。
ジュンに造られた守護者は計10人、改造手術を行って半守護者となった者は3人も内1人は男、正式加入はしておらず、半守護者になったことすらも知らされていない。
そしてまた、新たな守護者は増えようとしている。遂に、ジュンが守護者創造部屋へと入ったからだ。
『3日間の入室を禁ずる』という言葉は絶対、誰も破りはしない。
それは式も一緒。
ただ式は、丁度狩りから戻ったばかりだった。
食材を手に入れたことを褒めてほしかったのだが、その主はいない、邪魔もできない。
(──なら、もっと美味い物を持って帰るか……)
在り来りの肉ではない。珍味を探す弾丸旅は、今始まったのである。
式がまず訪れたのは、アリサの実家の村落。国境を意味する関所は、あまり意味を成してないが見栄えは良い。
携わった張本人も快く思っている。ここに来たのは始めて他国を踏み抜いた思い出があるのと、単純に行き来が簡単だからだ。砂漠を横断するよりはずっと歩きやすい。無論、砂漠如きに怯みはしないのだが、山を越えることだけの方が効率は良い。
「何してんだ?」
創造主ジュンが部屋に籠もっている間、守護者は自由行動、式は自由気ままに動いたつもりだが、元より命令は言い渡されていたのだ。
だから普通に、同僚の陰牢は居るし、アリサが居るのも不思議ではない。
「作物や穀類の集荷量をチェックしてるのよ」
「ふーん……」
解ったようで分からない。
式とはそういう守護者だ。
能力者としてはかなり強いが、頭は悪い。
「貴方は何しに?」
「美味い物を探してんだ」
「へぇー、そう……」
一度の会話で把握されたかのように連れられる。場所は森、村落からは離れている。
「何だよここ?」
「木の実とかの原生地ですね」
「木の実ぃ?」
補足説明するアリサ。この地は、誰の管轄でもないため採集し放題ということ。
「貴方のことだから、どうせ他にも見て回るんでしょ?だったら帰りに寄ったらいいんじゃない?」
鮮度は命。
腐った物を持ち帰るなどあってはならない。
陰牢の言葉は御尤も。
「恩に着る!」
謝辞を伝えた式は木の実を後回しにして、更に進む。
真っ直ぐ南下して辿り着いたのは、商国の王城。管理者のルドルフと守護者の紫燕には驚かれつつも目的を話したのだった。
「なるほど珍味ですか……もしくはそれに次ぐ他に流通しない食材と言えば──」
しかし、ルドルフの意見は直ぐに紫燕が却下する。
闇市で売買される物など論外である。
危険性あるものは、もっと不可。
それに、金銭の持ち合わせはない。ルドルフから借りるという問題でもない。
「では、こちらの品はどうでしょう?」
「これは……面白そうですね」
提案された品は大粒の飴。中には本物の金銭が入っている。金銭を飴状に包んだした菓子ということだ。
裕福な者達の遊びや余興の類として扱われる。
金目の物には疎いが────
「悪くねぇ」
紫燕の面白そうという発言に唆られたのだ。
「流石は嬉ション王だな」
「うれ──えっ……な!?」
弁明するルドルフの話を聞かない2人。最早、守護者の中で失禁王の名は共通認識。言葉を遮り謝辞を述べた式は王城をあとにする。
商国を出た次は、ユーリース共和国、温泉屋敷を訪ねる。
「たのもう!」
出迎えたのは、女将スズと調理師ムギ。カンネは、故あっていないそうだ。
「丁度、この前のお礼をしよう思てました」
この前とは、ゾンビ襲来の件だ。事象改変については、粗方知らされている。
「何だこれ?」
「温泉饅頭だよ」
「はい、おあがりやす」
珍味というよりは特産品だが、これは有り。
別件で訪問する際はまた別の品を用意すると言われ、それを欲したのだが、女将スズにより丁重に断られた。
(勿体ぶるなよ)
但し当然に、一応の礼は伝える。飴に加えて饅頭を袋に詰めた式は木の実を取りに戻り凱旋。
ジュンはまだ部屋から出てきていないため、零に見せる。
「これはこれは、各地の上等な品をありがとうございます」
菓子作りで負けた零は燃えに燃えており、雪辱を晴らすかのように、豪華な料理を準備しようとしている最中。
「オレ様が採ってきたんだ」
「ええ、存じています────が、まだジュン様は戻られません。時間もあるようなので、別の品を探してみてはどうでしょう?」
「別か……」
一頻り悩んだ挙句、導き出した答えは〈海鮮〉。内陸側の国々では採れない珍味を探すべく海へと潜る。
服装そのままであっても、式は自由自在に水中を泳ぐ。手当たり次第に、採って倒して狩る。
勢い凄まじく、いつの間にか海を横断していた式は、属国の1つ小国レジデントの岸辺へと辿り着く。
「なんと!ここまで泳いで来られたのですか?」
騒ぎに駆けつけたのはモウリ。
「なっはっは!オレ様最強!」
同じく事情を話すことで、新たな情報も得られる。
海底には巨大な主が居るとのこと。
「お勧めはしませんぞ!!」
「問題ねぇ!!」
圧迫する海底で身動き取れないなんてことはない。
重戦車系の式に水圧は関係ない。
能力も発動できるし、太刀も振るえる。息継ぎの我慢程度造作もない。海流に押し戻されるなら斬ればいいし、殴って道を切り開けばいいのだ。
心配は不要。
宣言通りに一発で倒した式だったが、流石に体長100m超えの大物を担いで海を渡ることは不可。
途中で身を引き千切られでもしたら、余計に鮮度は落ちる。よって、この場で調理し箱詰め、背に背負って泳ぎ帰るという手段。
余った分は、モウリたちにお裾分け。行きに狩った袋詰めの魚も持ち、またもや凱旋を果たしたのだった。
「帰ったぞ!」
濡れた服や髪は突風のように駆けることで瞬時に乾く。
「おかえり」
創造主ジュンは丁度部屋を出たばかり。名を知らぬ同僚も目の前にいるが、お構い無し。
忠犬は、いつものように御座りする。
頭を撫でられ、くぅ~んと鳴いたのだった。
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