仕事人の1日
仕事人の朝は早い。
就寝僅か数時間後の支度を常習化している。隣でぐっすり寝るポンコツメイド長を一度確認し、顔を洗い服を整えてから給仕室へと向かう。
(今日も無理だった)
ポンコツメイド長のフィは起きない。揺さぶっても叩いても。体内時計で時間設定されているのか、毎日一定の時間にならないと起きて来ない。早起きが苦手というよりは、早起きできないよう造られたかのように、一番遅い。
それをシズクが納得したかといえばそうではない。
理解はできない。
しかし、咎める身分でもないために、叱るという行為は不可。
有実の誓約で、守護者の陰牢に監視されていると思うと躊躇するからだ。
結果、起こす事への労力を避け、業務遂行に重きを置いただけのこと。
(さてと──)
給仕室で作るのは、自分たち用の簡易的な朝餉、携行できる物も多少作る。仕事の合間に食べるのは無作法だが、効率の面で了承は得ている。
但し、食べ過ぎると眠くなるので、お腹が鳴らない程度の量に限る。
朝餉を作った後は調理場。ここで作るのは商国の代表者を務めるルドルフの食事だ。
ルドルフの食事は、もう少しばかり豪華になる。そうは言っても、以前のような貴族風な立派な食事ではない。
国の財政難は回復傾向にはあるが、無駄遣いする必要がないのはルドルフ本人も理解している手前、内容に文句を言われることはない。
だが本来であれば、この仕事はシズクの領分ではない、料理長でもない。そんな人材は、女王シンディが倒れた頃からいない。
代わりを務め引き受ける役はメイド長。女王シンディが在籍していた頃からメイド長は料理仕事を兼任していた。
つまりは、フィの仕事範囲。
シズクは作業を見守る程度で良かったはずなのに、味付けまでしっかりと終わらせなければいけない状態。量が少ないだけあって調理自体に問題はないのだが、これでは業務過多、早朝に襲撃も早々ないが、未然に侵入を防ぐのは難しい。
フィの早起きは必須課題だが、なかなか改善できない。
その代わりという表現は不適切だが、昼と夜の食事はフィが担当している。
ただ残念なことに、その料理の腕前はまだまだ、味こそ食べられる程度にはなったものの、見栄えは悪い。
一人立は当分先。
加えて才能もない。採用を当時の人事に問いたいくらいだ。
(フィ様は不器用が過ぎる)
ただ幸いなことに、業務過多問題は当初より幾分かマシになった。
フィの技能向上云々の話が理由ではない。
新しく3名のメイド入職が決まったからだ。
彼女たちは全員、フィの仕事振りに触発されて、この城の門戸を叩いている。街への買い出しなど、フィのそのポンコツぶりに好印象を持ったそうなのだ。
それだけ聞けば、ただの変人ではあるが、彼女たちは至って真面目、面接中も誠実さは伝わってきたし、2人を守護する立場から見ても害無しと判断した。
ネネ(12歳)、クルル(15歳)、アオイ(18歳)の3人が友人同士というのも決め手だった。
趣味嗜好の全く違う者達に仕事を教えながら、職場環境の整備には努めたくない。
それは、面倒この上ない。無論、それもフィの仕事だが、できっこない。女性同士の問題に、ルドルフも極力関わってはこないだろう。
それに、そもそもの話、国が財政難を乗り越えつつあると言っても、城勤めは印象低下が激しかった。メイドの募集は少し前から行っていたが、業務多忙且つ安月給であり、希望に合致する人材には会えなかった。
この先ずっと、最低でも10年間2人っきりという可能性は十分にあったのだ。
だが、お金に欲のない新人3名が入ってきたことで、やっと業務は分担された。
3名がポンコツでないのも救いだった。完璧超人ではないが、それなりに才能はある。
おかげで、ルドルフ以外の城勤めの者達への食事は、アオイたちに任せる事ができている。掃除や洗濯などの業務分担も行えている。嬉しいことこの上ないが、問題が全くない訳でも無い。
5人分の朝餉を作るのは朝飯前。メイド業務の補佐も、いつも通り。覚えの早い3人に業務上という意味での苦労はない。
シズクが負担を感じているのは、純粋なお守り。
妹風な歳下の者達が4名になったのは大変。忙しさはある意味で倍増した。煩わしさこそないが、時折その言動には眉を顰めてしまうもの。
転生前のシズクに兄弟が居なかったも原因だ。加えて言うならば、友人もそう多くはいなかった。
和気藹々と女子会するのも得意ではない。
要するに、接し方が分からないのだ。
結果、疲労は少しずつ蓄積していく。
(帰りたい……)
だが、帰る場所はここ。
陰牢の能力で拘置所生活をしているようなものだが、身の安全だけは確保されている。言い換えれば、自身に害が無い以上は、平和であるということ。
次第に、慌ただしい声も聴こえてくる。
「──から、ここはこう!」
「分かりましたです!」
「あたいの記憶だともう少し右やと思うんすけどね」
「そ…だよね……」
「えぇ〜!?皆して私をポンコツ扱いするんだぁ」
「………」
4人は廊下にある額縁の位置を確かめ合っていた。朝餉を準備し終えたのに、給仕室に来ないと思って見に行くとこうである。
「何をしているのですか?」
「はい!朝ご飯を食べに行こうとここを通ったらアオイが居たのです!」
「………それでどうしたのですか?」
「はい!一緒に首を傾げてましたのです!」
「………」
ネネの言葉遣いは少し変だ。解釈の仕方も少し工夫がいる。それを砕けて伝える者が、クルル。
「あたいもそれ見た時、少し曲がってるって思ったんすよ。だから寝起きのフィ様を引っ張って来たんす」
「そうでしたか」
アオイは物静かだ。内気とも言うべきなくらい、おっとりしていることもある。
「えと……その……」
「何でしょうか?」
「冷めちゃう……かなって……」
「あ!!」
その一言で朝餉の時間が過ぎているのを一同把握も、シズクはそれを見越していたかのように、遅めに作っていたことで、問題は何も無い。
いの一番に駆けていくフィの背を見ながら、少し曲がった額縁を瞬時に直す。
能力者であれば、高さがあっても造作ない。これくらいの雑務ばかりなら楽勝も、そうはいかない。
給仕室からは皿の割れたような音が聞こえたからだ。
慌ただしい1日は、今日も始まる。
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