魅力アップ
「ふぅ……うまかった!」
日替わりランチを完食した太一は、満足感に包まれていた。
クエストも無事クリアし、再びステータスポイントを手に入れたのだから、言うことはない。
――ピロン!
耳に響く例の電子音。
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《ステータスポイント +1 獲得!》
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「これで合計1ポイント……さて、どこに振るか?」
再びステータス画面を呼び出す。
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【ステータス】
•名前:佐藤 太一
•レベル:1
•体力:6
•筋力:3
•俊敏性:2
•知力:1
•魅力:0
•ステータスポイント:1
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体力を上げたことで昨日よりはるかに身体が軽い。
ならば次は筋力や俊敏性を伸ばして、運動面をさらに強化するのが妥当かもしれない。
しかし、太一の目は自然と**「魅力:0」**の項目に釘付けになった。
「魅力、ゼロか……」
まるで己の人生そのものを突きつけられたような気分だ。
「ちょっとくらい、モテる男になってみたいよな……」
太一の高校生活は、決して華やかなものではない。
恋愛経験もなければ、女子から話しかけられることすら稀だった。
そんな自分を変えたい。
「魅力に振ったら、何か変わるかもしれない!」
そんな淡い期待が、太一を突き動かした。
――ステータスポイントを1消費しますか?
「はい!」
心の中で強く念じる。
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【ステータス】
•魅力:0 → 1
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たった1ポイントの変化。
見た目が変わったわけでもない。
髪の毛がサラサラになったわけでも、目がキラキラしたわけでもない。
「……何か変わったのか?」
手鏡を取り出して顔を確認してみるが、やはり普段と変わらない。
「くそっ、無駄遣いだったか……?」
少しの後悔を覚えつつも、次の授業に向かうため教室へ戻ることにした。
教室に戻ると、いつもと変わらない景色が広がっていた。
「おーい、太一!」
矢崎が手を振っている。
「学食で何やら騒いでたらしいじゃねえか。何があったんだよ?」
「いや、ちょっと色々あってな……」
軽く笑って誤魔化しながら席に着く。
すると、ふと周囲の視線を感じた。
「……ん?」
気のせいか、何人かの女子がこちらをちらちらと見ているような――
「いや、そんなわけないだろ。」
今までモテたことなど一度もない太一が、急に注目される理由などあるはずがない。
――ただ、魅力を1ポイント上げただけなのだから。
昼休みが終わり、次の授業が始まった。
相変わらず退屈な数学の時間。
先生の説明は単調で、黒板に書かれた数式はまるで呪文のようだった。
「……眠い。」
重いまぶたに抗いながら、太一は机に突っ伏した。
そのとき。
「佐藤くん、ここ分かる?」
不意に名前を呼ばれ、太一は飛び起きた。
視線の先には、隣の席の女子――桜井萌がいた。
「えっ!? さ、桜井さん?」
長い黒髪に、整った顔立ち。
清楚な雰囲気を纏った彼女は、学年でも指折りの美少女として知られている。
そんな彼女が、なぜか太一に話しかけている。
「ここの問題、ちょっと難しくて……」
「あ、えっと……」
慌ててノートを覗き込む太一。
だが、無情にもそこに書かれている数式は意味不明だった。
「知力1の俺に分かるわけがない……!」
それでも何とか答えようと口を開きかけた、そのとき。
「あー、ここはね、こうやって因数分解すると簡単だよ。」
矢崎が横から助け舟を出した。
「あ、なるほど! ありがとう、矢崎くん!」
嬉しそうに笑う桜井。
だが、太一はその視線が再び自分に向けられていることに気づいた。
「佐藤くんも、ありがとね!」
「えっ!? いや、俺は何も……」
「ううん、相談に乗ってくれて嬉しかったよ!」
微笑みながらそう言う桜井。
太一の心臓は、バクバクと音を立てていた。
「これが……魅力1の力……なのか?」
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新たな可能性
放課後。
家に帰る途中、太一は再びステータス画面を呼び出した。
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【ステータス】
•魅力:1
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たった1ポイント。
だが、その1ポイントが、確かに何かを変えた。
「魅力を上げれば、俺の人生はもっと変わるかもしれない……!」
新たな希望を胸に、太一は次のクエストを待つことにした。