エピソード 紅蓮
ジュンの執務室には、守護者が2人。
赤髪ロングの軍服美女である紅蓮と小柄の紫燕である。2人は主の勝手知らない所で隣国に赴いていたらしく、その結果報告で入室している。
「つまり、無条件降伏?」
「はい、能力者は3名ほどいましたが大したことのないレベルでした。小国というのも幸いしたかと思います」
「島までは?」
ジュン達の居る地域は、とある国の先端。
海にも面しており、一応漁業もしているが盛んというほどではない。
紅蓮たちが赴いた隣国は、小国で島国。
要するに海の上にあり孤島。
他の国の支配下にあるわけでもないが、行き来は不便で、どうやって海を渡ったかが疑問に残る。
「巨大化して夢有に投げてもらいました──あとは、火炎弾などのエネルギーを利用して不時着したような形です。帰りは向こうの船を利用して戻ってきました。今後は様々な面で我々を援助してくれるでしょう」
「な……るほど」
(えっ!?なにそれ?マンガかなにか?てかなに?もしかしてもう政治的な取り決めも終わっちゃった感じ??政治に強い設定にはしたけど早すぎでしょうよ!式も怒っちゃうわよ)
「私は終始見ているだけでした。紅蓮様はお強いですよ。私は出番ナシでした」
「敬称は不要だぞ紫燕。同じ守護者で身分に差はない、呼び捨てで構わない」
「あっはい、分かりました」
紅蓮の能力は、“獄炎─世を正す者─”。
灼熱の炎は全てを焦がす。
一定範囲を炎熱領域にできるのも魅力的。また腰には剣も携えているため、近距離戦も可能とする、隙の無い守護者。
「これで残りは小国2・大国9の合計11国になりました。今後は我々の居住する国の制圧になるでしょうが、私の見解では隣国のように圧倒的な力で制圧できると考えます。世理から報告が上がっているように、この国は他に比べても強者は少ない様子、ご命令とあらば、いま直ぐにでも動きますが如何でしょうか?」
(いや早いよ早い早すぎだってば!!確かに攻めはするけど展開早いって、1回落ち着きましょう。そう、深呼吸。スー…ハー…って、落ち着けるわけないでしょうが!!はぁ、優秀すぎるって困りものね。軍服美女は眼福だけどハイスペックすぎて疲れちゃうわ。ここはもう一度深呼吸しましょう。彼女達にも焦る必要はないって伝えなきゃね)
「功を急く必要はない、今後は追って伝える」
「承知しました」
反対意見なく従順だったのはかなり意外であり、静かに退室していく2人。
紅蓮の後ろ姿を、ジュンは見つめる。
(姿勢いいわねぇ。軍服でも、お尻のラインが分かるのっていいわぁ)
早乙女純は通常運転。
◇◇◇
次の日、ジュンは紅蓮の部屋を訪れようと古城内を歩いていた。前日の件で、式と一悶着あったと耳にしたからである。
(やっぱり怒るよねぇ、一番槍は自分って、ずっと吠えてたものね。小国なら問題ないってことにはならないか。国家反逆の狼煙?みたいなのもまだ挙げてなかったしね。でも世界征服については守護者に任せる方針を取ってた私が悪いのかもだし、ここは2人の緩衝材くらいの役目はしないとよねぇ)
「俺だ」
「どうぞ、お待ちしていました」
紅蓮は丁寧に茶を準備していた。
教養のある彼女は紅茶も酒も嗜む。
零のような気品さは無くとも、一般的な礼儀はある。
守護者の中では、一番に零、二番に陰牢、三番に紅蓮、四番に唯壊と言った具合で、お嬢様風の社交性がある。
軍服を着ているからといって、戦い以外に能が無いのではない。頭脳トップ3には入らないが、彼女もそれなりに頭は良いのだ。
そして見た目通り、規律に厳しいという一面もある。欠点の少なさが魅力ではあるのだが、今回の件は流石に行動が早すぎた。
せめて守護者間では、事前に話し合ってほしかった。
ただこれは、後の祭りでどうしようもない。
導火線の炎は消えない。世界征服のための第一歩はジュンの知らない所で歩んでしまっていた。
これからは進んでいくしかない。
しかしその前に、やる事が1つ。
独断専行のことではない。
それは、守護者間の仲違いを止めること。
せっかく時間をかけて丁寧に創った守護者達なのだ、喧嘩はしてほしくないと思うのは当たり前。
「式と言い争ったと聞いたぞ」
正しくはバトルにまで発展したらしいのだが、敢えて言わない。
「いつものことです。式は沸点の低い性格ですから」
「それでもだ。次は罰則を与えるやもしれぬ。肝に銘じておけ」
「はい、承知しております」
一応の釘は刺すが、これでは緩衝材にならない。
自分を間に挟む必要がある。
「だが俺の所為でもある」
「そのような事はございません。私の判断ミスであり、ジュン様に非があるなんてことあるはずがありません」
「守護者のミスは俺のミス、今後はそう思え」
「つっ……ッ、承知致しました!」
「紅蓮、お前には期待している」
「身に余るお言葉ですが、誠心誠意尽くす所存でございます」
「うむ」
寡黙設定なのに話しすぎたと思うのは野暮。
叱る時くらい大目に見てほしい。
(今はこれくらいでいいかしら?これからはもっと大変になりそうだけど、未来の私に期待しましょう。それにしてもやっぱり軍服姿って格好いいわね。こんな美女に養われるなら多少厳しくてもいいかもしれないわ。私は受けも攻めもイケるし、ドM適性もある。未来が楽しみで仕方ないわ。あぁ、女になるのが待ち遠しい)
ハーレムライフを妄想する早乙女純だったが、導火線の炎がかなりの勢いで燃え広がっているとは、全く思っていなかったのである。
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